シャープ
聴覚拡張型イヤホン SUGOMIMI MH-L1SG

シャープの「SUGOMIMI」は、話し声や自然音、環境音などを適切な聞こえ方に調整する聴覚拡張機能を備えたワイヤレスイヤホンだ。補聴器のような医療機器ではなく、聞こえ方を拡張して音による新しい感動を楽しむための聴覚拡張ガジェットになる。スマートフォンの専用アプリで聴力チェックを行い、それから本製品を使い始めれば、一人ひとりの“聞こえ”にフィットする体験が得られるのだ。
text by　森村恵一

補聴器で培ったノウハウを活用

　聴覚拡張型イヤホン「SUGOMIMI」は、シャープが2021年に発売した耳あな型補聴器「メディカルリスニングプラグ」で培った集音技術や音響信号処理技術などのノウハウを生かし、開発が行われた。製品企画を推進してきたシャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 課長 磯部穂高氏は、製品化の経緯を次のように振り返る。「2021年にメディカルリスニングプラグを販売してから、当社が実施する相談会や設けているサービスセンターを通して、利用者のさまざまな意見を集めました。それにより、利用者の中には“補聴器を着けている自分”に複雑な気持ちを抱く方がいることが分かりました。そこで、補聴器ではない新しい商品の可能性を検討した方が良いのではないかと考えたことが、SUGOMIMI開発の発端の一つです」

　そうした経緯で開発が進められたSUGOMIMIの特長について、製品開発を技術面で主導してきたシャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 ウェアラブル開発部 部長 田邊弘樹氏は次のように説明する。「SUGOMIMIでは装着した人に豊かな音を体験してもらうために、一人ひとりの“聞こえ”に合わせた調整を可能にしました。開発段階で苦労したことは、個人の好みに合わせた設定でした。音の聞こえ方は体調や気分によっても変わるため、最大公約数的な設定に加えて、イコライザーにより自分で調整できる機能も提供しました」

　SUGOMIMIは、左右の耳に着ける本体と充電器で構成されている。イヤホンにはタッチセンサーを搭載しているため、音量の上下や一時停止／再生などは本体側面をタッチするだけで操作が可能だ。本体に取り付けるイヤーチップは、S（小さい）、MS（やや小さい）、M（中）、L（やや大きい）、LL（大きい）の5種類を同梱する。充電ケースはUSB Type-Cケーブルで充電できるが、充電ケース本体に「USBスライドつまみ」をスライドすることで出てくるUSB Type-A端子を搭載しているため、ケースを直接PCやACアダプターに挿しても充電が行えるのだ。

シャープ　通信事業本部　パーソナル通信事業部
（左）ウェアラブル開発部 部長　田邊弘樹 氏
（右）商品企画部 課長　磯部穂高 氏

アプリで聴力チェックを実施

聞きたい音のシーンをアプリで選択できる。全部で15シーンあり、画像のもの以外にも「テレビ・動画」「スピーチ」といったシーンがある。

　SUGOMIMIでは、聴覚拡張を行う「リスニング」モードと、ワイヤレスイヤホンとして使う「ストリーミング」モードの2種類のモードを用意する。このモードの切り替えは専用アプリか、本体のタッチセンサーで行える。さらには通話マイクを搭載するため、ハンズフリー通話もできるのだ。

　最大の特長であるリスニングモードを活用するには、スマートフォンの専用アプリを用いた調整が必要になる。SUGOMIMIを専用アプリに接続すると、最初に「聴力チェック」を行うことになる。左右それぞれの耳で高音から低音まで7種類の音を聞き、各音がかすかに聞こえる最小の音量を選択するのだ。このチェックが完了すると、利用者の聞こえに合わせてイコライザーの強弱が調整される。

　日常生活では、自分の聞こえを意識する機会はあまりない。会話で集中して聞き耳を立てることはあっても、環境音は気にしない人が多い。また大勢の会話であれば、なんとなく聞き流してしまう人もいるかもしれない。そうした中で、聴力チェックを通して聞こえを調整するSUGOMIMIを使えば、今まで気付かなかった音の楽しみに気付けるようになるかもしれないのだ。

　さらにSUGOMIMIの魅力の一つとして、聞きたい音のシーンを選択可能な「シーン選択」がある。「標準」のほかに「テレビ・動画」「コンサート」「海・波」「調理音」など全15シーンの中で、ビジネスに役立つものとしては「外国語」がある。外国語シーンでは、英語をはじめとした外国語に合わせて、高い周波数が強調される。SUGOMIMIの外国語シーンが誰でも英語耳にするという保証はないが、英会話などの上達に悩んでいるビジネスパーソンにとっては、もしかしたら解決の一助になるかもしれない。

生活に音の感動をもたらす

　田邊氏は「補聴器とは異なるターゲット層に向けて、どのような価値を提供できるのかを検討しました」と話す。SUGOMIMIは聞こえにくさを解消したり補ったりする補聴器や集音器といった医療機器ではなく、聴覚拡張型イヤホンとして耳に届く音の周波数を調整するガジェットだ。声を多くの人に届ける拡声器に対して、周囲の音を耳により多く集める拡聴器といえる。

　SUGOMIMIを装着して過ごしていると、廊下を歩く足音や外を走る車両の音などが、これまでよりもクリアに耳に届く。自然環境を想定したシーン設定にして屋外を散策すれば、これまで気にしていなかった新たな音を発見でき、感動が得られる。新しい音の発見や集中をもたらすSUGOMIMIは、ビジネスから暮らしまでを取り巻く音の感動を与えるガジェットだ。