製造現場を支援する富士ソフトのフィジカルAI
スマート工場を推進するデータ連携技術

9月29日、富士ソフトは製造業のスマート工場化に向けた「『Gen.2 スマート工場事業戦略』説明会」を実施した。本説明会では、同社が製造現場におけるスマート工場を成長領域として捉え、顧客に提供していく価値などの事業戦略が説明された。同社では、従来から組み込み制御、業務システム、 ITインフラ、運用サービス、幅広い領域で顧客の事業をサポートに取り組んできた。現在AIによる急速なビジネスシーンへの参入がある中、製造設備にどのようにテクノロジーを実装し、導入した仕組みをどう安定的に稼働し続けるのか。富士ソフトが構想する、製造現場に生み出すバリューと事業戦略を紹介していく。

分断された工程をAIでつなぐ
AI×IT×OTで現場を稼働

 会見冒頭、富士ソフト 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める室岡光浩氏が「Gen.2 スマート工場事業戦略」におけるスマート工場戦略の基本思想を説明した。「当社が目指すのは、スマート工場をデジタルスレッドでつないでいくフィジカルAIにより現場を動かすことです。製造業には、製品工程設計、ラインの設計や構築、生産の実行、物流、サプライチェーン、運用保守まで、数多くの工程とシステムが存在しています。しかし、これらの情報が分断されている状況ではAIを導入してもその力を十分に活かせないでしょう。そこで当社は、設計情報、現場のデータ、品質情報、保全履歴を部門やシステムを越えて連結するデジタルスレッドを基盤に据えます。その上で、AIの役割を三つに整理しシステムに反映させます。まず一つ目が『つなぐAI』です。PLM、MES、BOM、IoTを異なるシステムや既存設備の情報を共通言語化し、設計変更やトレーサビリティへの対応を迅速化させます。二つ目は、『活かすAI』です。現場に蓄積された暗黙知など、属人的化している工程が多く存在するかと思います。こちらは履歴や文書をRAG、AIエージェントで活用し、判断の標準化と継続的な改善につなげたいと捉えています。三つ目は『動かすAI』ですが、これはとても重要です。設備やラインをリアルタイムかつ安全に動かす取り組みで、エッジのAI、ロボット、制御技術を統合します。そして当社が特に重視しているのが、お客さまの工場とブラウンフィールドになっている部分です。お客さまの要望としてはすでに稼働している設備やシステムを生かすという要望が想定されますが、当社では特定ベンダーに限定されない形でAI、IT、OTを統合し、製造現場を止めることなく変革します」

製造現場の安定稼働を支援
データを連携させる機能構成

 製造現場が抱える課題は、一社一社異なる。これまで富士ソフトは、顧客との個別案件を通じて得られた知識や実践的なノウハウを蓄積・整理整頓し、成功パターンを形成することで標準化を進めてきた。また多様な製造現場に展開できるよう、再現可能な型を模索しているという。その型は新設工場に留まらず、ブラウンフィールドの既存設備にも広げていく考えだ。これにより、検証期間の短縮や導入のリスクの低減、既存設備を生かした導入、それから製造現場への早期定着という部分の価値を顧客に提供していくという。

 次に、具体的なオファリングの内容は同社 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット長 インダストリー事業本部長 大石崇人氏から紹介された。「前述した『つなぐAI』『活かすAI』『動かすAI』という三つのAIのテーマに対し、四つのオファリングメニューを提供しています。一つ目のつなぐという点では、設計開発、検証の各工程をPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)で管理を行うデータ連携のソリューションです。二つ目は仮想シミュレーションの世界と物理環境でロボットをインテグレートする、ハードウェアを含めたデジタルツインのソリューションを用意しています。三つ目は生産設備におけるデータの収集およびトレーサビリティ、自動化です。四つ目は設計、実績データを連携するデジタルスレッドがあります。このメニューにプラスして、ロボットのインテグレートに向けてのシミュレーションも含めたフィジカルAIソリューションを整備しています」

