ジュニアエンジニアにも全体を統括する力が求められる

「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する」をミッションとして掲げているエクサウィザーズ。法人向け生成AIサービス「エクサベース AI」をはじめとしたAIエージェント群「エクサベース」シリーズを提供し、企業変革の加速を支援している。そんな同社では早くから、Anthropicの「Claude Code」などをはじめとしたAIコーディングエージェントを活用し、AI駆動開発を加速させている。組織全体にAI駆動開発が広がる同社の開発体制を見ていこう。

最大20倍の開発速度へ

エクサウィザーズ
山下聖悟 氏

 エクサウィザーズでは、AIコーディングエージェント登場以前から、コーディングにAIを活用している。Anthropicの「Claude Code」が登場して以降は、社内の先行部隊を皮切りに、現在は全社に展開し活用が進められているという。

 AIとの対話を通じて開発を進める手法を「バイブコーディング」と呼ぶが、エクサウィザーズではAIに全面的に開発を委ねる方式ではなく、開発の過程に適宜人間が介在する「AI駆動開発」の手法を採用している。エクサウィザーズ グループ執行役員 兼 技術統括部 部長 山下聖悟氏は「当社では認証などの重要領域の安全性担保や、プロダクト全体の統一性を図るため、人間が適宜介在を行っています。一方で、AIが開発したものを人間が全てレビューするとなると、今度は開発スピードが下がってしまいます。そのため、AIはチームごとのコードスタイルやログ記述方法の統一、GitHubへの機微情報の誤プッシュを防ぐ事前チェックなど、レビューに近い用途にも活用されています。実際、プロトタイプ開発などを行う小規模チームであれば、AIをフルに使った開発が可能ですが、既存のシステムの改修などを行う場合は、人間によるレビュープロセスを必ず挟むなど、プロダクト規模やプロジェクトの性質、開発ステージに応じてルールの策定を行っています」と語る。

 このようなAI駆動開発に取り組む中で、チームの在り方はどのように変わってきたのだろうか。従来の開発体制では、テックリード、プロダクトマネージャー(PdM)、デザイナー、エンジニアが分業する大人数体制が一般的だったという。しかし、AI駆動開発が一般化した現在は、エンジニアがデザイナーと相談しながら顧客ヒアリングの内容を基にプロトタイプを作成したり、ビジネス担当者がClaude Codeでプロトタイプを作成したりするケースが増えている。その結果、開発チームの小規模化が進んでいるという。

「開発ではコミュニケーションコストが大きいため、小さいチーム体制の方が開発スピードが上がりやすいという効果もあります。実際、AI駆動開発によって、プロジェクトやチーム構成によって差はあるものの、開発速度は従来比で約1.2倍から最大20倍まで向上しています。特に経験豊富なシニアエンジニア(熟練エンジニア)が主体となる少人数チームにおいては、AIに実装をまとめて作成させ、シニアエンジニア本人がレビューを行うことで、20倍規模の開発速度の向上が実現できています」と山下氏は語る。

変わるジュニアエンジニアの役割

 一方、AI導入以前に開発されたプロダクトは改善が中心となるため、新規開発と比較して開発速度が向上しにくい。またジュニアエンジニア(新人エンジニア)が開発したプロダクトに対しては、シニアエンジニアがレビューを行うため、その分開発速度は落ちる。こうしたボトルネックに対しては、人間が担当する範囲を明確化し、共通ルールをClaude Codeの「スキル」に蓄積することで改善が見込まれると指摘された。

 またAI駆動開発によって、ジュニアエンジニアの育成に変化も生じているという。山下氏は「当社ではジュニアエンジニアにもAIを積極的に使わせる方針です。コーディングエージェントを活用すれば、ジュニアエンジニアでもバイブコーディングによって見栄えのよいプロダクトを開発できます。一方、ジュニアエンジニアに仕事を渡し、そのままAIエージェントへの依頼・転送だけで成果物を返す運用では、本人の成長につながりません。そのため、ジュニアエンジニア自身が得た学びをエージェントのスキルとして残し、その後の開発に生かせるようにすることが、本人の成長につながります。また、AIの進化に伴って、現在ではジュニアエンジニアが従来のテックリードの立ち位置に変化していると感じています。従来のジュニアエンジニアの立ち位置にはコーディングエージェントがおり、現在のジュニアエンジニアは全体を統括して見るテックリードのような設計・指示のスキルが求められています」と語る。

 こうした環境の変化の中でエクサウィザーズでは、新入社員や中途採用者に向けたオンボーディングマテリアルの整備を強化している。具体的には、最低限知らなければならない事項を明示しつつ、社内ドキュメントや属人的知識をストレージに残し、AIエージェントに質問すれば必要な情報を得られる状態を整備している。資料は古くなりやすいため、更新担当者を置くほか、仕様変更に対する自動更新も一部導入しているという。

exaBase コーポITエージェントは企業ごとに異なるセキュリティチェックシートやフォーマットをそのまま登録し、既存の審査フローを崩さずにチェックできる。
AIによる回答は、根拠となる条文をセットで表示するため、チェック担当者は情報の正確性を即時に確認可能だ。

AI時代の開発に求められる統制

 AI駆動開発によって、SaaSやツール導入時の規約・データ取扱い確認を支援するセキュリティチェックエージェントなどが開発されているという。通常、SaaSの導入可否判断には規約レビューなどで1日以上かかることがあり、これがボトルネックになる。そこでエージェントに規約の取得・確認を担わせ、最終判断は人間が行うことにより、このセキュリティチェックを効率化させるものだ。社内業務改善を起点とした取り組みで、セキュリティチェック部分は「exaBase コーポITエージェント」としてトライアル提供されている。

 エクサウィザーズではこうしたAI駆動開発をさらに加速させるため、AIエージェントの活用を前提に、組織・開発プロセス・サービス提供モデルをゼロから設計した「AIネイティブ」企業として運営する子会社「Exa Frontier Edge」を2026年4月に設立している。山下氏はExa Frontier Edgeの取締役 技術統括も務めている。

 開発速度を高速化し、これまでにない新しいプロダクトの開発や、ビジネスの高速化を実現するAI駆動開発だが、欠点もある。例えばAIは、十分なコンテキストや指示を与えなければ、アクセスできない領域などがあるため、セキュリティや運用保守の領域を完全にカバーすることが難しい。そのためAIがアクセスできないインフラ構成や全体を横断した設計、フォルダー構成やインデックスに含まれない情報は人間が担保する必要がある。特に、バイブコーディングで開発したアプリなどを社内データに連携する場合などは、監査ログを併用することが不可欠であると山下氏は指摘する。

「バイブコーディングで開発したものに対して社内のデータを連携させることは、実はかなりハードルが高いです。社内データへのアクセスは『いつ、誰が、何をしたか』という監査ログを残す必要がありますが、バイブコーディングではこうした監査ログの実装は見落とされがちです。当社ではSaaS連携時にゲートウェイを設け、ログ取得と不適切なデータアクセスの遮断を行う仕組みを構築しています。サイバー攻撃が激化している昨今、攻撃者側もAIで脆弱性を探索し、侵入後のスキャンを自動化しています。AIコーディングエージェント導入と同程度に、セキュリティとガバナンスへ投資することが求められるでしょう」と山下氏は指摘した。