クリエイティブが
地域課題を解決する
【事例】まちの広作室

アドビは「Creativity for all.」(すべての人に「つくる力」)を企業のミッションとして掲げ、誰もが創造力を持ち、それを表現できるよう、クリエイターを問わずさまざまな人々のサポートに取り組んでいる。その取り組みの一つとして、「まちの広作室」がある。デザインツールの「Adobe Express」(以下、Express)を活用し、日本全国の地域やコミュニティが抱えている「困りごと」の解決を図るものだ。その取り組みの様子を見ていこう。
コロナ禍で見えた
情報発信の課題

広報部
Creative Cloud & Document Cloud
広報担当部長
吉原 淳 氏
アドビが実施しているまちの広作室。本取り組みは、課題を抱えている地域やコミュニティに対して、アドビの関係者がワークショップを開き、デジタルツールによるクリエイティブ制作を通してその課題解決を図るものだ。本取り組みをスタートしたきっかけについて、アドビ 広報部 Creative Cloud & Document Cloud 広報担当部長 吉原 淳氏は次のように振り返る。「まちの広作室を最初に実施したのは2022年7月のことでした。当時はコロナ禍による緊急事態宣言などの影響で、飲食店の営業日や営業時間が頻繁に変更されていた時期でした。その変更を告知するには、店舗のオーナーと顧客との関係構築が重要になります。例えば店舗のSNSアカウントをフォローしてもらえれば、当日急遽営業時間が変更になってもすぐに伝えられますし、『○○時までの来店でビールをサービスします!』といった告知もスムーズに行えるでしょう。一方で、こうしたSNSでの告知は、テキストのみでは印象が弱く、双方向のコミュニケーションにもつながりにくい傾向があります。画像や動画を使うことで、より効果的な告知が可能になりますし、お客さまからのリアクションも増えるでしょう。しかし、こうした告知用の画像や動画を制作することは、個人事業主が多い飲食店のオーナーにとっては負担が大きいという課題がありました」
そこで開催されたのが、まちの広作室だ。まちの広作室では、アドビのデザインツールのExpressを使うことで、店舗運営者が日々行う広報制作を簡単に作成できるようにサポートする。アドビでは広報制作物をデザインできるツールとして「Adobe Photoshop」をはじめとしたクリエイティブツールを提供しているが、これらのツールは使いこなすまでに時間を要する。前述したような個人事業主の飲食店では、従業員が少ないケースも多く、オーナーが食材の仕込みから広報制作ツールの習得までを1人で担うのは容易ではない。
誰でも使えるExpressで
店舗の広報を支援する
Expressは、専門的なデザイン知識がなくてもSNS用の画像やチラシ、ロゴ、動画などを直感的に制作できるデザインツールだ。直感的な操作ですぐに使えることに加え、豊富なテンプレートと生成AI機能によって、広報制作物もすぐに作れる。また、飲食店の場合、水回りで作業することが多い。そのため、タブレットやスマホから操作しやすいExpressの方が、飲食店オーナーが利用する上で適していたのだ。
まちの広作室では、広報制作物の作り方をレクチャーするワークショップを行う。ワークショップの講師はAdobe Expressアンバサダーとして活躍しているクリエイターの北沢直樹氏が務める。ワークショップの内容は、地域やコミュニティの課題に応じて異なる。多くの場合は、北沢氏が用意したテンプレートを基に、地域の特産物を紹介する画像を制作する。その過程で、画像差し替えや文字編集、フォント選択、背景色変更といった基本操作を習得してもらう。その後、参加者各自の課題に応じた広報制作物を制作してもらい、最後に北沢氏による講評が行われる。これらのプログラムを3時間半程度の時間をかけ、2部構成で実施している。
このまちの広作室の第1弾は、下北沢で2022年7月に開催された。下北沢は六つの商店街で構成される下北沢商店連合会があり、これらの商店街からバラエティに富んだ店舗のオーナーが参加したという。吉原氏は「ボクシングジムの会長や占い店の店主、ステーキ店や中華料理店のオーナーなど、多様な店舗から参加者が集まりました。実際に中華料理店のオーナーなどは、本ワークショップに参加したことでPOP作りにハマり、おすすめの麺や定食をPOPで掲示するようになりました。この中華料理店は麺類だけで30種類以上のメニューがあるのですが、同じような材料で作れるメニューをPOPでおすすめすることで、調理に使う具材を絞り込むことができ、調達コストを大幅に抑えることに成功したそうです。また、タップルーム(飲食スペース)が併設されたブルワリーなどは、天気や気温に応じたおすすめメニューを提案する際に、Expressによるクリエイティブを活用することで、売り上げを向上させたという事例もありました」と語る。




全国の地域課題解決に
クリエイティブの力を
こうしたまちの広作室の取り組みは、下北沢を皮切りにさまざまな地域やコミュニティに広がっている。例えばラーメンの消費額が国内トップの山形市では、シズル感のある写真や動画を使ってSNSでの情報発信を行うため、市内のラーメン店7店舗がまちの広作室に参加した。Expressには生成AIの「Adobe Firefly」の技術が搭載されており、「生成塗りつぶし」の機能でオブジェクトの削除を簡単に行える。ワークショップではこの生成塗りつぶし機能を活用し、店舗外観に写り込んでしまった通行人を削除したり、丼の縁に付いてしまったスープの汚れを削除したりするなど、簡単に画像を編集し、シズル感のあるSNS投稿用のビジュアルを制作できることに驚きの声が上がったという。また広島県では女性の社会進出や活躍を後押しするため、デジタルハリウッドSTUDIO広島と共同でまちの広作室を実施。本イベントに賛同する県内の企業・団体の広報用SNS画像を制作といったクライアントワークを体験してもらうことで、女性の社会進出を支援した。
「直近の5月20日では、長野市の善光寺でもまちの広作室のワークショップを実施しました。全国各地の寺院では檀家とのコミュニケーションに課題を抱えており、効果的な情報発信を行うためにクリエイティブの力を活用したいとお声がけいただきました。当日は長野県外から他の宗派の住職の方にも参加いただくなど、非常に盛況でした」と吉原氏は振り返る。
まちの広作室はすでに全国11カ所で開催されている。これらのワークショップは基本的にExpressの無償版を活用しており、iPhone(アプリ)かPC(Express Web版)でデザインを行っているという。ワークショップは地域やコミュニティの課題に合わせて柔軟にカスタマイズを行うため、数カ月前から事前の打ち合わせを行っている。
吉原氏は「今後は日本各地での開催を予定しています。例えばある地方では東京で仕事をされた方が実家に戻って家業を手伝っている方が多く、eコマースで農作物を出品するなどITリテラシーの高い方々も少なくありません。こうした事業をさらに活性化させるため、クリエイティブツールを活用して広報したいので、まちの広作室を実施したいといった声もいただいています。Expressに搭載されている生成AIは権利関係の問題もクリアしており、商用利用が可能である点も事業主からの評価が高いポイントです」と語る。このまちの広作室からさらに派生した取り組みとして、企業とのコラボレーションも実施している。こうした取り組みを通じて、アドビは今後もクリエイティブの力で地域や企業が抱える課題解決に取り組んでいく。


