離れて暮らす母親をロボットで見守る

–Age Tech– ネコリコ

離れて暮らす高齢の親を心配し、定期的に帰省したり、連絡を取ったりしている人は多いだろう。そんな家族を、ほど良い距離感で見守れるロボット「BOCCO emo LTEモデル Powered by ネコリコ」を提供しているのがネコリコだ。

電源を付けてすぐに使える手軽さ

 中部電力とインターネットイニシアティブを経営母体に持つネコリコは、現在家庭向けの見守りIoTサービスを主力事業としている。代表的な製品として、冷蔵庫の開閉をセンサーで検知し、離れて暮らす高齢の両親などを見守るIoTサービス「まもりこ」がある。

 そうした見守りIoTサービスの一つとして、同社が提供しているのがユカイ工学が開発したファミリーロボット「BOCCO emo」(以下、emo)に、ネコリコ独自の機能を付け加えた「BOCCO emo LTEモデル Powered by ネコリコ」(以下、LTEモデル)だ。

 LTEモデルの最大の特長は、製品名にもある通りLTE通信に対応している点だ。元々emoはWi-Fi通信のみに対応していたが、ネコリコが提供するに当たり離れた家族を見守る機能の強化と、LTE通信機能の搭載※を行った。

 LTE通信機能を搭載した理由について、ネコリコ 代表の木全英彰氏は「以前エネルギーマネジメントサービスを提供していた経験から、導入した家庭でWi-Fiの設定を行うことは、意外とハードルが高いと知っていました。そのため、LTE通信に対応したことに加え、電源を付ければすぐに回線が開通するよう、事前にアカウントの設定なども行った状態でユーザーの手元に届けています」と語る。

※LTEモデルはWi-Fi機能非搭載。

ほど良い距離感で親を見守る

 LTEモデルのメインユーザーは、子供と離れて暮らしている高齢者だ。特に女性ユーザーが多いのが特長だという。「ユカイ工学が提供しているWi-Fiモデルのemoは、ガジェットが好きなユーザーなども含め幅広く利用されていますが、LTEモデルは離れて暮らす高齢の母親に、子供が贈るケースが主です」と同社の営業企画部 マネージャー 寳 祐介氏。

 メインユーザーである高齢者に向けて、独自の機能も提供している。例えば室内の環境や健康管理に関する情報をおしゃべりする「おせっかい通知」。室内の湿度低下や熱中症危険度、換気タイミングなどのほか、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの流行情報を教えてくれる。挨拶すると返事をしてくれる「おへんじ」機能は、挨拶したことが見守り側(子供)のアプリに通知されるため、親と離れて暮らしていながら、隣の部屋で聞いているような距離感で見守れる。

「バッテリーは内蔵していないため、コンセントがある場所で使うことが前提ですが、LTE通信で利用できるため入院先の病室で活用された事例もあります。また愛知県蒲郡市では、2022年12月から本製品を高齢者に貸し出して、見守りや災害時の安否確認に活用する実証実験を行っています。自治体が加わることによる新しい見守りのスタイルの創出に期待しています」と木全氏は語った。

LTEモデルのemoは、離れて暮らす親に子供が贈るケースが多いという。かわいらしいフォルムと、おしゃべりしてくれる親しみやすさから、利用者は圧倒的に女性が多い。
部屋の環境や健康管理に関する情報を教えてくれるおせっかい通知。真夏の暑い日などは、熱中症危険度を通知してくれるため、エアコンの適宜利用に役立てられそうだ。

コミュニケーションロボットという
UIが家族を優しくつなぐ

–Age Tech– ユカイ工学 BOCCO emo

ユカイ工学が提供しているコミュニケーションロボット「BOCCO emo」は、高齢者の見守り以外にも、家庭のコミュニケーションの円滑化に役立つ。“人に優しいインターフェース”であるロボットの活用可能性を聞いた。

愛らしいロボットと共に暮らす

丸みを帯びた愛らしいデザインのemo。頬が光ったり、頭上の赤いぼんぼりが動いたりすることで、感情を表現する。

「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、しっぽの付いたクッション型のセラピーロボット「Qoobo」や、ペットが指を甘噛みするような感触を味わえる甘噛みロボット「甘噛みハムハム」など、ユニークなロボットを開発しているユカイ工学。コミュニケーションロボットこそが次のユーザーインターフェース(UI)の主流になると考える同社が、家族をつなぐコミュニケーションロボットとして開発・提供しているのが「BOCCO emo」(以下、emo)だ。

