要件を正しく設計し、セキュリティを担保する

AI食事管理アプリ「あすけん」を運営するaskenは、本アプリの新機能の開発プロセスにおいて、AIコーディングエージェント「Claude Code」を活用したバイブコーディングを行っている。新機能開発にAIコーディングエージェントを活用することで、どのような成果が得られ、どのような課題が存在したのだろうか。AIコーディングエージェントが提供する価値と、人間が行うべきサポートを見ていこう。

新機能開発にPdMがClaude Codeを活用

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伊藤拓哉 氏

 あすけんとは、食事画像やバーコードを読み取るだけで、食べた食事のカロリーや栄養素が表示され、ユーザーに合った目標摂取エネルギーや各種栄養素に対する過不足を可視化できるAI食事管理アプリだ。2026年5月時点での累計会員数は1,400万人を突破するなど、多くのユーザーに利用されている。

 本アプリの運用・開発を担うaskenでは、新機能の開発工程にAIコーディングエージェントを活用している。
 askenのAX推進部 シニアプロダクトマネージャー 伊藤拓哉氏は「食事の内容を話し言葉で伝えるだけで食事を記録できる『AIおまかせ記録』や、食生活を1週間単位で振り返ることが可能な『ふりかえりレポート』などの新機能開発に、バイブコーディングの手法を取り入れています」と語る。

 AIおまかせ記録のβ版機能の提供が開始されたのは2025年9月30日のこと。2025年初頭にAIコーディングツールが著しく進化してきたことで、asken社内のエンジニア組織でも各種AIコーディングツールの検証・導入を進めていた。そうした中、伊藤氏もプロダクトマネージャー(以下、PdM)の立場からAIコーディングエージェントを活用することで、自然言語でアプリのプロトタイプ開発を簡単に行えるようになったという。その当時開発した機能が、AIおまかせ記録の原型になっている。一方で、この機能をあすけんアプリ内に実装するに当たって、大きな壁にぶつかった。通常であれば実装に2人月程度かかる開発が、6人月にまで増加したのだ。

 伊藤氏は「当時は、バイブコーディングで素早く作れることに注力するあまり、要件定義や基本設計といったリファインメントのプロセスをスキップしてしまっていました。それによってパフォーマンス・スケーラビリティなどの非機能要件が設計に盛り込まれておらず、手戻りが多発したことで工数が増加してしまっていました。また、バイブコーディングで作成した機能をゼロから作り直す際には、既存コードから仕様を読み解くリバースエンジニアリング作業が必要となりました。しかし当時のAIモデルでは十分な精度が得られず、多大な時間を要することとなりました」と振り返る。

スキルの活用で品質を担保

 こうした課題を解消するため、要件定義・リファインメントを省略しないようプロセスの見直しを行った。「『Claude Opus 4.5』以降はAIモデルの性能が非常に向上し、リバースエンジニアリングの精度も大幅に改善しています。そのためバイブコーディングで開発した機能を作り直す手間も大幅に削減できました」と伊藤氏は語る。冒頭に述べたふりかえりレポートは2026年6月29日に正式リリースした機能だが、本機能では、バイブコーディングで作成したコードの大部分をそのまま本番環境へ投入できるレベルに達したという。

 ふりかえりレポートとは、食生活を1週間単位で振り返ることのできる機能だ。従来のあすけんは1日単位の食事記録と、それに伴うフィードバックが中心となっていたが、日々の食生活では食事量の増減が発生する。「あすけんとしては1週間単位で食事を調整してほしいという思いがあり、今回のふりかえりレポートの提供に至りました。週単位でのフィードバック表示は社内でも初の取り組みでしたので、バイブコーディングで迅速に作成・修正する反復型の進め方を採用しました」と伊藤氏は語る。本機能開発に当たってはあすけん独自の「プラグイン」や「スキル」※を作成し、エンジニア全体で利用することで品質の標準化や担保に役立てているという。

※プラグイン、スキル:AIが社内の開発ルールや作業手順に沿ってコードを生成できるようにするClaude Codeの仕組み。

誰もが機能開発できる環境へ

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岩間良浩 氏

 バイブコーディングで開発した機能は、正式提供前に一部のユーザーが検証に参加できる「あすけんラボ」での先行提供も行い、ユーザーからのフィードバックを受けている。このあすけんラボは社内従業員が試用して提供価値の有無を判断する第一段階と、実際のユーザーに提供する第二段階の二段階に分けて活用されている。社内検証の第一段階で検証した結果、データやフィードバックの見せ方に関して、従業員からの反応を基に採否判断や調整を行った例もあるという。

 asken プロダクト開発部 シニアテックリード 岩間良浩氏は「あすけんラボで提供価値があると判断された機能であっても、本番環境でニーズがあるかどうかは実際に公開しないと分かりません。本番環境へ新機能を早くリリースすることは重要ですが、その一方でエンジニアはあすけんラボ発の新機能の開発や実装と、既存機能の活用促進の両方を担う必要があります。エンジニア組織全体の生産性向上に向けて、開発工程の定義・整備にも取り組んでいます」と語る。

 また岩間氏はエンジニアの視点から、バイブコーディングによる開発のメリットとデメリットを次のように語る。「近年、バイブコーディングでは保守性や大量アクセスに耐える設計なども一定程度カバー可能になり、本番投入できる品質が得られる場面が増えています。一方で、セキュリティはエンジニアが担保しなければ危険です。昨今は情報漏えい事案も増えており、バイブコーディングで無差別にアプリや機能を開発するのではなく、要所の設計・確認を行う必要があるでしょう」

 あすけんでは今後、AIを活用した画像解析機能の大幅な進化や、記録後のフィードバック改善など、記録の簡便化やユーザーの状況・属性に応じたパーソナライズ機能の搭載などを進めていきたい考えだ。伊藤氏は同社のバイブコーディングについて「今後は、栄養士などコーディングを行わない従業員でも、試したいコンテンツを手軽に作成・入稿できる管理画面や実験基盤の構築を進める予定です。この基盤も私がバイブコーディングで作り、従業員がコンテンツを量産し、迅速にユーザーへ試せる体制の構築を目指します」と語った。

バイブコーディングで開発したAIおまかせ記録のUI画面。自然言語で食べたものを記入することで、AI栄養士「未来さん」がそれに則したメニューを表示してくれるため、記録の負担が軽減できる。
ふりかえりレポートのUI画面。1週間の食事記録をAIが分析し、食生活の傾向や改善ポイントを教えてくれる。