OKIのプリンターには引き続き需要がある
IoTのエッジデバイスとの融合で新しい事業を生み出す

森 孝廣氏が沖電気工業(OKI)の代表取締役社長に就任して1年がたち、今年5月10日にOKIグループの「中期経営計画2025」を発表した。中期経営計画2025では従来の事業ポートフォリオを見直すなど、変革を一気に実行して成長を早期に加速させる目標への森氏の不退転の覚悟が見て取れる意欲的な内容だ。中期経営計画2025に込められた森氏の思いと、OKIのこれからの事業展開について話を伺った。

「社会の大丈夫をつくっていく。」が強み既存のビジネスももっと伸ばせる

沖電気工業
代表取締役社長
森 孝廣

編集部■2022年4月に沖電気工業(OKI)の社長に就任されて1年がたちました。最初の1年間の取り組みをお聞かせください。

森氏(以下、敬称略)■OKIはグローバルでさまざまな事業を推進しています。私はプリンター事業を手掛けるOKIデータで長年にわたってプリンター事業に携わってきましたので、社長に就任して最初の半年はOKIが手掛ける各事業の現状の把握と成長の可能性を探ることと、成長に向けてどのような課題があるのかを見極めることに力を注ぎました。

 OKIが持つ能力をきちんと発揮すれば、既存の事業が大きく成長できるということを確信しました。現在の業績はOKIの実力を発揮しきれていません。正直、OKIはこんなもんじゃないと、改めて飛躍的な成長に向けた取り組みへの意欲が高まりました。

編集部■OKIが持つ能力の源泉となる強みはどこにあるのですか。

■OKIは以前より自身のありたい姿を表現するキーメッセージとして「社会の大丈夫をつくっていく。」を掲げています。OKIの主な事業は公共や金融、交通、通信などの分野で、お客さまの日常生活やビジネスに欠かせない社会基盤を支える製品やサービスを提供することです。

 お客さまが安心して日常生活を過ごし、ビジネスを続けていく上で、それらに必要な社会基盤が常に「大丈夫」であり続けるよう、OKIは製品やサービスの提供を通じて貢献し続けてきました。

 社会基盤を支える製品やサービスには決して止まらない信頼性や、必要な機能やサービスを常に提供できる品質、そして長期間稼働を続けられる耐久性などが求められます。こうした高い次元の要求に対してOKIは長年にわたって応え続けてきた実績があり、能力があります。このような実績と能力を持つ企業はOKIを含めて日本でわずかだと自負しており、ここにOKIの強みがあります。

編集部■先日の5月10日にOKIグループの「中期経営計画2025」を発表されました。事業体制や事業戦略の見直しなど、大きな改革を伴う思い切った内容だと感じました。どのようなシナリオで成長を加速させていくのですか。

■先ほど最初の半年は現状を把握することに注力したとお話ししましたが、次の半年はそこから見えてきた成長の可能性や方向性と、それを実現するための課題の解決などの計画を具体化すること、すなわち中期経営計画2025の策定に力を注ぎました。中期経営計画2025はとても丁寧に、しっかりと練り上げたため、少々時間がかかってしまいました。

 まず中期経営計画2025の検討会に役員だけではなく各事業部の責任者にも参加してもらい、事業の現場に近い観点から意見や提案を聞きました。これまでOKIの経営計画は役員が議論して策定してきました。

 中期経営計画2025の検討会に各事業部の責任者が参加して計画の策定に携わることで単なるトップダウンではなく、各事業部も一緒に作った計画と目標なのだから、それぞれの持ち場で必達しなければならないという責任感が生まれます。また各事業部の責任者に中期経営計画2025の意図や内容を理解してもらえば、現場の管理職や社員にも伝わりやすくなり、具体的な行動を促せます。

 検討会で各事業部の責任者の話を聞くと、私が把握していた各事業の成長の可能性や課題が間違っていなかったことが確認できました。そこで中期経営計画2025では成長に向けた課題の解決と目標の達成に向けて、大胆な計画を盛り込みました。

