IPAの「DX白書2023」から
地域におけるDX取り組み状況を読み解く

「IT人材白書」「AI白書」「情報セキュリティ白書」といったIT人材や新技術の動向、情報セキュリティなどさまざまな情報を発信している情報処理推進機構(IPA)。2021年には国内外の企業に関するデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み状況を戦略・人材・技術の観点から調査し、DX推進に役立つ情報を取りまとめた「DX白書」を公開している。そんなDX白書の第二弾となる「DX白書2023」が2023年2月に発表された。今回は、DX白書2023から、地域別のDXへの取り組み状況や国内のDX最新動向などを探っていく。

DXの取り組み状況を可視化

 DXをキーワードに、多くの自治体で業務変革が行われている。本連載においても、数々の自治体の事例を取り上げてきたが、それは47都道府県の内のごく一部に過ぎない。多くの企業や自治体において、DXの推進が叫ばれている中で、実際の取り組み状況はどうなのだろうか。IPAが公開した「DX白書2023」から読み解いていこう。

 DX白書2023では、日米企業を対象とした「企業を中心としたDX推進に関する調査」を基に、DXの取り組み状況や国内のDX推進への課題や取り組みの方向性などについて解説されているほか、国内のDX事例を収集し、企業規模、業種、地域での取り組みを可視化した「国内産業におけるDX動向に関する全体俯瞰調査」の結果についても取り上げられている。自治体の取り組みを紹介する本連載では、地域におけるDXの取り組みを中心に見ていく。

地域別の事例から見えた特徴

 まず、地域別でのDXの取り組み事例についてだ。①北海道から⑩の九州・沖縄地方まで各地域における事例が挙げられている(一部抜粋)。

①北海道:圃場データ活用による収穫順位・コンバイン割り当ての最適化(北海道/複合サービス事業)

②東北地方:AIを活用した外国人等宿泊客対応の業務変革(福島/宿泊業、飲食サービス業)

③関東地方:千葉県柏の葉エリアでのヘルスケアサービス開発エコシステム構築(東京/不動産業、物品賃貸業)

④甲信越地方:ドローンによる森林調査の業務改革(山梨/農業・林業)

⑤東海地方:地産地消を実現する青果流通プラットフォーム(静岡/卸売業、小売業)

⑥北陸地方:AI画像認識を活用した惣菜量り売り機の導入(福井/卸売業、小売業)

⑦関西地方:センサーを用いた関連施設トイレ空き状況のアプリ配信(大阪/運輸業、郵便業)

⑧中国地方:メタバースによるスポーツ観戦空間の提供(広島/情報通信業)

⑨四国地方:IoTセンサーを用いた牡蠣生育遠隔管理(徳島/漁業)

⑩九州・沖縄地方:AI・IoT活用によるがいし製造・品質管理の業務改革(佐賀/製造業)


 各地域におけるDXの取り組み事例を通して、それぞれの地域の特徴が見えてくる。例えば、多くの大企業が集まる関東地方、東海地方、関西地方では、「社会の変革」や「市場での立ち位置の変革」に向けてDXに取り組む傾向がある。一方で、北海道では農業分野、甲信越地方ではドローンによる森林調査といった地域産業、東北地方・北陸地方・四国地方では働き手の減少や高齢化への対策など地域課題の解決に向けた事例が多い。今回収集された事例以外にも全国各地で地域の特性を踏まえたスマートシティプロジェクトなどの取り組みが実施されており、こうした事例は、類似した社会課題や構想を持つ地域のDXの取り組みの参考になる。

大都市と地方都市での差異

 DX白書2023では、地域別のDXの現状についても取り上げている。総務省の「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」によれば、東京23区に本社がある企業の4割近くがDXへの取り組みを実施している一方で、政令指定都市、中核市、その他の市町村と規模が小さくなるにつれてDXに取り組む割合が低くなるという結果が出ている。このことから、都市圏の方が地方圏に比べてDXの取り組みが進んでいることがうかがえる。

 また、DXの取り組みを推進するに当たって投資余力や人材・ノウハウが課題となっていることが多いという。地方圏と比較すると、都市圏ほど企業や労働力となり得る人材が集約されているため、必要となる人材・ノウハウの確保が容易であると考えられる。投資余力の大きい企業も都市圏に集約されていることを鑑みると、大都市と地方都市でDXへの取り組み状況に差異が生じていることが推察される。地方圏において都市圏との差異を埋めるためには、地域性を生かした工夫や地域コミュニティーの取り組み、他地域との連携といった地域ならではの試みがDX推進に向けて必要となってくる。

 IPAでは本白書について次のようにコメントしている。「経営者をはじめとしたあらゆるビジネスパーソンがDX白書2023を参照し、自社のDX推進に必要となる戦略策定、人材確保、デジタル技術の活用について具体的な手立てを検討していくことで、日本企業のDX推進が加速することを期待しています」

 DX白書2023は、DXに取り組む/取り組もうとする企業が自社での取り組みに参照できるほか、自治体においてDX推進に向けた取り組みを行う際にも大いに役立てられるだろう。