Vol.2

アプリ開発を身近にしてくれる
すぐに使えるツールの操作手順

前回はデジタル化されていない、デジタル化しづらい業務を「Power Platform」を利用して現場で簡単に必要なアプリを作成するローコード開発のビジネスの魅力について解説した。ではPower Platformを利用すると、どのくらい簡単に、どのようなアプリが業務の現場で作成できるのか。今回は操作の手順や実際の事例を交えてPower Platformの開発環境を解説する。

元データがあれば
ノーコードで作成可能

日本マイクロソフト
ビジネスアプリケーション事業本部
プロダクトマーケティングマネージャー
平井亜咲美氏

 Power Platformで提供されるPower Appsを使えば、簡単なアプリならばノーコードで作成できる。日本マイクロソフトの平井亜咲美氏は「Excelで管理しているデータをPower Appsに読み込ませるだけで、データの参照や入力ができるアプリが自動的に作成できます。作成したアプリはPCとスマートフォンの両方から利用できます」と説明する。

 例えば商品情報をExcelで管理しているとしよう。別掲画面のサンプルではフローリングやカーペットなどの床材の商品をExcelで管理している様子だ。Excelには商品名や商品写真、商品マスター、材質、サイズ、価格など商品の付帯情報が登録されている。自宅や外出先でスマホからネットワーク上のストレージに保管されているExcelファイルにアクセスして参照したり入力したりする場合、表示や入力に時間がかかりストレスを感じるものだ。

 そこでExcelファイルへの操作をPower Appsでモバイルアプリ化して動作を軽快にしよう。まずPower Appsを開いてサインインして「データから開始」を選ぶ。そして対象となるExcelファイルを指定して読み込ませる。するとPower Appsを起動してからものの数分でモバイルアプリが完成する。

 このように元のデータがあればPower Appsでアプリを作成するのは非常に簡単であることが分かる。Power Appsでアプリを自動生成できるのはExcelファイルのほかにSharePoint、Power Platformと連携するデータストレージであるDataverseに格納されたデータ、さらにサンプルアプリやテンプレートも用意されている。

サンプルアプリで幅広い業務を
簡単にデジタル化できる

 上記のソース(データやファイル)からPower Appsで自動生成されたアプリは自在にカスタマイズができる。先ほどの床材の商品管理アプリならば、リストのレイアウトの変更や項目の追加、削除、タイトル文字の変更や入力、図形の追加といった装飾など、感覚としてはPowerPointのスライドを作成するような操作でカスタマイズできる。

 データが用意されていなくてもサンプルアプリを利用すれば、カスタマイズするだけで業務に適したアプリが作成できる。Power Appsにはたくさんのテンプレートが用意されており、例えば予算管理、有給申請、経理など主な業務はテンプレートでまかなえるだろう。

 テンプレートにはあらかじめ機能が埋め込まれているため、機能の配置やデザイン、項目名などのユーザーインターフェースをカスタマイズするだけで便利に利用できる。テンプレートはPower Appsだけではなく、ほかの企業や個人が作成したものが無償で提供されているなど広く流通している点も魅力だ。

 平井氏は「パートナーさまがテンプレートそのものを販売するビジネスモデルもありますし、例えば自社で作成したアプリをテンプレート化してTeamsと組み合わせて販売するなど、お客さまへのアプローチのフックにも活用できます」と説明する。

 Power Platformは身近な業務を簡単にデジタル化できるだけではなく、規模の大きな対応が求められる業務にも活用できる。例えば神戸市では新型コロナウイルスに関連した市民サービスをPower Platformで作成したアプリを通じて提供した。

 特別定額給付金の受付状況を確認できる「特別定額給付金の申請状況等確認サービス」、市民からの健康相談に対してチャットボットであるPower Virtual Agentsが24時間自動対応する「新型コロナウイルス 健康相談チャットボット」、そして集計されたデータをPower BIで自動的に可視化するとともに、分散する複数のデータを一覧できるよう公開サイトを統合した「ダッシュボード」の三つだ。

 これらのサービスはたった一人の職員が1週間ほどでPower Platformを使って作成した。その結果、コールセンターに殺到する問い合わせが緩和され、市民の利便性が向上した。

業務を自動化するアプリも
低コストで簡単に作成できる

 神戸市の事例の通りPower Appsで作成するアプリをVirtual AgentsやPower BIと組み合わせることで、適用範囲が広がることが分かるだろう。さらに業務アプリを連携させる活用方法もある。例えば受領した請求書を自動的にSAPに登録する仕組みだ。

 まずPower Appsで作成するアプリに請求書のフォームを登録する。その際、AI Builderで請求書を数回読み込ませて項目の分類を教える。すると作成したアプリはAI Builderと連携して、受領した請求書(の画像)から文字や通知を認識し、アプリがPower Automateを連携して認識した数値をSAPに自動的に登録する仕組みだ。Power AutomateはSAPを起動してサインインし、入力先に数値を入力するという作業を自動化する、いわばRPAのようなアプリを実現する。

 平井氏は「数名で処理しているような業務にRPAを導入するのはコストに見合わないという場合、Power Automateはスモールスタートできるのでデジタル化が可能になります」とアドバイスする。

 さらにPower Appsは古いシステムの利便性向上にも役立つ。例えばマイクロソフトの社内ではSAPで構築した有給申請システムが利用されているが、システムが古いためモバイル対応していなかった。そこでPower AppsでSAPのデータはそのままで、参照や入力するインターフェースのアプリをPower Appsで作成してモバイル対応した。

 SAPのデータをPower Appsを含むPower Platformと連携させるために、データコネクターというサービスが提供されている。連携先が独自のシステムのデータの場合はカスタムコネクターを作成することで対応できる。さらにオンプレミスの場合はデータゲートウェイというサービスも利用できる。

 Power Platformは社内の業務のデジタル化促進とともに、デジタル化が取り残されている業務へのアプリの提供や既存システムの利便性向上など、顧客への新たなビジネス提案にも活用できるのだ。

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 最終回となる次回はデータコネクターやDataverseを活用した外部アプリとのデータ連携や、Dataverse for Teamsなどを利用したTeamsの機能拡張、そしてユーザーが内製したアプリおよび業務部門がパートナーに依頼して作成したアプリなど、社内で活用するアプリの管理、さらにAzureへの活用の拡大、ビジネスの展開などについて解説する。