人が方向性を定め、エージェントが完結させる開発スタイルへ
ソフトウェア開発プラットフォームとして、多くの開発者が利用するGitHub。2022年6月にはAIコーディングアシスタント「GitHub Copilot」が正式リリースされ、ソフトウェア開発における各工程でAIによる支援が受けられるようになっている。AI活用によってエンジニアのソフトウェア開発プロセスはどのように変化し、エンジニアに求められる役割は今後どのように変わっていくのだろうか。
活用広がるGitHub Copilot

角田賢治 氏
日々利用ユーザーが増加しているGitHub。その最新動向について、ギットハブ・ジャパン 日本・韓国エンタープライズ担当シニアディレクター 角田賢治氏は次のように語る。「世界のGitHubユーザー数は現在2億2,500万人で、Fortune 500企業の90%以上が本プラットフォームを活用しています。そのうちGitHub Copilotを利用しているユーザーは5,000万人です。GitHub Copilotは20以上の最先端LLM(大規模言語モデル)に対応しており、毎日数万数十万人規模の利用者が新たに利用を始めています。また、日本のGitHubユーザーは543万3,000人以上、GitHub上で開発する組織数は26万7,000以上です」と語る。
利用者数が増加するとともに、GitHub上でのコード作成量も大きく増加している。角田氏によると、2025年から2026年にかけて、GitHub上でのソースコードのコミット量は14倍に増加しているという。この増加率の背景には、AIコーディングエージェントなどを活用する開発者がコードを高速に作成していることが挙げられた。一方、このコードの作成量が最終成果物のリリース速度に直結しているわけではないという。角田氏は「製品化に当たっては、ソースコードの品質や信頼性の検証やセキュリティの確保などが必要になります。こうした製品化に至るまでの全てのプロセスを見ると、ソースコードのコミット量には及んでいない状態です」と指摘する。
品質と生産性を両立する開発へ
GitHubではこの課題に対して、「エージェントネイティブ・エンジニアリングシステム」を提示した。これは、人間は方向性を定めて全体を統制し、AIエージェントが各タスクの実行を担うという考え方だ。GitHubでは本システムを支える要素として、「進化する最新AIの提供」「信頼できる開発成果物のリリース」「AI活用のビジネス価値化」の三つを提供していく。
日々新しいAIモデルや機能がリリースされる中で、ユーザーが自分のやりたいことに対して最適な選択肢を判断することが困難になっている。GitHub Copilotの「Auto」モードを使えば、タスクや質問に応じて最適なモデルを選択してくれる。単純なタスクには軽量なモデル、複雑なタスクには高性能なモデルを自動で割り当てることで、コストコントロールも実現できる。角田氏は「新しいAIツールは魅力的ですが、その登場に応じて新しいツールに移行するのではなく、開発者が日常的に使うターミナルやコマンドライン(CLI)などの開発環境で使えるようにしたいというニーズは多いでしょう。GitHub CopilotのAutoモードを使えば、いつも通りの開発環境で、AIモデルやエージェントを意識せずに、最先端のAIの力を得ることが可能になります」と語る。
信頼できる成果物をリリースするためには、セキュリティや品質が担保されている必要があるだろう。人やAIによって設定やガバナンスを変えることは、時間にもコストにも負担になる。GitHubでは成果物のセキュリティと品質を担保するための機能を提供している。これらの機能により、コードの安全性や品質を確認できるだけでなく、企業のガバナンスや開発ルールに沿って開発されているかどうかもチェックできる。
ソフトウェア開発に当たっては、市場調査やビジネス要件をまとめる計画作業から、リリースし運用に至るまで各工程にさまざまな人が関わる。工程や人によって異なるツールを使い、ナレッジが分散してしまうことも少なくない。こうした開発環境では、一番最初の計画段階からリリースまでの工程をAIが参照しチェックすることが困難になってしまうのだ。GitHubでは、リポジトリ上に計画から運用までの情報を一元的に集約することで、そのプロジェクトに関わる人やAIエージェントが全て同じコンテキストを参照でき、より成果物の精度や品質を高めることが可能になるのだ。
AI時代に求められるエンジニア像
GitHubでは、GitHub Copilotの利用状況や導入効果を可視化するダッシュボードも提供している。企業向けの「GitHub Enterprise」では、アクティブユーザー数や機能別利用状況、利用モデル、利用言語などを確認できるほか、詳細な分析用データのエクスポートにも対応している。これにより、組織内でGitHub Copilotがどの程度活用されているのかを把握できる。角田氏は「生産性を評価する際には、時間当たりのアウトプット量だけでなく、エンジニアの満足度、コード品質、開発速度などを含めて捉える必要があります。GitHubではこれらのデータや利用者アンケートを用いて収集し、指標とできる『GitHub’s Engineering System Success Playbook (ESSP)』を公開しています」と語る。
AIがコード作成からリリースまでを支援してくれるGitHub Copilot。しかしこのようにAIが開発環境を支援してくれる環境では、エンジニアに求められる能力は変わってくるだろう。今後のエンジニアには、どのようなスキルが求められるのだろうか。角田氏は「エージェントネイティブエンジニアリングシステムによる開発環境においては『人が方向性を定め、エージェントが完結させる』開発スタイルに変化します。エンジニアの仕事も開発プロセス全体を設計し、どのタスクを誰またはどのAIエージェントに担わせるかを定め、実行結果の確認とエラーハンドリングも設計するといった開発サイクルが正常に働いているかどうかを確認する立場へと変化していくでしょう。一方、課題となるのがジュニアエンジニアの育成です。これからのジュニアエンジニアはGitHub Copilotを積極的に利用し、設計方法、開発方法、会社のルールに沿った進め方を学びながら成長していくことが求められるでしょう。今後3〜5年の間に、ほぼ全ての企業でエンジニアだけでなくナレッジワーカーにもAI利用が一般化することで、AIエージェントをどう統制し、どう動かし、どのように効率化するかを担う管理・統括視点の人材が増加していきます。一方で日本市場ではAI導入が進んでいない企業も多く、早期導入企業との格差が開いています」と語る。早期にAIを導入することで、AIエージェントを管理・統括する人材の育成も進めやすくなる。エンジニアに限らず多くのビジネスパーソンに求められるこれらのスキルの育成を、多くの企業が取り組んでいく必要があるだろう。