富士ソフト 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 室岡光浩氏
富士ソフト 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット長 インダストリー事業本部長 大石崇人氏
富士ソフト 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット エリア事業本部長 南川 勝氏

無人で完結するフィジカルAI
スマートシステムの社会実装へ

 デモ環境の説明ではオファリングとの関係図が展示された。「スマート工場全体のアーキテクチャでは先ほど説明した四つのオファリングメニューが配置されています。オファリング1では設計から開発の高速化を行うため、CAD/CAE、PLMと、製造工程の融合としてMBSDを動かす形になっています。次に、オファリング2ではPLMとMESで設計、製造実行を統合管理します。オファリング3では、フィジカルAIやデジタルツインの取り組みとしてIoTセンサー、ロボットアームなどを使ったロボットの制御を行います。最終的なオファリング4では、デジタルスレッドにデータを全て集約し、それを元にデータの基盤を作成とデータの可視化、データを使った予兆保全、現場RAGで構成しています」

 デモで用意された製造環境では、加湿器を設計して、それを3D CADの図面に起こし、そのデータがPLMにわたってBOMやBOPというデータ形式に変換され、それを基に製造指示を起こすという工程でシステムが稼働している。製造工程はモニター上に映された。従来では製造の指示が現場に流れ、それぞれ部品の供給や検査が行われ、設計データが図面の管理を通して製造現場に共有されるものの、PLMではデータがサイロ化し、設計と製造部門のデータが共有できないという課題があった。「当社の環境を使うことでデータの共有化が促進されます。形成したデータが回り回って設計のデータに戻ってくることで、製造現場のデータがフィードバックとして機能するのです。設計からPLMを通してMESにわたり、製造現場に共有されたデータが戻ってくるというPDCAサイクルができることがデジタルスレッドで一番重要な機能です」と南川氏はシステムの特長を強調する。

 フィジカルAIのデモ展示では、中央にアームロボット、周りを囲むように製造ラインが配置された。奥側にカメラを設置し、動く物体を認識するカメラの内部では、AIによる最適な経路生成として、最適かつ最速での物体の掴み方や形状・サイズ認識、姿勢の推定が行われる。物体の形状を認識すると、吸引するタイプと掴むタイプのハンドが奥側に設置し、物体を認識した上で最適なアームを取り替えられる。この工程を経路生成を含め形状認識として学習し、ラインが動いているという仕組みだ。「本工程はアームロボットが最終的に物体を掴み、ライン上の計量器で最終重量を検査するところまで一気通貫で動いています。基本的にはこの製造で作成された図面を元に、工程のデータを読み取り、製造のアームロボットの操作までを実現しています」(南川氏)

デモの最後にはデータ基盤が提示され「今まで溜まってきたデータが蓄積しています。内容としては、データ基盤によるダッシュボードでの見える化と、現場RAG、予兆検知の三つで構成されている仕組みです」と南川氏が語った。

 終盤、同社が提示するスマート工場の考え方と具体的な実装イメージと将来展望について室岡氏はこう締め括った。「当社のねらいは設計、製造設備のデータがお互い連携し合って学習し、製造工程通りに稼働し続ける工場を目指すことです。これにより、設計情報や現場のデータを部門やシステムの壁を越えて活用できる環境の整備を実現します。また分析や予測で終わらず、設備やロボット、制御部分までシステムをつなげ、現場での成果を生み出すところまで実装を進めていきます。日本の製造業強化への貢献を考慮する上では、現在稼働している既存の工場や手を入れたい、継続して延命させたい、AI化したいといった多様な需要に対していかに支援し進化させるかが、最も重要なポイントだと考えています。当社は、製造業の設計から現場運用までの連携をサポートし、スマート工場の社会実装を推進します。また、今後も単なる技術提供に留まらず、お客さまの現場に入り、成果が生まれて使い続けられるシステム実装のパートナーとして、日本のものづくりの競争力向上を支援していきます」

カメラ認識やアームの自動操作などで製造ラインを稼働させているフィジカルAIソリューションのシステム。
デモ展示内に設置されたシステム構成図を解説するモニター。