 OKIはガバナンスがしっかりしており、手堅く物事を進める傾向があるためスピード感が足りないように感じます。少しずつ進める変革ではなかなか変われません。痛みは伴いますが、一気に変えて進めていかなければ目標を達成できないと思います。それができるのが私だと認めていただき、社長を務めさせていただいているのだと自分の役割を理解しています。

変革を一気に進めるために事業ポートフォリオを大胆に見直す

編集部■スピーディーに変革を進めていくに当たり、どのような施策を実行したのですか。

■まず事業体制と事業戦略の両面で事業ポートフォリオの見直しを実行しました。従来、OKIにはソリューションシステム事業本部とコンポーネント&プラットフォーム事業本部があり、前者には5個、後者には3個の合計8個の事業部がありました。

 実は私も把握していましたが、中期経営計画2025の検討会に参加した各事業部の責任者から事業部を超えて連携するプロジェクトで稟議の決裁に時間がかかるなどの問題が指摘されました。ならば連携する機会が多い事業部は統合して動きをスピードアップすべきです。また共有できるスキルや仕組み、設備があるならば統合して合理化すべきです。さらに共通点のある異なる事業部がくっつくことで、新たな価値が生み出されるかもしれません。

 そこで従来の体制を2023年4月より四つのセグメントで五つの事業部に集約、再編成しました。パブリックソリューションセグメントではビジネスモデルと生産の親和性から既存の三つの事業部を統合しました。エンタープライズソリューションセグメントではハードウェア、ソフトウェア、保守・サービスにおけるバリューチェーンの最適化を目的に既存の二つの事業部を統合しました。プリンターなどの情報機器事業やIoTプラットフォーム事業は商品開発と生産の親和性からコンポーネントプロダクツセグメントに統合しました。そしてEMS事業はEMSセグメントにおいて既存の事業を強化することで成長を目指します。これら四つのセグメントに加えてイノベーション事業開発センターを社長直轄の事業部として設置しました。

 さらにそれぞれのセグメントの事業の位置付けも明確化しました。ATMや現金処理機、予約発券システムなどを手掛けるエンタープライズソリューションセグメントとコンポーネントプロダクツセグメントはビジネスの安定化と収益力の向上を目指し、交通や防災、通信キャリア向けのビジネスを手掛けるパブリックソリューションセグメントとEMSセグメントは成長事業として売上拡大に力を入れるとともに収益力向上も目指します。

 これら事業ポートフォリオの見直しにはバックオフィスとなるさまざまな管理業務やシステムも改変しなければならず、本来はとても時間と労力のかかる施策です。しかし先ほどお話しした通り変革は一気に進めていかなければ変えることはできません。当初は混乱も生じましたが社内の協力を得て順調に新しい事業ポートフォリオへの移行を進めることができています。

プリンターの需要はなくならない
IoTのエッジデバイスとの相乗効果に期待

編集部■新しい事業ポートフォリオではプリンターなどの情報機器事業とIoTプラットフォーム事業などを統合されました。いわゆるITの領域においてどのようなビジネスを展開していくのですか。

■コンポーネントプロダクツ事業部ではプリンティングソリューションとIoT機器などのエッジデバイスの融合により、新たなビジネスが創出できると考えています。

 一般的にプリンター市場の成長は難しいといわれていますが、OKIのプリンター事業は公共や金融、各種産業などで多く利用されており、印刷したものに情報価値がある用途で使われています。こうした領域や用途でプリンターの需要が急激に減少するとは考えにくく、今後も引き続き需要があるとみています。

 しかし既存の領域や用途だけでプリンター事業を成長させるのは難しいことも理解しています。そこで新しい価値を生む可能性の一つとしてIoT分野のエッジデバイスと組み合わせたソリューションに期待しています。

