進化を続けるマイクロソフトの2in1PC

日本マイクロソフト
Surface Pro 9

マイクロソフトが初代Surfaceを発表したのは2012年。日本では、翌2013年から販売が開始され、当時はWindows 8を搭載した2in1PCのリファレンスとして多くの注目を集めた。初代モデルから、タブレットの概念を覆すキックスタンドという支えを用意して、キーボードになる専用カバーによりノートPCのような使い勝手を実現していた。それから約10年の歳月を経て、第9世代となったSurface Pro 9は、よりパワフルな2in1PCとして大きな進化を遂げた。
text by 森村恵一

互換性と先進性の2モデル

 Surface Pro 9は、インテルプロセッサーを搭載したWi-Fiモデルと、マイクロソフトのARM系プロセッサーを搭載した5Gモデルを用意している。まずはインテルモデルを紹介する。第12世代インテル Core i5-1245Uまたはi7-1265Uプロセッサーを搭載している。ネットワークはWi-Fiに対応し、最大15.5時間稼動を実現。TPM 2.0を搭載したSecured-Core PCで、インターフェースにはThunderbolt 4対応のUSB 4.0(Type-C)を2ポート装備している。

 もう一方のモデルは、Arm開発のプロセッサー「Neural Processing Unit」(以下、NPU)搭載の独自CPU 「Microsoft SQ3」(以下、SQ3)を採用。人間の脳神経系を模したニューラルネットワークを組み込んだものだ。5G接続で最大19時間の稼動に対応している。インターフェースはUSB 3.2(Type-C)を2ポート用意した。モニターはペン対応の13インチタッチスクリーンで、解像度は2,880×1,920だ。

 従来製品「Surface Pro 8」までは、ARM系プロセッサー搭載モデルは「Surface Pro X」として発売されていたが、Surface Pro 9からは同じ製品ラインに統合された。といっても見た目は同じなので、どちらのモデルを選べばいいのか迷うだろう。結論から先に書くと、これまで利用してきたWindowsアプリとの互換性を重視するならば、インテル製プロセッサーを搭載したWi-Fiモデルが最適となる。反対に、5G通信を活用した先進的なモバイルワークを志向するならば、最大19時間のバッテリー駆動が可能なSQ3モデルが活躍する。互換性か先進性か、その選択によって2種類のモデルは、それぞれのビジネスにフィットする性能を示してくれる。

オプションの「Surface Pro Signature キーボード」に備えた収納部に同「Surface スリム ペン 2」を格納すれば、そのままワイヤレスで充電できる。

安定した性能のインテルモデル

 今回、諸事情によりSQ3モデルのみの検証となったため、製品レビューで定評のあるサイト「Tom's Guide」を参照し、両モデルの性能の差を見ていきたい。同サイトでは、両モデルに対し、何種類かのベンチマークを実行している。一つはベンチマークサイト「Geekbench」だ。結果は、インテルのCore i7-1255Uを搭載したモデルがシングルコアで1,633、マルチコアで8,541。一方でSQ3モデルではシングルコアでは1,125、マルチコアが5,849となっており、インテルモデルが上回っていた。そのほかの動画エンコーディングやゲーミング性能でも、インテルモデルが高性能を示している。

 ただし日本仕様では、i7-1255Uではなくi5-1245Uとi7-1265Uになるので、海外サイトのベンチマークは参考値になる。カラーバリエーションの面でもインテルモデルは充実している。プラチナとグラファイトに加え、青っぽいサファイアと緑っぽいフォレストが用意されている。これまでSurfaceシリーズを使い続けてきた人も、これからSurfaceを使おうとする人も、安心して選べるのはインテルモデルと言える。

本体背面のキックスタンドは柔軟な角度調整に対応。作業場所や業務内容に応じたPC作業をサポートする。

AIと静音設計のSQ3モデル

 ベンチマーク性能とカラーバリエーションではインテルモデルにアドバンテージがあるSurfce Pro 9だが、SQ3モデルにはNPUを搭載したSQ3ならではの魅力がある。それが、AI性能とファンレスモデルというアドバンテージだ。まず、AI性能ではオンライン会議に効果的な三つの機能を提供する。一つは、カメラの前の人物を自動で追尾するオートトラッキング。二つ目は、雑音をカットする機能。背後で草刈り機が動いていても、話者の声だけをしっかり伝える。そして三つ目が背景ぼかし。これらの機能は、通常のプロセッサーでも処理できなくはないが、大きな負荷がかかる。それに対して、NPUでは少ない電力でメインのプロセッサーに負荷をかけることなく、快適なWeb会議を実現する。実際にオートトラッキングを試用してみても、動作に支障なくカメラに映った顔の追跡ができた。

 つまり、5G通信で社外からモバイルワークを積極的に活用する新しい働き方にとって、NPUを搭載したSQ3モデルは、とても魅力的なSurfaceとなる。加えて、ファンレスという魅力もある。インテルモデルでは冷却のためにファンが内蔵されているが、SQ3モデルはCPUの特性上省電力かつ熱効率が良いので、タブレットらしいファンレス設計になっている。

 Surface Pro 9では、法人利用に合わせた進化も遂げている。マイクロソフトによれば、旧モデルと比較してメンテナンス性能が向上しているという。

 こうした進化は、ビジネスシーンで長く使うユーザーへの配慮であり、これまで以上に安心して企業にSurface Pro 9を提案できる要素にもなる。10年以上にわたって進化を続けているSurfaceは、ユーザー企業のビジネスの方向性に沿った商材としてこれからも提案できるだろう。