【事例】浄土宗善立寺
長野県塩尻市にある浄土宗善立寺は、天文14年(1545)以前に開山したと言われ、400年以上の歴史を持つ寺院だ。善立寺をはじめとした寺院では、紙ベースの事務仕事も多く含まれており、その煩雑さに頭を悩ませている僧侶も少なくない。そうした課題に対し、善立寺の副住職である小路竜嗣氏は、アドビの「Adobe Acrobat」で使える「PDFスペース」を活用し、事務仕事の効率化を実現している。

紙に埋もれた情報を
検索可能な資産へ変える

副住職DX4TEMPLES
代表
小路竜嗣 氏
善立寺 副住職 小路竜嗣氏はもともとリコーの機構設計エンジニアとして勤務していたが、結婚を機に退職し約3年の修行を経て、2013年に浄土宗教師資格を取得し、僧侶に転身した。小路氏が寺院運営に携わるようになり驚いたのは、事務仕事における紙書類の多さだったという。
「お寺は紙ベースの文書が非常に多くあります。浄土宗の本山から送られてくる文書は全て封筒に入った書類として送られてきますし、研修会の案内やそれに対する返信用はがきなども全て紙です。ファクスも現役で使われており、限られたスペースの中で書類が行方不明になることも多くありました。そこで私は、2014年ごろからスキャナーのScanSnapを活用し、これらの書類を全てPDF化しています」と語る。PDF化したデータはScanSnapと連携した「Dropbox」に自動で保存され、月ごとに自動でフォルダー分けされる。PDFはOCR処理によってテキストデータを検索できるため、必要な情報が必要になった際は、Dropboxの検索機能で該当書類を素早く探し出せるナレッジベースを構築していたという。
こうしたナレッジベースとしての運用を、さらに発展させたのがPDFスペースの活用だ。小路氏は以前から「Adobe Creative Cloud」を契約しており、DTPソフトウェアの「Adobe InDesign」やグラフィックデザインツールの「Adobe Illustrator」を活用し、善立寺寺報「香蓮」の制作を行っていた。Adobe Acrobat(以下、Acrobat)も業務などで使う機会があり、それらのツールを使う中で、アドビツールの中にAIアシスタントが組み込まれていることは知っていたという。

100ファイルを横断検索
AIが支える文書活用
「『PDFの日』(6月15日)を記念して行われたアドビとPFU共催イベントへの登壇を機に、Acrobat AIアシスタントに触れる機会がありました。実際に使ってみると、異なる生成AIツールにPDFをアップロードできなくてもAIアシスタントがAcrobat上で文書を分析し、回答してくれる点や、PDFスペースに複数のファイルをアップロードするとそれらのファイルから横断的に情報を検索して回答したり、内容を要約したりしてくれる点が非常に便利だと感じています。例えば論文を書く際も、その内容に新規性があるかどうかをPDFスペースにアップロードした論文からすぐに分析したり、参考文献が間違っていないかというファクトチェックをしたりできます」と小路氏は語る。
小路氏は日常的にワークフローの自動化などを目的に、さまざまなAIエージェントを活用している。AcrobatのPDFスペースで使えるAIアシスタントはこうした汎用的なAIと比較して、アップロードした情報に基づいて回答してくれることから、生成AIで起こりがちなハルシネーションのリスクを抑えやすい点が魅力的だという。
PDFスペースには最大100ファイルまでアップロードが可能だ。小路氏は「何十個ものファイルをアップロードする必要があるので、それらの膨大な数のファイルを一つのPDFスペースにアップロードして検索や要約が行えるのはうれしいですね。また、一部の生成AIサービスでは、設定によっては入力データがモデル改善に利用される可能性があることが指摘されています。しかしPDFスペースはアップロードしたデータをAIモデルのトレーニングに利用しない方針が明示されており、安心して利用できる点もメリットです。共有も容易に行えるため、エンタープライズ向けのRAGを構築する入口としてもよいでしょう。善立寺が属する浄土宗には約100名の事務職員がいるため、そうした人たちの業務効率化にこのPDFスペースが活用できないかと提案をしているところです」と語る。
PDFの活用もさらに進めていきたい考えだ。小路氏は前述した通りScanSnapを活用し、紙の書類をPDF化している。ScanSnapを提供するPFUは2026年7月14日に新たなサービスとして「ScanSnap Cloud+」の提供をスタートしている。小路氏はこの新サービスに搭載された「ScanSnap AI」によって、手書きや縦書きの日本語のAI-OCRを行い、檀家から届く手書きのはがきをデータ化し、PDFスペース上で自然言語による検索を可能にした。これにより、はがきの情報を基に訪問予定の檀家に関する情報を即時に調べられるようになったという。


過去帳の継承から
寺院DXの未来まで
「スキャナーによる文書のPDF化は、古い文書のアーカイブにも活用しています。全ての寺院には亡くなった方の戒名や俗名、没年月日、享年などが書かれた『過去帳』と呼ばれる帳簿があります。これは『火事になったら本尊と過去帳を持って逃げろ』と言われるほど重要な書類です。しかし、善立寺には江戸時代ごろからこの過去帳が保管されているためその量は膨大ですし、かなり劣化も進んでいます。専門の業者に頼んで製本し直すことも可能ですが、かなり高価です。そこでオーバーヘッドタイプのスキャナー『ScanSnap SV600』を活用し、過去帳のPDF化を進めています。PDFには長期保存向けの『PDF/A』フォーマットが存在するため、10年、20年単位で物事を考えるお寺にとって安心して利用できる存在です」と小路氏は語る。小路氏は今後過去帳を含む縦書きの古文書へのAI-OCR適用を進め、RAGとして活用できるよう、ナレッジベースの整備を進めていく方針だ。
小路氏は、善立寺の副住職であると同時に、寺院のデジタル化を支援する企業、DX4TEMPLESの代表も務めている。「ITの力を全てのお寺に」を掲げるその理由について小路氏は「お坊さんが、お坊さんにしかできない仕事に集中できる環境を作ることを目指しています。夢を持って仏教を伝えたいと仏門に入ったにもかかわらず、事務仕事に頭を悩ませているお坊さんは多いですし、そうした業務の影響で檀家さまへの布教の時間が取れないという悩みを抱えています。また過疎化の影響で寺院の統廃合が進み、一人のお坊さんが複数のお寺を兼務するケースも増えています。こうした課題に対し、ITの力を活用することで、お坊さんがお寺の仕事を諦めずに済むよう、これからも支援に取り組んでいきます」と展望を語った。

