AI社員教育には資格試験が使える
ITリテラシーの教育に長年取り組んできた企業が、生成AI導入時の教育実施には戸惑いを見せている。全社的な経験の少なさと、生成AI導入のための具体的な目標設定が見えてこないためだ。しかし、導入する以上、企業はリスク回避のためにも、セキュリティをはじめ社員に事前に学習しておいてもらわなくてはならないポイントがあるだろう。
例えば英語なら業務で使う知識レベルと人材のマッチングには、TOEICが何点以上といった客観的な指標が設定しやすい。そこまで厳密ではないにしても、ITについても資格試験を社内教育の代わりにする、あるいは教育をサポートする形で利用するといった手法は取られてきた。「ITパスポート持っていれば、リテラシーを一から教える必要はないよね」と言った具合だ。従業員や応募者側からも、自分のITスキルを会社側に長々と説明する手間が省けるため、制度化されなくとも資格取得を目指す人は多かった。
同様に、自社でAIの教育ガイドラインを一から構築する代わりに、初心者向け生成AI資格試験の受験を制度化(難しければ推奨)すればいい。基本オンラインなので、受験時間は勤務時間内とし、結果の報告までをルール化する。社員教育のための時間はこれまでも取ってきたはずだし、そのうちの一定時間をAI用に割り振るわけだ。
とはいえ、教育を担当する側が資格試験を選択するための知識に不安がある場合もあるだろう。ここでは生成AI初心者向けの資格試験から代表的なものを紹介する。
国内団体主催の人気初心者向け2資格試験
国内の初心者向け資格試験では「生成AIパスポート」と「G(Generalist)検定」の2つがメジャーだ。「生成AIパスポート」を提供しているのは2023年に設立されたGUGA(一般社団法人 生成AI活用普及協会)。同協会は生成AIの社会実装を通じて産業の再構築を目指す民間団体。「生成AIパスポート」は延べ11万人の受験者数実績がある。一方の「G検定」を提供しているのはJDLA(日本ディープラーニング協会)。同協会の理事長は生成AIの第一人者である東大の松尾豊教授だ。こちらは2017年から実施されており、受験者数は延べ23万人に達している。どちらも企業の教育用ニーズを意識しており、受験料の集団割引がある。なお、JDLAは昨年まで「Generative AI Test」という「G検定」のライト版的な試験も実施していたが、2026年は実施を見送っているため、今回は候補から外した。
全社員向けに利用できる手軽な難易度という点では「生成AIパスポート」に軍配が上がる。受験者の平均学習時間では「生成AIパスポート」が10〜20時間であるのに対して、「G検定」では30〜50時間という受験者へのアンケート結果が出ている。
「生成AIパスポート」の出題範囲は、AI・生成AIの基礎、生成AIの仕組み、現在の生成AIの動向、プロンプトから個人情報、著作権・知的財産権、不正競争防止法などまで、「生成AIのリスクを減らす」ことを目標にしている。
試験は現在、60問を60分間、オンラインで受験する形で、費用は11,000円(税込)。企業・団体向けの申し込み制度があり、2名以上から団体受験が可能で、10名以上の割引もある。2026年6月試験の合格率は79.9%と高い。合格後は認定証書やオープンバッジが発行される。
企業導入との相性は非常に高く、例えば、「生成AIを業務利用する社員は、原則として生成AIパスポート相当のリテラシーを取得する」という社内ルールを作りやすい。
日本ディープラーニング協会の「G検定」は、AI・ディープラーニングをビジネスで活用するためのジェネラリスト向け試験だ。
2026年はオンライン試験が年6回。試験は100分、145問程度、受験料13,200円(税込)。歴史が長く、累計受験者は23万人を超えている。直近でも毎回1万人近くが受験している。ただ、合格のためにはかなり勉強が必要で、合格者アンケートでは学習目安時間の中心帯は30~50時間となっているため、企業の研修的に扱うなら、かなり本格的に取り組まなくてはならない。
このためG検定は全社員対象にするには少し負荷が大きいが、企業のAI推進には非常に使いやすく、多くの企業で教育に採用されている。合格後は認定証書やオープンバッジが発行される。
JDLAでは昨年まで「G検定」の軽量版ともいうべき「Generative AI Test」を実施していた。アンケートでは8割が学習時間15時間未満という軽めの試験だったが、現在はリニューアル検討中で2026年度は試験の実施予定がないため、今回は候補から外しておく。
どちらもサイトに出題範囲や例題、参考書などを含む豊富な情報が掲載されているので、選択の際には詳しく検討するといいだろう。

有名AIベンダー系の初心者向け試験
