中堅・中小企業IT投資

働き方改革/DXか在宅勤務/テレワークか

ノークリサーチ 岩上由高 氏
シニアアナリスト

 昨年の中堅・中小企業のIT投資は、働き方改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けられるはずでした。働き方改革においては、中小企業に対しても働き方改革関連法が2020年4月から本格施行されています。しかし、新型コロナウイルスの発生によって、在宅勤務やテレワークへの対応に多くの投資が費やされることになりました。

 今年はどうなるか。新型コロナウイルスの収束状況に応じて、働き方改革/DXと在宅勤務/テレワークのどちらに比重が置かれるかが決まっていくでしょう。ただし本来であれば、大企業と同じく中堅・中小企業においても、少子高齢化による人手不足などを補う働き方改革や、新たなビジネスを創造して企業競争力を高めるDXへの取り組みにIT投資が行われていくべきです。

 このような背景を踏まえた上で、2021年の中堅・中小企業のIT投資における注目ポイントを、ソリューション、業務アプリケーション、インフラの側面から分析しました(右ページ上図参照)。

 まずインフラでは、中堅・中小企業でも新しいシステムについてはクラウドファーストを前提とする傾向が高まっています。一方で、オンプレで拡張性も高いHCIの選択もあります。HCIはシンプルな構成であるため、迅速なシステム構築、可用性の確保、運用負担の軽減などが訴求できるポイントです。クラウドかHCI(オンプレミス)かの選択は、稼働させる業務アプリケーションやそれらを活用したソリューションが決定権を持ちそうです。例えば、ERPを中核として、情報系との統合やRPAによる自動化/効率化を進める場合、ERPでは依然としてオンプレミス環境が多いことも影響してHCIが選択されやすくなると予想されます。ですが、HCIの利点を生かすためにはERPやRPAを十分に使い込む提案が大切です。

 ERPについては、中堅・中小企業における課題が「データ連携」から「データ活用(集計/分析)」へと変化しています。RPAについては2019年の調査では働き方改革/DXを目的とした複数のシステムをまたいだ活用が進むと考えられましたが、2020年の調査ではデータの転記という限定された用途が増えました。これは在宅勤務/テレワークを実現するためのペーパーレス化が影響していると考えられます。RPAが果たすべき本来の役割を考えると、適用範囲が限定され過ぎない方が望ましいと言えます。HCIの利点を生かすためにも、ERPやRPAの活用提案がポイントとなってくるわけです。

 一方、新たな業務システムの構築を迅速に進める場合にはノーコード/ローコード開発ツールも有効な選択肢となります。PaaSに代表されるようにクラウド形態であることも多いので、インフラとしてはERPやRPAと比較するとクラウドが選択されやすくなるでしょう。新規構築のニーズは働き方改革/DXと在宅勤務/テレワークのどちらにおいても発生する可能性があります。

既存システムと新規構築の違いも意識

 RPAとノーコード/ローコード開発ツールは業務システムの迅速な構築/改善という点でユーザー企業から見た場合の目的が近いのですが、前者は既存システムが主な対象であるのに対して、後者は新規構築の手段であるという違いがあります。こうした既存/新規の違いも意識することが大切です。ワークフローには、申請・承認ツールとしてだけでなく、基幹系・情報系システムとの連携や複数システムをまたいだ自動化を担う業務フロー基盤としての役割が期待されますが、同じ役割をRPAやノーコード/ローコード開発ツールが担う可能性もあります。こうした業務フロー基盤の担い手が何になるかについても注視していく必要があります。

 今後のIT活用の方針は働き方改革/DXと在宅勤務/テレワークのどちらに比重が置かれるかを軸として、それらにオンプレミス/クラウドの選択、新規/既存の違い、業務フロー基盤の担い手は何か、などが複雑に絡み合って決まっていきます。

 ITサプライヤーはこうした背景を踏まえながら最適なソリューション提案をしていくべきでしょう。