インプットとアウトプットを組み合わせた
方法選択型探究学習が子供の学びを伸ばす

宮城県の南部に位置する岩沼市では、2012年度から小学校、2016年度から中学校の教員を対象にタブレット端末を整備し、教育現場におけるICT活用に先進的に取り組んできた。2020年度のGIGAスクール構想によって、児童生徒1人1台のタブレット端末が配備された際も、教員向け端末が整備された素地があったことからスムーズに授業での活用が進んだ。また2023年度からは、同市の小学校、中学校それぞれ1校が文部科学省の事業「リーディングDXスクール」に指定されており、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実や、校務DXなどに取り組んでいる。その指定校の一つが、岩沼市立岩沼小学校(以下、岩沼小学校)だ。

5年3組の理科の授業では、「電流が生み出す力」の単元でIndiviFLISを実践。課題を共有した上でグループごとに実験の計画を立て、電磁石の性質の理解を深めた。

子供が主語になる新しい授業

 個別最適な学びと協働的な学びを実現する新しい学習スタイルとして「単元内自由進度学習」が注目を集めている。従来の教師が児童生徒へ知識を教える一斉指導の授業ではなく、児童生徒一人ひとりが授業の進度を決めて学ぶスタイルだ。子供たち自身が学びの進度を決めることで、学びの自己調整能力や非認知能力の育成につながる。2021年度の中央教育審議会答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」においても「子供が主語となる学校教育」の重要性が示されており、これからのSociety 5.0時代に対応していく子供たちを育成していくため、単元内自由進度学習のような新しい授業スタイルの構築は不可欠だ。

 一方で、単元内自由進度学習は単元内のほぼ全ての学習を、子供たちが計画的に行う必要があることから、先進校での導入にとどまっているのが現状といえる。そこで岩沼小学校がリーディングDXスクールの事業で取り組んでいるのが、これまでの一斉指導型の授業を軸に、子供に委ねる学習を単元の一部に取り入れる「方法選択型探究学習」だ。

 方法選択型探究学習では、知識をアウトプットするための情報収集を「方法選択」し、その獲得した知識を自分なりにまとめて言葉でアウトプットする「探究」をセットで行う。例えば、特定の物事を学ぶ場合でも、その教材は教科書やWebサイト、動画教材、図書資料、資料集、ゲストティーチャーと多岐にわたる。子供たちにはその中から、自身に適した教材を選んで学ぶ個別最適な学びを実践する。

 同様に学習形態や学習ペース、情報の集約方法、対話のタイミングや回数など、一つでも選択肢を与えれば「方法選択」の学びとなる。またアウトプットの上でも調べた物事をまとめるだけではなく、自分の言葉にして伝えるフローを挟むことで、協働的な学びを実現できる。岩沼小学校ではこの個別最適な学びと協働的な学びを組み合わせて学ぶ方法選択型探究学習を「IndiviFLIS」(インディビフリス)と名付け、実際の授業で取り入れている。

「IndiviFLISは『Individual Freedom Learning Iwanuma-Sho』の頭文字を取った造語です。私が元々英語を教えていたこともあり、子供にも教員にも愛着が持てるスタイリッシュな表現の言葉にしました。すでに学校内には浸透しており『インディビ』という略称で親しまれています」と語るのは、岩沼小学校 校長を務める菊池晃子氏。

IndiviFLISを実践する上でハードルになるのが、子供たちの学びの進捗状況を把握する難しさだ。授業を実践した北澤氏は児童の実験の様子を見守りながら、適切なタイミングでサポートするなどして支援していた。こうした学びの見取りには、リアルタイムで書き込みが反映されるデジタルツール(ロイロノート)も役に立つという。

IndiviFLISで学びを広げる

 岩沼小学校におけるIndiviFLISの学びは、3〜6年生の中学年から高学年を対象に実施されている。1〜2年生の低学年では学習規律やノートへのまとめ方、具体物の操作、意見交流の基礎といった学習基盤の定着を第一としているためだ。3年生以上の授業では、算数、社会、国語、理科、家庭科、外国語、特別支援など、多様な授業の中でIndiviFLISを実践している。

 岩沼小学校でIndiviFLISの取り組みを主導している研究主任 DX推進担当の北澤直樹氏は「スタート当初は他の先生方への普及はなかなか進みませんでしたが、校内の研修で取り組みを共有し理解を進めることで、徐々に浸透していきました。もちろん最初は授業が調べ学習で終わってしまうなど、失敗もありましたが、IndiviFLISの授業を繰り返す内に改善され、インプットとアウトプットを組み合わせた学びが授業の中で実現できるようになりました」と語る。

 こうしたIndiviFLISにおいて、1人1台の学習者用端末とクラウド環境の組み合わせは非常に重要だ。北澤氏は特に大きな効果として「他者の学びを参照できる」点を挙げた。

「クラウド環境の整備によって、デジタルホワイトボードの『Jamboard』などを活用し、友達の考え方や意見を参照できるようになりました。他者の考えに触れることにより、教員が教えた知識以上の事柄を得ることができ、学びをより広げることが可能になります」と北澤氏。

 IndiviFLISによって、子供たちの学びの姿は発展を続けている。例えば6年生の授業では、教員が不在の環境の中で、知識の取得から実験、まとめに至るまでの全てを児童たちで行った授業があったという。北澤氏は、自身が受け持つ理科の授業において、Google Classroom上で児童に指示を出しておき、その内容を基に学習リーダーとなった児童が適切なタイミングで合図をしながらIndiviFLISの学びを行った。

家庭学習も自立的に行う

 IndiviFLISのような、子供が主導する学びで懸念されるのは「一斉指導型の授業と比較して学力が身に付くのか?」といったポイントだ。「まだスタートしたばかりではありますが、IndiviFLISの授業と通常の授業を比較すると、IndiviFLISで学んだ事柄は長期記憶に結び付いています。また前述したような主体的に学習に取り組む姿勢も伸びています」と菊池氏。

 子供たちの自立的な学びを促すことにより、教員側の授業準備も一斉授業と比較して負担が少ないというメリットもあるという。その一方で、IndiviFLISの授業の中では生徒一人ひとりの学びの進度を教員側でしっかりと把握し、サポートする必要も出てきており、課題の一つになっている。北澤氏は「こうした学習の見取りを行う上でも、ロイロノートやJamboardのデジタルツールを活用することで、個人個人の理解の進度が把握しやすくなります」とメリットを語る。

 岩沼小学校では、今年度のIndiviFLISの取り組みを基に「入門マニュアル」を作成し、次年度から同校に赴任する教員もスムーズにIndiviFLISに取り組めるよう整備を進めている。またIndiviFLISをカリキュラムマネジメントに取り入れ、年間指導計画に反映できるように、今後の実践を進めていく方針だ。