IT市場は一部地域を除いて回復傾向

IT Expenditures

 IDC Japanは2022年の国内全体ならびに、地域別のIT市場規模予測を調査した。同調査によると、2022年度のIT市場規模は、前年比4.6%増の20兆2,137億円となる見込みだ。

 市場規模拡大の背景には、IT市場のビジネス構造の変化がある。企業システムのクラウド化、サブスクリプションモデルの浸透によって、マクロ経済の変動に対して影響を受けにくい構造に変化しているのだ。また、サプライチェーンやサイバーセキュリティ分野の優先度の高さ、さらにIT支出に対する阻害要因は過去と比較して影響が軽微にとどまっていることも拡大要因としてIDC Japanは分析する。

 2022年の各地域のIT市場も、同様にプラス成長に回復したとみている。特に、関東地方(東京都を除く)、東京都、東海地方、近畿地方を含む「大都市圏」では、大企業、中小中堅企業における業務効率化、企業変革を目的とした積極的なIT支出の拡大を見込んでいる。

 その一方で、北海道/東北地方、北陸/甲信越地方、中国/四国地方、九州/沖縄地方を含む「その他地域」では、残存した新型コロナウイルス感染拡大の影響および、円安・原材料価格高騰によって、業績が悪化する企業が多く存在する。そのため、全体ではプラス成長ではあるが、従業員規模999人以下の中小企業では低い成長率にとどまる見込みだ。特に北海道/東北地方、北陸/甲信越地方、中国/四国地方の中小企業のIT支出の前年比成長率はマイナス成長のままと予測する。

国内IT市場 地域別 支出額予測、2021〜2026年
出所:IDC Japan
※「大都市圏」「その他地域」には以下が含まれる。
・「大都市圏」:関東地方(東京都を除く)、東京都、東海地方、近畿地方
・「その他地域」:北海道/東北地方、北陸/甲信越地方、中国/四国地方、九州/沖縄地方

2023年度は地域全体で拡大を予測

 同調査では、2023年のIT市場規模についても予測している。2023年にはコロナ禍の沈静化に伴って、飲食、観光、運輸サービスが回復に向かい、IT支出の再開が見込まれる。また、中小中堅企業を含めた各企業において改正電子帳簿保存法、適格請求書等保存方式の対応を目的としたIT支出が見込まれ、さらに大企業ではDX推進を目的としたIT支出が拡大することから、IT市場規模は前年比5.7%増の21兆3,716億円となる予測だ。

 各地域のIT市場も、2022年同様にプラス成長が見込まれる。特に大都市圏を中心として高い成長率の予測だ。企業の業績回復と、大企業のDX推進を目的としたIT支出の本格化が市場の成長要因として挙げられる。中でも2025年に「大阪・関西万博」を開催予定の近畿地方では高いIT成長率を見込んでいる。

 一方その他地域では、企業が業績を回復しつつも、円安・原材料価格高騰の長期化による業績回復の遅れ、さらに人口減少によって、プラス成長ながら低い成長率にとどまると予測している。しかし、地方自治体におけるデジタル・ガバメント施策や、札幌市・仙台市などの再開発事業、熊本市での半導体製造拠点進出によって、IT支出が活性化するとIDC Japanは分析する。

 同社のVerticals&Cross Technologies リサーチマネージャーの市村 仁氏はITサプライヤーが大都市圏以外の地域に投資する際の注意点をこう指摘する。「ITサプライヤーは、再開発事業、大規模生産拠点の新設をビジネス拡大の機会と捉え、業務効率化、生産性向上を目的としたデジタル活用を推進する施策、体制をチャネル網と連携して整備することが重要です」

2022年度のCDP市場は前年度比15.8%増

Customer Data Platform

 アイ・ティ・アールは、自社サイトのアクセスログや顧客・購買データなどをメール配信システムや広告配信システムといった各種チャネルで、正規化された情報の作成と活用を目的とする製品・サービス「Customer Data Platform」(CDP)の市場予測を発表した。同調査によると、2021年度のCDP市場の売上金額は、前年度比18.7%増の103億3,000万円となった。

 現在国内では、インターネットを利用する非対面での接点が顧客接点の中心となるに伴い、顧客データを統合的に管理・分析することによる効率的・効果的なデジタルマーケティング施策の実施が課題となっている。その解決策としてCDPが挙げられており、市場が拡大しているのだ。また、個人情報保護の動きが強まる中、企業が自社で収集した顧客情報が重視される傾向がある。加えて、ベンダー各社の積極的なマーケティング活動による、市場認知度の高まりも市場拡大の要因としてアイ・ティ・アールは分析している。

 これらの要因によって、2022年度のCDP市場の売上金額は、前年度比15.8%増を見込み、2021〜2026年度にかけての年平均成長率は15.2%とみている。

 同社のシニア・アナリスト 水野慎也氏は同市場の増加傾向を次のように分析する。「改正個人情報保護法の施行により、サードパーティーCookieを利用したインターネット広告の配信は制限されるため、企業は自社のWebサイト、ECサイト、店舗などから収集したファーストパーティーデータを利用したデジタルマーケティングを重視する傾向がみられます。CDPは、ファーストパーティーデータの蓄積・分析・管理を効果的に行うツールです。企業にとって最重要テーマと言える収益拡大に向けて、デジタルマーケティングを強化する企業が増加するとみられ、CDPの利用は今後さらに拡大するでしょう」

CDP市場規模推移および予測(2020〜2026年度予測)
出所:ITR『ITR Market View:メール/Webマーケティング市場2023』
※ベンダーの売上金額を対象とし、3月期ベースで換算。2022年度以降は予測値。

企業のBCPの一環として民間需要も増加

Disaster prevention System

 昨今、激甚化・頻発化する豪雨災害を中心として自然災害が住民生活、社会経済に多大な影響を与えている。加えて、南海トラフ、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震といった巨大災害のリスクが依然として残存していることから、防災に対するニーズは増加している。防災に対するニーズが増加傾向にある中、シード・プランニングは防災情報システム・サービス市場を調査し、「2023年版 防災情報システム・サービス市場の最新動向と市場展望」にまとめた。

 同調査によると、防災情報システム・サービス市場の売上金額は2021年度の1,050億円から増加の一途をたどり、2027年度には1,533億円となる予測だ。

 売上金額増加の要因として、国や地方公共団体などの官公庁がSNS分析サービスや安否確認サービス、洪水予測サービスといったITソリューションやクラウド、ビッグデータ解析技術などを活用したDXに関連した技術調達の積極化を挙げている。こうした官公庁における調達の積極化を支えているのは、さまざまな企業で実用化が進められているセンシングやAI、ドローン、人工衛星などの先端技術を活用した災害対策の新サービスやシステムだ。今後、こうした情報やデジタルを重視する政策が進展すれば、従来の官公庁調達の市場構造が様変わりする可能性をシード・プランニングは指摘している。

 さらに、従来は官公庁中心であった防災情報システム・サービスが、民間企業のBCP対策や従業員の安全確保の一環として、災害対策用の衛星携帯電話などを積極的に導入する動きも見受けられると分析している。

防災情報システム・サービス市場予測
出所:シード・プランニング「2023年版 防災情報システム・サービス市場の最新動向と市場展望」