学習用と校務用の端末をChromebookで統一
日常的な活用がICT教育の定着を促す

静岡県浜松市の蜆塚遺跡にほど近い場所に位置する浜松海の星学院浜松聖星高等学校(以下、浜松聖星高校) は、カトリック系ミッションスクールとして、心の教育を土台としながら、国際教養教育と理数 (STEAM) 教育に重点を置いている。その学びの中で採用されているのがChromebookだ。学習用端末としてはもちろん、校務用端末としても運用されている同校の Chromebook活用を取材した。

まずは教員から活用をスタート

 浜松聖星高校の前身となる浜松海の星高等学校は、聖ベルナルド女子修道会によって設立された女子校だ。2017年4月1日に男女共学化を実施したと同時に、現在の校名へと変更された。そうした学校の転換期とも言えるころに着手されたのが、ICT教育の推進だ。2018年から端末の選定を始め、一部の教員向けに導入を実施したのがChromebookだった。

 同校のICT教育整備推進に携わった浜松聖星高校の事務長 櫻井伸吾氏は、当時を次のように振り返る。「ICT教育に伴う端末整備を指示された際、まず頭に浮かんだのがコストの問題です。授業で端末を活用するには、生徒1人に1台の端末を、保護者負担で購入して整備することがベストです。しかし起動が速く、俊敏な動作をする端末をWindowsでそろえようと考えるとコスト負担が大きく、家庭に負担してもらう際のボトルネックになっていました」

 そこで出会ったのがChromebookだったという。当時はあまり普及が進んでいなかったChromebookだったが、教育ICT関連のセミナーでその存在を知り、起動や動作の速さに驚いたという。「端末本体の価格が手頃であったことに加え、クラウドベースで動作しデータを共有する設計の斬新さに非常に衝撃を受けました」と櫻井氏。

 一方で当初は、教員用の校務端末としてChromebookを導入する予定はなかったとも話した。すでに教員が使う校務用端末としてWindowsがあったからだ。しかし「本校の理事長から『教員も子供たちが使う端末と同じものを使うべきだ』と強く言われ、まずは教職員から導入をスタートしました。当時はWindowsに比べて、Chromebookはできることが制限されるため校務用端末としての利用は懐疑的でしたが、結果として日常的にChromebookや教育機関向けのグループウェア『Google Workspace for Education』を使いこなすことにつながり、本校のICT教育を大きく後押ししてくれました」と櫻井氏は語る。学習用端末は2020年度の新入生から導入をスタートし、現在では学校全体で1人1台の環境が整備されている。

生徒が日常的に使うChromebookは持ち運びやすさと堅牢性を重視。「Google Forms」で授業の理解度なども測れる。
理科室や生物室にはディスプレイタイプの電子黒板のほか、電子顕微鏡も整備。電子顕微鏡で拡大したプレパラートなどを大画面で共有できる。
地歴公民科の美和氏は、Google Earthを活用して歴史上の出来事とそれに関連する場所を授業で振り返った。
数学の授業ではプロジェクタータイプの電子黒板を活用し、証明問題の解法を共有。電子黒板上で手書きをしてもスムーズにChromebookに反映される。

校務用端末に求められるスペック

 それでは同校の授業の中では、どのようにICT教育ツールを活用しているのだろうか。地歴公民科教諭の美和裕子氏は導入当時、教員の代表としてChromebookを最初に活用したメンバーの一人だ。「導入当時は戸惑いましたが、起動が速く授業でも使いやすいと感じました」と美和氏。授業では電子黒板に「Google Earth」で地図を表示し、鎌倉時代の流れを振り返りながら、当時の寺社仏閣などがどこにあるかをGoogle Earth上で表示して見せた。このGoogle Earthは、実はChromebookの性能が低いとスムーズに動かないケースがある。浜松聖星高校の校務用端末として採用されているASUS JAPANの「ASUS Chromebook Flip CX3(CX3400)」はインテル Core プロセッサーを搭載した端末で「実は性能も価格もWindowsとほぼ遜色ないモデルです」と櫻井氏。校務用のChromebookは、使い続けるうちに画面サイズが大きく、性能が高い方が作業がしやすいとスペックアップし続け、現在使用しているのは今年導入したばかりの3代目のモデルだという。教員が常に持ち歩き、手帳のように使えるように堅牢性が高く、ペンが付属しているモデルにこだわって選定された。また画面サイズも14インチのモデルを選択するなど、Chromebook1台で校務をスムーズに行える端末選定を実施した。

 プロジェクタータイプの電子黒板は、数学科教諭の鈴木瑶介氏や理科教諭の小笠原祥子氏も同様に授業で使いこなしている。鈴木氏の授業では導入しているテストの採点システムを活用し、生徒の名前は非公開にした状態で証明問題の解法を表示し解説を行った。「生徒それぞれの解答に『この書き方は良くない』と書き入れることはできますが、生徒同士ではその内容を把握できません。間違い方を学級全体で共有することで、正しい証明の書き方を学べます」と鈴木氏は話す。このプロジェクタータイプの電子黒板は全ての普通教室に導入されているほか、特別教室には用途や仕様に合わせてプロジェクタータイプとディスプレイタイプの電子黒板をそれぞれ導入している。「理科室や生物室などには電子黒板に加えて電子顕微鏡も導入されたため、電子黒板に接続して生徒に拡大した様子を見せたり、実験をするときの参考資料を電子黒板に表示させたりしています」と小笠原氏は話す。

 学習用端末にはASUS JAPANの「ASUS Chromebook CR1(CR1100FKA-BP0002)」を採用。こちらは持ち運びがしやすいよう11.6インチのモニターサイズの端末で、落下させても壊れないようMIL規格に準拠した堅牢性の高いモデルを選定している。鈴木氏などは、電子黒板の内容を生徒の端末にも表示させ、ノートを取る手間を削減しながら内容への理解を深める授業を実践している。

 櫻井氏は「Chromebookを導入したことで、教員は『授業が効率化された』と口をそろえています。また視覚的に理解を深めたり、双方向型の学びが実現できたりするメリットも大きいようです。今後は、校務をChromebook1台でこなせるよう、現在共用PCとして職員室に設置しているWindows端末に、リモートでアクセスできるような仕組みの導入を検討しています」と展望を語る。Chromebookで統一された浜松聖星高校の環境は、これからさらに高度なICT活用へと進んでいきそうだ。