昨年10月1日付けでNECパーソナルコンピュータ(NEC PC)およびレノボ・ジャパンの社長に檜山太郎氏が就任した。檜山氏は東芝でDynabookシリーズをはじめとする東芝ブランドのPC事業の成長に貢献したほか、IoTなどのBtoBソリューション事業など幅広い領域で活躍した。その後、日本マイクロソフトで執行役員常務を務め、コンシューマー&デバイス事業本部長やパートナー事業本部長を歴任し、PCメーカー各社と共にWindows搭載PCの国内市場への普及促進や、パートナーとの協業によるインダストリーDXの推進、中堅中小企業へのクラウドの普及、自治体など公共機関におけるガバメントDXの強化などに取り組んだ。こうした経験を生かしてNECレノボ・ジャパングループではどのような目標に挑むのか、檜山氏に話を伺った。

日本の社会と経済の発展は地方のDX促進が不可欠。レノボのポートフォリオと新しいビジネスモデルで支援

Top Interview

ハワイでの体験が今につながる日本のPC事業の栄枯盛衰を経験

レノボ・ジャパン
代表取締役社長
NECパーソナルコンピュータ
代表取締役 執行役員社長
檜山太郎 氏

編集部■東芝ではPCやIoTなどの領域でハードウェアのビジネスに携わり、日本マイクロソフトではソフトウェアのビジネスに携わりました。そしてNECレノボ・ジャパングループで再びハードウェアのビジネスに取り組まれています。これまでのキャリアについてお聞かせください。

檜山氏(以下、敬称略)■今から50年以上前、私が小学生だった頃にハワイで育ちました。現地の人たちは日本人観光客を歓迎してくれましたが、一方で当時は太平洋戦争を経験した人が多く存命しており、日本人に対する感情に複雑なものがありました。そうした環境で生活をしていると自分が日本人であることを強く実感するようになり、日本の社会や経済の発展に貢献したいという意識が芽生えました。その想いは大きくなっても変わらず、むしろ強くなっていきました。

 そして日本の社会や経済の発展に貢献するため、世界に革新をもたらすと期待されていたコンピューターの世界で働くことを選びました。ただし大きな組織でなければ社会や経済に影響を与えることはできません。そうした考えから当時、コンピューター事業を積極的に推進していた東芝に入社しました。

 東芝では日本初の携帯型PCとなる「Dynabookシリーズ」を世に送り出し、30年ほど事業に携わりました。当時は世界トップ10の6社を日本のPCメーカーが占めるなど、日本のPCは世界で圧倒的なシェアを獲得していました。東芝も携帯型PCにおいて世界トップシェアを獲得したこともあります。

 そしてハードウェアがグローバルで標準化されるようになり、大量生産によるコストダウンが進んでPCが広く普及しました。世界でPCの売上が右肩上がりで伸びていく中で、標準化によって日本のPCメーカーが誇る技術力や工夫といった優位性を発揮しづらくなり、日本のPCメーカーのシェアは下がり続けて、世界トップ10から次々と姿を消していきました。

 そうした状況下で日本のPCの存在感を高めようとあがき続けた中で、いくつかの成果がありました。その一つがマルチメディアPCです。東芝のテレビ事業を生かしてテレビが見られるPCを開発しました。その後、日本のほかのPCメーカーも次々とマルチメディアPCを発売しました。当時、アナログだったテレビチューナーをデジタルにつなぐのは容易ではなく、それが日本製のマルチメディアPCの優位性となりました。

 しかし、しばらくすると既存のPCに後付けでテレビチューナーを搭載できるキットが販売されるようになり、差異化を図っても標準化されてしまうという経験を何度も体験してきました。
 その後は法人向けソリューション事業に携わり、例えば国内ではドライブレコーダーで事故の発生を記録して自動通知する自動車保険向けのサービスの開発や、英国ではスマートメーター向けの無線ネットワークの構築に携わりました。

予測できない変化に対して柔軟に対応できる製品と体制

編集部■約30年もの間携わったハードウェアビジネスから一転して、ソフトウェアやクラウドのビジネスを展開する日本マイクロソフトに移られたのはなぜですか。

檜山■欧米ではITの活用が進んでいるのに日本は遅れており、その差がどんどん広がっていることに不安を感じていました。企業や家庭、学校でのIT活用をけん引しているのは海外のプラットフォーマーです。そこで経験のなかったソフトウェアやクラウドのビジネスに携わって、これまでとは異なるアプローチで日本のIT活用の活性化に貢献したいと考え、日本マイクロソフトに行きました。

 PCには多くの機能が搭載されているにもかかわらず、日本でのPCの活用は欧米と比べて限定的です。PCを活用する領域を広げていくことで日本のIT活用を促進し、生産性や効率の向上につながると考えて日本マイクロソフトでの仕事に取り組みました。

 そうした取り組みを進めていく中で、たくさんのことを学びました。同時にデジタルとユーザーの接点はPCなどのデバイスであり、改めてデバイスの重要性に気づかされました。そして再びハードウェアで日本の社会や経済の発展に貢献したいと考え、NECレノボ・ジャパングループに移りました。

