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AIを活用して文化財の防火対策に取り組む川越市の実証実験

AIを活用して文化財の防火対策に取り組む川越市の実証実験

2022年06月22日更新

AIが文化財の火災をいち早く検知
「火災防止監視システムの実証実験」

近年、歴史的建造物や重要文化財建造物の大規模火災が後を絶たない。2019年4月のフランス・パリにあるノートルダム大聖堂での火災、2020年10月の沖縄県那覇市にある首里城での火災は社会に大きな衝撃を与えた。こうした悲劇を繰り返さないためにも、歴史的建造物や重要文化財建造物に対する防火対策の徹底が求められる。そこで、埼玉県川越市とイーアイアイ、セントラル警備保障が行ったのが「文化財に対する火災防止監視システムの実証実験」だ。文化財の防火対策にAIを用いた先進的な取り組みである。

文化財を火災から守る

埼玉県川越市
埼玉県の中央部よりやや南部、武蔵野台地の東北端に位置する人口35万3,137人(2022年5月1日時点)の中核市。新河岸川の舟運や川越街道で江戸とつながっていたことから、江戸文化の影響を多く受けており、歴史情緒あふれる情景を感じることができる。蔵造りの町並みやユネスコ無形文化遺産に登録された川越氷川祭の山車行事など魅力ある歴史的・文化的遺産が数多く残っている。

 埼玉県川越市は、指定文化財250件(国指定13件、県指定42件、市指定195件)、国の重要伝統的建造物群保存地区1件、重要美術品2件、登録有形文化財12件、登録記念物1件の総計266件(2021年3月時点)の文化財が所在する県内有数の自治体だ。中でも建造物関係は指定・登録を含め77件(国、県、市指定と国登録)、さらに国の重要伝統的建造物群保存地区内には136件の伝統的建造物が市民生活圏の中に存在する。歴史と伝統を色濃く残し、それらを生かした魅力ある町づくりが行われている。

「ノートルダム大聖堂や首里城での火災を受け、文化庁から全国の自治体に対して文化財に対する防火対策の検討・実施を促すガイドラインが公表されました。改めて文化財に対する防火対策の見直しや強化を図る必要性が高まっています。川越市は1893年に『川越大火』と呼ばれる大規模な火災が発生したことを機に耐火性に優れた『蔵造り』の建造物を再建し、現在の町並みが形成されました。蔵造りだから安心だと考えるのではなく、万が一の場合に備えたさらなる防火対策の必要性も感じていました」と川越市教育委員会 文化財保護課 調査担当 副主幹 宮原一郎氏は話す。

 そうした中、AI火災検知システムを開発するイーアイアイから実証実験の話を持ち掛けられたことをきっかけに今回の「文化財に対する火災防止監視システムの実証実験」を行うことになったという。イーアイアイ 常務執行役員 技術士(衛生工学) 小林 均氏は次のように振り返る。「当社のAI火花検知システム『Spark Eye』は画像認識AI技術を用いたカメラにより、火災の起因となる火花や炎の発生を瞬時に自動検知してアラートを発報するシステムです。主にリチウムイオン電池を粉砕する際に発火事故が多い廃棄物処理施設などで導入されています。Spark Eyeの営業活動を行う中で首里城での火災、文化財の放火による火災が多いといった実情を知り、Spark Eyeを防火対策に生かせるのではないかという思いから、文化財向けの機能を強化した技術開発を進めました。それと同時に実証的な利用場所を探す中で川越市さまに受け入れをしていただきました。川越市さまにおける文化財は生活と融合した特長を持っており、文化財を火災から守ることは住民の命を守る取り組みにもつながります」

炎を瞬時に察知

 文化財に対する火災防止監視システムの実証実験は2021年9月末から2022年4月末までの期間、川越市の指定文化財(史跡)である原田家住宅の東蔵で行われた。原田家住宅の東蔵は敷地内の裏側の人目に付かない場所にあり、放火の恐れがあるとして選定された。火災検知後の警備員の駆け付けには、セントラル警備保障の協力を得ている。

「Spark EyeはAIが火花や炎を画像認識するため、赤外線センサーなどと比べて誤検知が少なく、画像で実際の火災状況を確認できるのが特長です。実証実験に用いたSpark Eyeは、火花や炎の発生を瞬時に自動検知してアラートを発報する機能に、24時間のリアルモニタリング機能を付けて屋外使用を前提に技術改良を施したものです。屋外における文化財の放火の抑止や火災延焼の防止に向けたシステムとなっています」(小林氏)

 文化財保護課の立ち会いのもと、原田家住宅の東蔵に設置したSpark Eyeの監視エリアに10cm以上のサイズの火を作り、次のような流れで実証実験を行った。

1.設置したSpark Eyeが火災を検知すると、コントロールユニットからセントラル警備保障の制御装置へ信号を送信。同時に火災発生の情報を管理者へメールで送信。
2.信号を受け、ガードマンが火災現場に急行。
3.火災状況を現地で判断した上で消防(119)へ連絡。
4.3.とともに一次対応として消火活動を実施。
5.鎮火後、消防に現場の画像データを提供。

火災の被害を最小限に抑える

 実証実験の結果や得られた成果について小林氏と宮原氏はそれぞれ次のように話す。

「火災の検知からガードマンへの警報、火災監視映像の確認といった火災防止監視システムとしてのSpark Eyeの有用性を示すことができました」(小林氏)

「火事があった際に誰が駆け付けるのか、担当者が夜中でも対応できるのか、といった点が問題の一つとなっていました。Spark Eyeが警備会社や担当者に通知するなどの対応を担うことで、火災発生時の対応がスムーズになり、火災の被害を最小限に抑えられるのではないでしょうか」(宮原氏)

 今後も川越市、イーアイアイ、セントラル警備保障の3者は実証実験の結果を基に実用化に向けて取り組みを進めていく予定だという。「川越市に限らず、どの地域においても文化財の防火対策は課題の一つです。火災発生時にどのように対応していくのか、備えや準備の徹底が求められています。そうした中で、Spark Eyeは文化財を保護する重要な役割を担う製品だと言えるでしょう。多くの文化財を有する地域の防火対策の課題解決に役立てられるのではないでしょうか」と宮原氏は期待を語った。

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