 工場や重要インフラ施設、自動車をはじめとした交通、さらには農業や漁業などあらゆる分野でIoTが普及しています。ただし各種用途で専用の業務端末が利用されるケースが多く、導入や利用にコストがかかることが普及への課題となっています。

 そこでIoTのエッジデバイスを複数の分野や用途で利用できるように汎用化して安価にするとともに、システムに関してもプラットフォーム化することで導入や利用のコストを下げてお客さまを増やすことを考えています。

 さらに例えばプリンターの機能を搭載したIoTのエッジデバイスを開発して、設置した現場で情報を紙などに出力して活用するといった用途も考えられます。

 プリンターはモニターやスマートグラスなどと同様に情報伝達の媒体の一つです。人間が識別して認識する行為において、紙で情報を伝達するという手段はこれからもなくなることはないでしょう。まだ具体的な用途はイメージできていませんが、紙に出力する機能を持つ装置やデバイスは何か新しい価値を生み出すのではないかと検討しています。

 今後は教育ICTでのプリンターの活用提案やIoTのエッジデバイスのビジネスにおいても、ダイワボウ情報システム(DIS)さまとアイデアを出し合って成長を目指すことを期待しています。

編集部■社内でイノベーションを誘発して新規事業を生み出していくために、どのような取り組みをしていますか。

■イノベーションを創出するために国際規格ISO56002 を先取りしたイノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」を展開しています。また「全員参加型のイノベーション」を目指して2018年度から社内のビジネスアイデアコンテストを実施しており、今年は300 件を超える応募がありました。

 応募されたビジネスアイデアの中から事業化に有望なアイデアを10個選び、それぞれの分野に理解のある伴走者を付けてアイデアを磨いて事業化を目指します。まだマネタイズはできていませんが、現在約30の有望なプロジェクトが進んでいます。

 それから社員のスキルの多様性に対応するために人事制度も変えました。OKIではマネジメント力を評価してきましたが、例えば技術部門でスペシャリストとしてスキルを発揮したいと考える優れた社員に対して、部下を持たなくても評価する制度も設けました。

 社員には「前へ、前へ」を意識して、「2倍速」で事業化を進めてほしいと伝えています。

製造業として環境への貢献にも力を入れる
エッジプラットフォームの構築が目標

編集部■製品やソリューションの価値として、環境への配慮も重要なテーマとなっています。どのような取り組みをしているのですか。

■ものづくり企業の責任として「幅広い環境課題の解決に資する商品の創出」と「商品をつくりだす自社拠点のCO2排出量ゼロ化」の大きく二つのテーマで取り組んでいます。

 まず環境への貢献分野として脱炭素、省資源および廃棄物削減、化学物質の管理と汚染の予防などを設定しています。その取り組みについてOKIの製品やサービスを使うことで直接的に貢献することと、OKIの製品やサービスを使うことで実現する業務効率化を通して貢献することの二つのアプローチから環境貢献商品を定義しています。

 具体的には「環境負荷の原因となるものや環境悪化の被害を減らすこと」「気候変動の被害を軽減すること」「環境影響の管理業務を効率化すること」の三つです。

 拠点のCO2排出量ゼロ化については2022年4月に大規模生産施設として国内初の「ZEB(Net Zero Energy Building)」認定の本庄工場H1棟(埼玉県本庄市)が竣工しました。環境への貢献だけではなくOKIのDX戦略のフラグシップ工場としても機能しています。今後はここで培った環境技術をほかの工場にも応用していきたいと考えています。

編集部■最後にOKIの将来に向けた事業の展望をお聞かせください。

■OKIの強みである社会基盤の仕組みを支えるさまざまなエッジデバイスが、その活用の現場であらゆるデータを大量に生み出しています。エッジデバイスを進化させることで活用を高度化してデータの価値を高めるとともに、データの活用基盤となる「エッジプラットフォーム」を構築してお客さまに広く貢献していきたいと考えています。