「これまで、ロボットというと倉庫や工場などの生産現場で業務効率を高めたり、生産性を向上させたりといった用途で活用されてきました。しかしロボットは、子供からお年寄りまで幅広い人に優しく情報を伝える“人に優しいデジタルインターフェース”を持ったデバイスであり、今後利用される用途がさらに拡大していくと考えています」と語るのは、ユカイ工学 代表取締役 CEOの青木俊介氏。

 emoは丸い雪だるまを思わせるシンプルながら愛らしいフォルムをしており、サイズは幅95×奥行き95×高さ141mmと、両手の手のひらに乗る小型サイズのロボットだ。感情を表現する手段として、頬が光ったり、頭の上にある赤いぼんぼりや頭部が動いたりする。高性能なマイクアレイと音声認識技術によって、ユーザーが話しかけた言葉を精度高く識別する。また、会話育成ゲーム「シーマン」シリーズの知見が組み込まれた独自の会話エンジンを搭載し、挨拶や何気ないつぶやきに独自の言語「エモ語」で応えてくれる。

家族の空間に寄り添う機能

emoの隣のブロックは別売りのセンサーデバイス。振動センサーや鍵センサー、部屋センサー、人感センサーなどが用意されている。

 emoには専用のスマホアプリが用意されている。本アプリとemoを組み合わせることで、スマホを持たない家族にもメッセージを届けられる。例えばemo側から「何時に帰ってくる?」と音声でメッセージを送ると、スマホアプリ側で受信し、それに対するテキストメッセージもアプリを経由してemoが発話して知らせてくれる。スマホなどの連絡手段を持たない小さな子供と親のコミュニケーションを円滑化するような役割も果たしてくれるのだ。

 また、予定もemoが音声でリマインドしてくれる。例えば高齢者は、日常的に薬を服用しているケースが多いが、その服薬をうっかり忘れてしまうこともある。「同居している家族から『お薬飲んだ?』と確認されると、ムッとなってしまう人も少なくありません。しかしemoが『お薬の時間だよ』とリマインドすると、そうした抵抗感なく服薬してくれるそうです。このリマインダー機能はかなり幅広いユーザーに使われていますね」と青木氏。また、「今日の天気を教えて」や「タイマー3分セット」といった声での操作に対応している。

 青木氏は「声による操作ができるデバイスとして、現在だとスマートスピーカーの認知度が高いですが、最大の違いとしてemoにはWi-Fiモデルのほか、ネコリコが提供するLTEモデルが用意されていることが挙げられます。また、emoには内部に照度センサー、振動センサー、人感センサーといった三つのセンサーを内蔵しています。そのほか、ドアなどに取り付けられる振動センサーが付属品として同梱されており、組み合わせて活用すれば子供が帰宅したときに、ドアの振動を検知してemoからメッセージを発信するような使い方が可能です。プラットフォームとしての機能が充実している点が、スマートスピーカーとの違いと言えます」

サービスと組み合わせやすいAPI

 ユカイ工学はemoをほかのサービスやデバイスと連携できるAPI「BOCCO emo APIs」を提供している。emoに好きな言葉をしゃべらせたり、既存のアプリやサービスと連携したりできる「Platform API」と、医療機器や事務機器などの業務システムやデバイスと連携した音声アナウンスが行える「Custom Kit」が用意されており、活用することで非常に自由度高くカスタマイズできる。

 これらのAPIを活用した企業の活用事例も多い。例えば、RIZAPとJDSC、ユカイ工学が3社合同で行った健康寿命延伸プラットフォーム事業の実証実験では、RIZAPトレーナーがemoを介して高齢者への運動サポートや食事指導を行うことで、フレイル(加齢で心身が衰える状態)予防の成果を得られた。親しみやすいロボットデザインやインタラクションによって、高齢者の負担なく継続的な運動や健康な生活習慣を実現できたのだという。

「製薬会社とのプロジェクトで、服薬の習慣化をemoがサポートできないか実証実験をしたこともあります。センサーが付いた服薬カレンダーとemoを組み合わせることで、emoが服薬を促したり、飲んだかどうか把握してくれます。また、最近はドライバー支援でロボットを活用する例も増えてきています」と青木氏。emoが安全運転のアドバイスを行うことで、高齢者の事故低減につながる可能性があるという。またロボットを乗せることで、1人の運転よりも安全を意識する同乗者効果も狙えるそうだ。

 介護施設での導入事例もある。センサーと連動させることで、部屋から出るとemoが声掛けを行うなど、介護職員の負担低減につなげている。

 青木氏は「まずは一人暮らしの高齢者の住宅から導入を広げていきたいですね。見守りというとセンサーを付けて監視しているような状況になりがちですが、一番重要なのは見守られている側の笑顔を増やしたり、QOLを上げたりすることです。例えば、ふさぎ込みがちだったおじいちゃんが、emoによる定期的な声掛けによって前向きになったという事例もあります。ただのセンサーによる見守りではできない、ロボットならではの機能を今後も提供していきたいですね」と展望を語った。

専用のスマホアプリからメッセージを送ったり、emoを経由した音声メッセージを受信したりできる。
スマホを持てない子供でも、emoに話しかけるだけでメッセージを送れるため、家族のコミュニケーション円滑化に役立つ。