教育DXによって、児童生徒の授業の在り方が変わりつつある。「AI時代の教育DX!授業と校務の両面からどう迫るか」では、授業DXと校務DXの両面を一体的に進めてきた事例を通して、今後教育DXをどのように展開していけばよいのかを考えていく場となった。

 まずコーディネーターを務める中村学園大学 教育学部 教授 山本朋弘氏が登壇し、19世紀英国の蒸気自動車を例に用い「蒸気自動車が登場した頃は、赤旗を持った人が前を歩いていないと走れませんでした」と語り、新技術が既存の規制・慣習によって本来の性能を発揮できない構造を説明した。また、DXとは単なるデジタル化・効率化ではなく「新しい価値・変革を生み出すこと」であると定義し、学校のICT化においても同様の発想転換が必要だと述べた。

 山本氏は過去の学習や成功体験を通じて獲得した見方で学習することを「シングルループ」、既存の枠組みを捨てて新しい考え方や行動の枠組みを取り入れることを「ダブルループ」と定義し、今回のセミナーで登壇する二つの自治体はこのシングルループとダブルループをうまく組み合わせていると指摘した。

 その自治体の一つ、福岡市教育委員会の教育ICT推進課 主査 永田裕二氏から、福岡市の教育DXが紹介された。福岡市では「学力の変化」や「心の状態の変化」を早期に発見するため、教育データ活用基盤とダッシュボードの構築を進め、教育データ利活用を積極的に推進している。例えば、教員向けダッシュボードでは「Google Classroom」などの学習系データと保健室の来室記録などの校務系データをクラウド上で連携し、児童生徒の状況を一元的に把握できる。また、単元を通じた学びの変容を可視化する学習振り返りシステム「学びポケット」をベンダーと共同開発している。また、Googleの生成AIである「Gemini」をカスタマイズして使用できる「Gem」を「舞パートナー」と名付け、学習支援ツールとして活用している。子供たちはそのフィードバックを基に自律的に学び、自分の考えを確かなものにすることができたという。

 二つ目の自治体として、長崎県教育庁 義務教育課未来教育班 課長補佐の坂本隆典氏が登壇した。長崎県では、校務DXによって創出した時間を授業DXに生かすという両輪で教育DXを推進している。県全域で教育DXを推進するため、2018年度から統合型校務支援システムを県の推奨システムとして調達・導入しており、2026年度にはほぼ100%の市町村で整備が完了する見込みだという。

 推進体制の核として10年以上の歴史がある「長崎県教育情報化推進協議会」が機能しており、県と全21市町が対等な関係で情報共有・合意形成を行う信頼関係も、この環境整備を後押ししたようだ。

 山本氏はセッション全体のまとめとして「校務DXの前提としてゼロトラスト環境の整備が重要であり、校務系・学習系データの統合が進むことで、ダッシュボードや学習データの効果的な活用が可能になります」と語った。

コーディネーター
中村学園大学
教育学部
教授
山本朋弘 氏
パネリスト
長崎県教育庁
義務教育課未来教育班
課長補佐
坂本隆典 氏
パネリスト
福岡市教育委員会
教育ICT推進課
主査
永田裕二 氏
山本氏は授業における生成AIの活用について、授業者と学習者の視点や授業前後という時間軸から図のように整理した。