クリエイターの「描く」の最高峰を目指した

ワコム「Wacom Cintiq Pro 27」

PCを使って作画などのクリエイティブな作業に取り組む人たちの多くは、マウスではなくペンとタブレットを使っている。そのタブレットには、手元に置いてマウスのように遠隔操作するペンタブレット、いわゆるペンタブという種類と、液晶画面がタブレットとしての機能を備える液タブがある。今回のガジェット「Wacom Cintiq Pro 27」は26.9インチの液タブで、その中でもワコム史上最高峰の性能を目指した最新機種になる。マウスでPowerPointの作画をしている身からは、想像もつかないクリエイティブな世界が垣間見られる1台だ。
text by 森村恵一

リフレッシュレート120Hzの追随性

 筆者には絵心がない。鉛筆で字を書くのも不得手なのでPCでの描画はキーボードとマウスに頼ってきた。そんな素人目にも圧倒的に理解できる最高峰感が、リフレッシュレート120HzというWacom Cintiq Pro 27に採用されている液晶モニターと、その性能を引き出すセンサーパネルの優秀さにある。細かい仕様は後回しにして、まずWacom Cintiq Pro 27を使ってみて実感したのは、そのスラスラ感だった。Wacom Cintiq Pro 27の上で専用ペンを動かすと、まるで紙に描いているように引かれた線が極めてスムーズに描かれていく。このスラスラ感は、安価なペンタブやリフレッシュレートの低いタブレット端末での「お絵描き」とは一線を画す体験だ。実際に、ワコムがプロのイラストレーターなどのクリエイターにWacom Cintiq Pro 27の体験会を開催したところ、このリフレッシュレート120Hzの圧倒的な追随性能を高く評価したイラストレーターが多かったという。「描く」ことを生業としているクリエイターにとってみれば、いかに自分の感性に近い反応をしてくれるかが、液タブの命とも言えるのだろう。試しに、同じWacom Cintiq Pro 27でリフレッシュレートを60Hzにして全く同様の描画アプリで線を描いてみると、見事に追随性能の遅延が感じられた。素人でも60Hzと120Hzの違いを感じられるのだから、プロのクリエイターにとっては圧倒的に感度の高い液タブに感じられそうだ。

 もっとも、そのリフレッシュレート120Hzを4Kで実現するためには、それ相応のPC性能が必要になる。具体的には、PC本体よりもグラフィックボードの性能だ。NVIDIA製ならば「RTX 3090」シリーズが、AMD製ならば「Radeon RX 6950 XT0」シリーズが推奨される。どちらも15万円超えの高性能なものだ。また、これだけのグラフィック性能を備えたモバイルPCとなると、ほぼゲーミング系ノートPCになるだろう。それだけ、4Kで120Hzの世界は、グラフィックの観点でも上位レベルのPCが求められる。

本体の左右背面に搭載したExpressKeyは利き手を問わない設計だ。描画していない手で即座に機能などを呼び出せる。
Wacom Pro Pen 3は8,192段階で筆圧レベルを感知し、線の強弱や濃淡を精細に反映する。ペンの傾きも検知するため、精緻な陰影を自然に表現する。

イラストレーターの要望を細部へ反映

 数千円で手に入るペンタブは、安価な専用ペンとカッティングボードのようなタブレット板で構成されている。それは、昔の文房具に例えるならば、わら半紙と安い鉛筆のようなものだろう。それに対して、Wacom Cintiq Pro 27はプロの画家が使うカンバスとイーゼルに筆やパレットを取りそろえたような豪華さだ。まず、ペンに当たる付属品の「Wacom Pro Pen 3」は、同梱されている複数のパーツを組み替えることで、グリップの太さやサイドスイッチの数に、ペンの重心までもカスタマイズできる。そうした妥協のない「描く」をWacom Pro Pen 3は実現しようとしている。

 また、別売りの専用スタンド「Wacom Cintiq Pro 27 Stand」は、高さや角度を自由に調整できる。液タブで描くクリエイターの多くは、机の上にフラットに本体を置くのではなく、イーゼルのように自分の描きたい角度に調整するのだという。それに加えて、著名な版画家が版木を回しながら掘っていたように、イラストレーターも液晶モニターを紙のように回して描きたいらしい。そこで、専用スタンドWacom Cintiq Pro 27 Standでは、本体を左右それぞれ20度まで回転できる。さらに、VESAマウント規格にも対応しているので、サードパーティー製のモニターアームも取り付けられる。※

 もちろん、Wacom Cintiq Pro 27本体にも、数々のこだわりが凝縮されている。その顕著な例が、本体の背面左右に用意されているグリップとショートカットができるボタン「ExpressKey」だ。背面のグリップは、右利きでも左利きでも同様に使えるように、シンメトリーに設計されていて、握った位置に複数のボタンが配備されている。ExpressKeyは、設定メニューの「ワコムセンター」での変更により複数のアプリケーションで頻繁に使う機能やデスクトップのショートカットが割り当てられる。この仕組みにより、いちいちペンでメニューをタッチせずによく使う機能を手早く実行可能だ。

 さらに、従来製品「Wacom Cintiq Pro 32」からのフィードバックにも反映している。本体背面の上部に「マルチタッチ機能オン・オフ切替スイッチ」を新たな機構として装備している。本機構は、以前はソフトウェア上で処理していた。しかし、ペンをモニターに当てる直前に、手のひらがタッチ操作に反応する誤操作があったという。こうしたケースへの改善の要望を受けて、物理的なスイッチにより手早く確実にオンオフができるボタンに刷新したのだ。

※Wacom Cintiq Pro 27単体ではスタンドを付属しないため、Wacom Cintiq Pro 27 Standかサードパーティー製のモニターアームの別途購入を推奨する。

液晶モニターとしての性能も最高峰

最後になってしまったが、タブレットとしての使い勝手だけではなく、液晶モニターとしての性能もWacom Cintiq Pro 27は最高峰を目指している。Adobe RGB カバー率は99%で、DCI-P3 カバー率も98%までに対応している。商業印刷とコンバーターを対象とする最も強硬なカラー品質認定「Pantone 認証」を取得。「Pantone SkinTone 認証」も取得しており、WebデザインやDTP、写真、映像編集などプロの制作に必要な色域もプリセットから選択できる。プロのクリエイターはもとより、グラフィックや作画関連のクリエイティブ部門を抱える企業内クリエイターにも提案できる最高峰の液タブと言えるだろう。