編集部■数あるハードウェアベンダーの中で、NECレノボ・ジャパングループの魅力はどこにあるのでしょうか。

檜山■私が東芝や日本マイクロソフトを選んできた通り、NECレノボ・ジャパングループも大きな市場シェアを獲得しています。実際にNEC PCとレノボ・ジャパンは国内トップシェアのPCメーカーであり、大きなシェアを持っていることはより多くのお客さまとつながっているということです。このシェアを通じてIT活用を活性化させれば、日本の社会や経済の発展に大きな貢献ができます。

編集部■日本市場におけるNECレノボ・ジャパングループの強みをお聞かせください。

檜山■国内トップシェアということはお客さまの声を最も多く聞ける立場であり、この強みを生かしてお客さまの要望に応じた便利で役立つ製品を提供できます。ただしお客さまの要望は常に変化しており、その変化を予測することは難しく、次々と生まれる新しいテクノロジーとマッチングさせることが大きな課題です。

 NECレノボ・ジャパングループには「ポケットからクラウドまで」というようにモトローラのスマートフォン、レノボのThinkPad、NECブランドのタブレットやPC、サーバー、エッジデバイス、会議システムまでDXの推進に必要となるITデバイスを網羅しています。

 またレノボには海外に開発拠点と生産拠点、日本にも開発拠点、生産拠点、サービス拠点があり、さまざまな国・地域で、さまざまなスキルを持つたくさんの人材が活躍しています。これらを背景に予測できない次の展開に対して、どのような状況や要望にも対応し得る柔軟性と、変化に対応できる体制がレノボおよびNECレノボ・ジャパングループの強みです。

One Lenovoの推進とDXの地方への横展開

編集部■2023年4月から新しい決算期が始まります。来期からの事業戦略をお聞かせください。

檜山■正式な発表前(2023年2月時点)ですので詳細はお話しできませんが、大きく次の二つのテーマが挙げられます。まずNEC PCおよびレノボ・ジャパンと、サーバー事業などを展開するレノボ・エンタープライズ・ソリューションズと共に取り組みを進めている「One Lenovo」による事業連携を強化していきたいと考えています。

 また先ほどもお話ししました通りNECレノボ・ジャパングループにはポケットからクラウドまでを網羅する幅広いポートフォリオがあります。それらの製品はThinkPadやThinkCentre、ThinkVision、ThinkSystem、さらにはYogaやLaVieなど数多くのブランドで展開しています。

 それぞれのブランドの役割を定義していますが、今後はお客さまの要望や課題をより詳細に設定して、それぞれに対してどのブランドが役割を担当するのかを再定義することもOne Lenovoの推進に必要だと考えています。

 One Lenovoの推進については、ハードウェアとソフトウェア、日本企業とグローバル企業、製造と営業、コンシューマーと法人、という私の経験を生かせると自負しています。そしてレノボ、ThinkPad、NECというNECレノボ・ジャパングループの資産が1+1+1を3ではなく、4や5にすることを目指します。

 そしてもう一つは地方におけるDXの促進です。クラウドの普及率を見ると都市部と地方で非常に大きな格差があります。DXを推進するにはシステムのクラウド化だけではなく、ビジネスや業務のデジタル化、さらにはデータ活用が必要となります。

 日本の社会や経済を発展させていくには都市部だけではなく、大多数を占める地方の中堅中小企業のお客さまのDXを促進しなければならず、ITビジネスも都市部から地方へ面での横展開が必要です。

 それを実現するにはNECレノボ・ジャパングループだけでは成し得ることはできません。パートナーの皆さまとの連携と、競合するベンダーとの協業も必要です。特に地方への展開にはダイワボウ情報システム(DIS)さまを通じて、全国津々浦々のパートナーさまと連携した事業展開が不可欠となります。

編集部■地方の顧客に対するDX促進への取り組みの成果が出るまでに、どのくらいの期間がかかるとみていますか。

檜山■3年から5年である程度の成果を上げられる進め方ができるよう、現在計画を検討している最中です。私は今、地方のお客さまにDXを促進する良い時期だと考えています。日本ではSIerが受託してユーザーの要望に応じて個別にシステムを開発・構築する傾向が見られますが、欧米では社内のエンジニアがパッケージ化されたシステムを必要に応じて組み合わせてソリューションを導入するという手法に変わってきています。

 出来上がっているパッケージを利用するため導入や展開のスピードが速く、コストも安く、ビジネスを取り巻く予測できない変化に即応するのに最適な手法です。特に地方のお客さまに対して、パッケージ化されているため面での横展開に有利です。

 すでに欧米ではシステムインテグレーションではなく、システムオーケストレーションというビジネスモデルに変化しています。日本でもこの手法を取り入れる動きが出始めており、いずれ主流になるとみています。

 こうしたビジネスオポチュニティに対してNECレノボ・ジャパングループはITインフラをas a Serviceで提供する「Lenovo TruScale」や国内のパートナーさまを総合的に支援する「Lenovo 360」をより強化するとともに、レノボグループが新たな事業の柱と据えて推進しているソリューション&サービスグループを国内でも展開したいと考えています。

 DISさまを通じて全国のパートナーさまと連携して地方のお客さまのDXを促進し、日本の社会と経済の発展に貢献できるよう、私の経験を生かしてNECレノボ・ジャパングループから日本のITビジネスを盛り上げていきたいと決意しています。