AIベンダーとしては、一般向けの講座や資格を整備することで、開発技術者や運用担当者、エンドユーザーである一般社員までを自社サービスに囲い込みたいという思惑がある。当然、講義や問題に自社サービスの知識、情報の占める割合が増加しがちだ。しかし、こうした傾向は専門性の高い資格ほど顕著になるため、初心者向けの資格ではそれほど影響はない。もし、企業が重点的に利用しているAIサービスがあればそのベンダーの資格を検討するのは、その後のステップアップ資格と社員教育の整合性を考える上でもいいだろう。特にそうしたサービスがないのであれば、単純にスペックの比較を前記の国内資格も含めて検討してみるのがよいだろう。
なお、今回はあくまでAI初心者向けということで、やや技術寄りのAnthropicとNVIDIAは除外した。Microsoftは全社員利用というより部門のリーダー向けだが、企業として利用を考えるなら対象を絞って効率的にアプローチする方法もあるため紹介している。
Google Cloud Generative AI Leaderの試験内容は、生成AIの基本概念からGoogleの生成AIサービス、ビジネスへの活用、AI導入戦略といったビジネス上で必要なAIの知識をカバーしており、全社員~管理職向け教材として非常に使いやすい。
試験時間は90分で50~60問、受験料は99ドルで、認定の有効期間は3年となっている。
Microsoftは2026年6月にAI向けの資格のラインナップをリニューアルしたばかりだ。Microsoft 認定: AI 変革リーダーの対象はビジネス意思決定者(部門リーダー)で、Microsoft 365 Copilot、Azure AI、Microsoft Foundryなどの内容を扱っている。コーディングは不要だ。
全社員対象ではないが、AI初心者の管理職に絞ることでコスト(人件費、受講料)を抑え、より効率的な導入を組み立てられるケースもあるだろう。
AWSでは企業の全社員・非技術者向けにAWS Certified AI Practitionerがある。生成AIの基本概念とユースケースを対象にする基本資格で、試験時間は90分。
AIについて最低限知っておくべきことを全社員に覚えてもらうという用途にかなり向いている。
2026年にはOpenAI Academyを拡充し、AI Foundationsが追加された。他のAcademy資格と異なり、今のところ、資格試験ではなくオンライン教材なのだが、OpenAIは今後資格化していく方針だという。内容は非常に基礎的で、ChatGPTを使える社員になるためのコースと言える。
AI社内教育のカリキュラムを別途考えているケースでの事前学習や、資格導入が少し先になりそうな場合は、候補に入れるといいだろう。無料コースなので、テスト的に使ってみるのもいいかもしれない。

以上まとめると、全社員向けの生成AI知識としてはGoogleがバランスよく感じる。AWSはAWSのサービスへの知識がある程度の割合を占めるので、AWSを使用しない場合は余分に感じるかもしれない。Microsoftは部下を持つリーダー向けの内容で、教育対象次第だろう。OpenAIは資格ではないが、初心者学習に適したオンライン教材ではある。前述した国内2資格も含めて検討していきたい。
選択基準は導入目的とレベルを勘案して
今回は、生成AI導入のファーストステップにいる企業やその従業員に向けて、初期段階のリテラシーを獲得し、社内で共通のレベルで業務に使用するAIの話ができるような資格を紹介した。
あくまでも社内リテラシー育成のためなのか、対外的に取得者数を喧伝したいなどの目的があるかで選択は異なってくるだろう。業務時間中の教育カリキュラムに組み込むのであれば、受講時間も気になるし、受講・受験料も考えなくてはならない。
受講対象者も全社員なのか、部門単位なのか、あるいは経験年数や職位で制限をするのかどうかなど、企業ごとに資格試験の選択基準は異なるだろう。
だが、AIにはもちろんもっと上の段階がある。社内にAIを提供するポジションの管理者や、AIエージェントを活用するために必要な資格など、段階的に用意されている資格については次回以降紹介していく。
なお、今回は取り上げなかったが、すでに自社でITパスポートを制度化している場合、AI知識も組み込まれているので基本継続でいいと思うが、より初級者向けのものを一段加えたいというのであれば、今回紹介した試験を組み合わせるのがいいだろう。
もちろん、こうした試験を採用しても、AI導入はそこで終了するわけではない。資格試験は、「知っているか」を測るものだが、企業が必要としているのは、「仕事で安全に使えるか」だ。取得後に、自社の生成AI利用規程に沿って業務で使用し、成果物を提出、レビューするといった流れを作り、次の段階を見据えた仕組みを整えていくことが大切になる。また、企業としては取得資格で従業員のAIアクセス制限を設け、安全を担保していくといった使い方も考えられそうだ。







