戦略段階からAzureサービス構築をサポート
「Microsoft Cloud Adoption Framework for Azure」

クラウド導入の選択肢として、頑丈なリージョン構成を採用し、国内シェアが高いWindows Serverと連携可能なMicrosoft Azureが最適であることは前号の本企画で解説した。次のステップとして、効率的なシステム移行や新規ビジネス創出につなげるためにはAzureをどのように導入すれば良いのだろうか。そうした課題を解決する「Microsoft Cloud Adoption Framework for Azure」を解説していこう。

システムの検討プロセスを効率化

日本マイクロソフト
パートナー事業本部 第一アーキテクト本部
クラウド ソリューション アーキテクト
久保智成 氏

 Microsoft Azureの導入を成功させるためには、ユーザー企業が求めるビジネス戦略やガバナンス要件のもと、費用対効果やビジネスへの影響・効果を検証する必要がある。しかし、ユーザー企業が一からクラウド導入プロジェクトを立ち上げると非常に時間がかかる。そこで、マイクロソフトではAzureに特化してビジネスおよびテクノロジー戦略の構築と実装を支援するガイダンス「Microsoft Cloud Adoption Framework for Azure」(CAF)を提供している。

 CAFはビジネスの目的や成果を定義する「戦略」、具体的なクラウド導入計画を作成する「プラン」、クラウド基盤の仕様を調整する「Ready」、各ワークロードを評価し環境の移行を開始する「採用」、企業ポリシーを定義する「ガバナンス」、運用管理を行う「管理」の六つのステージで構成し、各ステージに応じたガイダンスを用意している。最初から全てのステージの内容を完全に策定する必要はなく、ビジネスや組織の変化に合わせて後から項目を追加することも可能だ。日本マイクロソフト パートナー事業本部 第一アーキテクト本部 クラウド ソリューション アーキテクトの久保智成氏は、「クラウドは導入して終わりではなく、継続的に運用していく必要があります。要件の追加や削除も可能で、反復的な運用によってクラウドをビジネス効果の創出に役立てられるのがCAFです」とその有用性を語る。

 戦略のステージでは、クラウドを導入する目的や、KPIといった財務上の考慮事項などをWordファイルの「戦略と計画テンプレート」に記入していく。このビジネス戦略の策定を行うにあたって、久保氏は以下のように提言する。「クラウド導入を円滑に進める上では、ビジネスの目的を整理してクラウドの活用意向とそれに合わせた目標などを明確に定義することが重要です。例えば、Windows Server 2008のサポート終了に伴うクラウドへの移行が最初の動機であれば、どの時点までにどこまでの移行を行い、その後どういった段階を経てクラウドを基盤としてサービスを開発するかといった各チェックポイントまでの計画立てをします。クラウドネイティブな仕組みを作る場合でも、CAFのどの項目を組み合わせて利用するかというフローの説明がドキュメントにあるので、それに沿って進めれば戦略の策定が可能となります。Azureを導入する企業さまは、どの時点までにどの地点を目指してビジネスの道具であるクラウドサービスを活用していくのかといった考慮事項を検討できます」

 戦略が確定したら、次にプランを立てていく。プランのステージは人員体制の検討も含むブロッカー要素の対応項目も戦略と計画テンプレートに用意されている。CAFでは、導入にあたってクラウドの運用の成功を目的とした「Cloud Center of Excellence」(CCoE)というチームを立ち上げることを推奨している。とはいえ、最初からバランスのとれたCCoEを編成できる組織は少ない。そのため最小構成としてクラウド導入チームとガバナンスチームの2チーム編成から始められるように各ガイダンスが記述されている。また、プランでは「総保有コスト計算ツール」や「Azure料金計算ツール」など導入コストに関するツールも活用できる。Azureの運用費用を即時に見積もりも可能なため、コスト算出の負担軽減に役立つ。

 Readyでは、システムをオンプレミス環境からAzureに移す際にホストするための環境「ランディングゾーン」の構築を支援する。Azureのセキュリティ、ガバナンス、ネットワークおよびID要件などを考慮したAzure環境構成を検討する項目となる。ランディングゾーンは、Microsoft Azureポータルからも利用できる「Azure Blueprints」やCAFドキュメントの「実装オプション」から構成可能だ。ユーザーの権限や必要な制限ポリシーなど運用環境を用意した上でアプリケーションを作り込んでいける。

クラウドは反復的な運用が必須

 採用のステージに入ると、クラウドネイティブなシステムを構成する場合の開発シナリオやベストプラクティスの検証といった要件を検討する必要がある。例えば、AI機能を自社のアプリケーションに追加するためのベストプラクティスなど目的や求める成果に応じたドキュメントを確認できるのだ。より迅速にシステムを構築するためのツールも紹介している。「移行するシステムや体制を含む準備状況を分析・評価し、現在の状況に最適なガイダンスを特定するツールとして『Strategic Migration Assessment and Readiness Tool』(SMART)を提供しております。SMARTでは、組織内のシステムの現状に関する質問に回答していくと最適なガイダンスが提示されます。その中でもレッドゾーンとして示される部分を優先的につぶしていくことでクラウド運用時のブロッカー、リスク、問題点を明確化し、反復的な運用に役立てられる仕組みです」(久保氏)

 CAFでは、ガバナンス管理の面で組織とシステムの反復的な改善を行うことも可能だ。ガバナンスのステージは、5分野でガバナンスモデルを体系的に構築可能な各種テンプレートを活用できる。セキュリティ要件、リソース構成の妥当性、ID定義などの分野でガバナンス要件の一貫性を確保し、クラウドを効率的に展開可能だ。

 クラウドに限らない話だが、ワークロードのビジネスインパクトに合わせてシステムが停止したときの影響時間の計算や、履歴的損失などクラウド管理におけるビジネスへの影響を考慮する必要がある。管理のステージでは、それらの運用管理に関してのルールの策定が可能なAzure管理ガイドを活用し、保護と復旧など、適切な運用管理プロセスのガイダンスとテンプレートを設定可能だ。CAFは、顧客のビジネス背景から求められるさまざまな要件に応じて、クラウド導入を推進できる項目を豊富に用意しているのだ。

 CAFは複数の形態で提案できると久保氏はアピールする。「CAFのツールやテンプレートをユーザー企業さま自身で整理して進めることももちろん可能です。パートナーさまがユーザー企業さまのクラウドジャーニーを並走するようにCAFを活用することで、幅広いステージで長期的にユーザー企業さまを支えるケースもあります。また、当社でもコンサルティングサービスなどを提供しております。ユーザー企業さまのビジネス目標に向けたクラウドの利用に当社やパートナーさまのサービスを用いればより効果的に活用できます」