ITコーディネータ協会は、経済産業省が推進する「ITコーディネータ」の認定・育成を担っている特定非営利活動法人だ。
ITコーディネータは「経営とITの橋渡し役」を担っており、経営戦略策定からIT導入・運用・改善に至るまでを伴走支援する。
同協会ではこうした専門家の普及や活躍機会の創出を進めるなど、中小企業のDXやIT経営支援に取り組んでいる。
同協会のこれまでの取り組みから、旧IT導入補助金を含むデジタル化・AI導入補助金の活用傾向と、行っている支援について話を聞いた。
IT導入支援事業者に行ってきた支援

井上研一 氏
ITコーディネータ協会では、2017〜2023年までIT導入支援事業者を対象としたIT導入補助金の徹底解説を実施していた。本研修ではIT導入補助金の制度の説明や、前年度採択率の分析、申請書類の書き方、加点項目への対応、審査内容やポイントなどを解説し、IT導入支援事業者がITツールの導入を行う中小企業や小規模事業者に対して、適切なサポートを行い、採択率を向上できるノウハウを伝えていたという。この研修は需要が一巡したことや、受講者数の減少に伴い、2023年を最後に終了している。現在は日本全国に約7,500名(取材時点)存在するITコーディネータが、公的支援機関や民間コンサルティング会社など、多様な立場からIT導入支援事業者や中小企業への支援を継続しているという。
ITコーディネータ協会 副会長 井上研一氏はデジタル化・AI導入補助金について次のように語る。「IT導入補助金は、2026年度からデジタル化・AI導入補助金へと名称変更がされました。当協会は本制度設計へ直接関与はしていませんが、この名称変更はAI活用を推進する国の方針が反映されたものとみています。またChatGPTやCopilotといった汎用的な生成AIだけでなく、会計ソフトやクラウドストレージなど、具体的な業務で利用するSaaSツールの中にもAI機能が盛り込まれたものが多数登場しています。今回のデジタル化・AI導入補助金では、ITツール検索機能において、AI機能を備えたツールを絞り込める機能も追加されています。また大きな変化ではありませんが、デジタル化・AI導入補助金は2026年6月の第3次公募から『デジタル化セカンドオピニオン』という制度がスタートしています。これはITコーディネータまたは中小企業診断士が、補助金申請企業の代表取締役とオンライン面談し、経営戦略に基づいたIT導入であるか第三者の視点から確認することで、通常枠における採択の加点項目になります」と語る。100名以上のITコーディネータが、このデジタル化セカンドオピニオンとして登録されているという。
通常枠の加点項目になる新制度
デジタル化セカンドオピニオンの制度の目的について、井上氏は以下のように整理する。
一つ目は、ITツールを導入する企業の経営者が主体的にコミットしているかどうかの確認だ。補助金を活用してITツールを導入する場合、経営者ではなくIT担当者などが主導するケースもある。しかし中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局が作成した「デジタル化セカンドオピニオンマニュアル」によると「デジタル化が進んでいる中小企業は、経営者自身がデジタル化を推進している傾向」にあり、また「デジタル化に対する経営者の関与が積極的であるほど、デジタル化が業績の改善につながる割合が高くなる傾向」にあるという。このような傾向から、経営者本人がデジタル化に取り組む意思を第三者の視点から確認することが求められているのだ。
二つ目は、IT導入支援事業者が主導したITツール導入になっていないかという確認だ。特に自社のツールを登録しているIT導入支援事業者は、営業視点での導入に偏ってしまう可能性がある。そのため、経営戦略に基づいた、必要なITツールの導入であるのかを第三者視点から検証することも求められているようだ。
デジタル化セカンドオピニオンにおける第三者(確認者)は中立性を確保するため、ITベンダーなどの事業者に属するITコーディネータは対象外となっている。また、デジタル化・AI導入補助金には通常枠、インボイス枠、セキュリティ枠の大きく三つの申請枠が存在するが、デジタル化セカンドオピニオンの加点対象は通常枠のみとなる。通常枠は対象業務やツールが多岐にわたり経営目標との整合性確認が特に必要であるのに対し、インボイス対応やセキュリティ対策で導入するツールは比較的明確であるため、デジタル化セカンドオピニオンの対象から外れているようだ。

ツール導入から経営変革支援へ

中村睦美 氏
企業内のITコーディネータおよびIT支援事業者として、デジタル化・AI導入補助金の支援を行っている九州ITコーディネータ研鑽会(ITCA届出組織) 研鑽部長 中村睦美氏は、デジタル化に対する経営者の姿勢について「実際の補助金申請では、経営者の意思は入っているものの、書類の作成や具体化は現場のIT担当者が行うケースが多く、経営者が主体的に関与している企業は決して多くはありませんでした。今回のデジタル化セカンドオピニオンはそうした経営者の姿勢を主体的なものに変え、ITを活用しながら企業経営をけん引していくように後押しをするものと捉えています。もともとIT導入補助金が始まったすぐ後にコロナ禍が重なったこともあり、IT導入補助金を活用して導入するツールはリモートワーク対応のツールが中心でした。その後もインボイス制度・電子帳簿保存法など、法制度の改正に合わせてその都度必要なツールを補助金で入れるという対症療法的な使われ方が続いており、IT導入支援事業者もそれらのツール提案がメインでした。しかし現在は顧客企業全体のロードマップを踏まえて、どう企業成長をしていきたいかを踏まえた提案が求められるようになってきています」と語る。今後、IT支援事業者に対して求められるスキルが高まることによって、制度趣旨に沿わない支援を行うIT支援事業者が淘汰される可能性も示された。
井上氏は「ITコーディネータはITと経営の架け橋を理念としており、日本全国の企業の生産性向上や新たな価値創造のお手伝いを続けています。またITコーディネータ協会の重点施策として、AI活用支援ができるITコーディネータを増やしています。その取り組みの一つとして2025年9月末に『中小企業向けAI活用ガイド』をリリースしましたが、2026年9月末にバージョンアップし『中小企業向けのAX推進ガイドライン』に改称してリリースする予定です。ITコーディネータにこのガイドラインを活用いただき、企業のAI活用支援を全国で広げていきたいですね」と語る。
中村氏は「経営課題に対して、IT支援事業者やITコーディネータが伴走支援をしてロードマップを作って行くことももちろん大切ですが、補助金申請後の活用・運用支援も重要です。ツール導入から継続的な生産性向上のスパイラルを実現するところまで支援できる体制構築が必要といえるでしょう」と語った。
