中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)は、国の中小企業・地域経済政策における中核的実施機関として、起業から成長、事業継続に至るまで企業のライフステージに応じた幅広い分野の支援を行っている。
その一つとして行っているのが、中小企業の課題を解決するための補助金活用を支援する「補助金活用ナビ」の運営だ。
補助金活用ナビの運営や中小企業への支援を通して見えてきた補助金の申請や活用について、デジタル化・AI導入補助金にフォーカスを当てて話を伺った。
名称変更でAI活用を明確化

松原史恵 氏
中小機構では、補助金を活用して成果を出したいと考える中小企業の経営者を対象とした「補助金活用ナビ」を運営している。補助金活用ナビでは、経営戦略の立案からそれに基づく補助金の活用、その選択肢に至るまでさまざまな情報を閲覧できる。その対象となっている補助金の一つが「デジタル化・AI導入補助金」(旧:IT導入補助金)だ。
現在のデジタル化・AI導入補助金の概要について、中小機構 イノベーション助成グループ 助成推進課 デジタル化・AI導入補助金担当の松原史恵氏は「2026年度からIT導入補助金の名称がデジタル化・AI導入補助金に変更されています。しかし、名称変更に伴う大きな制度変更は発生していません。この名称変更の背景には、政府のAI活用推進方針を受け、本補助金がAI導入の対象であることを明確化するという狙いがあります。一方AI導入や高度なDXをしなければ採択されないという訳ではなく、紙業務のデジタル化(ペーパーレス化)といった従来型の申請も実際に採択されています」と語る。従来のIT補助金でもAIツールは補助金対象となっており、今回の名称変更に当たって大きく変化した補助金対象や申請枠はないという。
一方、今回の名称変更に伴い、「デジタル化・AI導入補助金2026」のWebサイト上にある「ITツール検索」には、小さなアップデートが加えられている。それは「生成AIを用いた機能を搭載したツールで絞り込む」「生成AI以外のAI技術を用いた機能を搭載したツールで絞り込む」というチェックボックスが用意されている点だ。本チェックボックスを選択することで、導入したいツールの中から、生成AIやAI技術が搭載されたものを絞り込むことが可能になる。
用意された三つの申請枠
デジタル化・AI導入補助金には、主に三つの申請枠が用意されている。一つ目は「通常枠」だ。通常枠は、業務効率化やDXの推進を目指すことを目的にITツールを導入する事業者を対象にしており、導入するITツールの機能数に応じて5〜450万円を補助する。補助率は原則2分の1だが、最低賃金近傍の事業者は3分の2となる。
二つ目は「インボイス枠」だ。インボイス枠は、「インボイス対応類型」と「電子取引類型」の二つの類型に分かれており、インボイス対応類型はインボイス制度への対応が必要な受発注ソフト、決済ソフト、PC、レジなどの導入を支援するものだ。補助額はITツールが最大350万円、ハードウェアはPCなどが最大10万円、レジなどが最大20万円となる。補助率は最大5分の4だ。
インボイス枠の中でもスマートレジの導入は重点支援対象となっている。スマートレジとは、タブレットやスマートフォンなどの汎用端末を活用したモバイルPOSレジを指す。従来のPOSシステムが搭載されていないレジ(ガチャレジやメカレジ)と比較して、売り上げや在庫、顧客情報などをまとめて管理し、業務の効率化や生産性向上を実現できるメリットがある。松原氏は今回の補助金で特にスマートレジがフォーカスされている背景を次のように語る。
「スマートレジを導入することで購買データが可視化されるため『何が売れ筋商品か』『どのような顧客が、いつ購入しているか』といったデータをすぐに集計できるようになります。このスマートレジの導入はインボイス枠の加点項目にもなっています。また、今後消費税率が変動しても、その変動に対して柔軟な対応が行えるという点においても導入効果の高いツールです」
電子取引類型は、発注企業が導入費用を負担するインボイス対応の受発注システムを支援する制度で、補助額は最大350万円、補助率は中小企業が3分の2、大企業が2分の1となる。
三つ目は「セキュリティ対策推進枠」だ。サイバー攻撃対策に必要なセキュリティサービスの導入・利用を支援する補助枠であり、補助額は5〜150万円、補助率は中小企業が2分の1、小規模事業者は3分の2となる。AIツールはこれら三つの申請枠のいずれでも申請可能だが、前述したITツール検索による絞り込みのチェックボックスは通常枠およびインボイス枠にのみ実装されている。
補助金の交付申請手順は、これら三つの申請枠においてほぼ共通だ(図参照)。「基本的な申請の流れはほぼ同一ですが、類型ごとに入力する内容が異なる場合があります」と松原氏は指摘する。

商店街単位での申請枠も用意
上記三つの申請枠は基本的に企業単位で申請を行うものだが、商店街など複数の中小企業、小規模事業者など10者以上が連携してITツールを導入するための申請枠として「複数者連携デジタル化・AI導入枠」も用意されている。本申請枠の申請主体は商工団体などだ。
複数者連携デジタル化・AI導入枠における基盤導入経費は会計、受発注、決済ソフトに限定されるが、デジタル化・AI導入補助金のツール登録制度に登録されていないソフトウェアやクラウドサービスも対象となる。またツールの導入経費のほか、消費動向等分析経費も補助対象経費に含まれており、例えば、AIカメラによる人流分析や、ポイントカードのデジタル化などが補助対象となっている。専門家への謝礼金や事務費なども補助対象だ。
今回のデジタル化・AI導入補助金への名称変更によって、申請件数への変動はあったのだろうか。松原氏は「全体的に申請件数は前年、前々年より減少傾向にあります。背景には、デジタル化に興味関心のある事業者は一通り申請を行ったことや、インボイス制度開始から約3年が経過し、対応が一巡したことなどが背景として考えられます。また今回から、過去申請者に対して、賃上げが申請要件として追加されており、申請のハードルが上がっていることも申請件数が減少した要因の一つとして考えられます」と語る。
IT導入補助金を含むデジタル化・AI導入補助金によるAI活用事例として多いのが、AI機能を搭載した会計ソフトの導入だという。特に勘定科目に対してAIが自動提案を行うことで、仕訳時間の短縮が実現できる。また今回重点支援対象となっているスマートレジ事例では、自動釣銭機との組み合わせによるおつりミスの削減や、売れ筋商品・来客時間帯の把握による商品開発への活用といった効果が期待できるという。
松原氏は「中小企業のデジタル化はITツールを一つ入れて終わりではありません。その便利さを実感したら、さらなるデジタル化へとステップアップしてもらいたいですね。中小機構では2026年3月から『省力化ナビ』というツールを公開しています。これは業種や地域、従業員数、困りごとをチェックすると、解決策となるツール候補や他社導入事例、補助金情報がPDFで出力されるツールです。デジタル化・AI導入補助金の申請に必要となる『GビズID』を入力すると、補助金申請の加点項目にもなりますので、本ツールも積極的に活用してもらい、補助金を活用しながらデジタル化を進めてもらえたらと思います」と締めくくった。
