大人が使うような環境を整備し
子供たちの発信力を養う「P'sラボ」

Case:座間市立東原小学校

小中学校で1人1台の端末環境が整備され、その活用がさまざまな現場で進んでいる。端末活用を進める教育現場の中には、その学 びの価値をより高めるため、従来のPC教室や多目的室の見直しを 図っているケースも少なくない。座間市立東原小学校も、そうした 小学校の一つだ。子供たちが自ら学びたくなる部屋として「P'sラ ボ」(ピーズラボ) を整備したその取り組みについて、話を聞いた。

授業で積極的に使える体制へ

P’sラボの教室の前には電子黒板がある。また教室の前後の天井にはスポットライトが備え付けられており、発表の際にスポットライトの下に立ち説明をする子供たちの姿も見られるという。

 2022年に創立50周年を迎える座間市立東原小学校(以下、東原小学校)は、学校教育目標として「自ら学び、共に歩む」を掲げている。それに沿う形で整備したのが、旧多目的室を活用したP’sラボだ。P’sラボは「プログラミング学習」や「PCやプロジェクターを使った学習」「プレゼンテーション」「プロジェクト型学習」など「P」から始まる学びに取り組む場として、プロジェクターやホワイトボード、電子黒板、スマートスピーカーなどのICT環境を整備した、新しい形の学びの場だ。教育現場のICT化を支援するJMCが取り組む「新たな部屋」を整備する実証研究の一環だ。子供たちが使う机も、自由にレイアウトできる可動式の五角形デスクや、可動式の椅子を採用しており、学習のスタイルに合わせて自由に移動して学べる環境だ。東原小学校では1人1台端末としてコンバーチブル型のChromebook「Lenovo300e Chromebook 2nd Gen」および「Chromebook 3100 2-in-1」を活用しており、子供たちは端末を教室からP’sラボに持ってきて学習に取り組む。

 GIGAスクール構想以前のICT教育環境について、東原小学校 校長の大谷 一氏は「実はGIGAスクール構想の1年ほど前に、iPadを8台導入してグループ学習などで端末を共有し、学びに活用していました。子供たちの情報活用能力の育成に、端末整備は不可欠だと感じていたことが大きいです。このiPadを活用した前例があったおかげか、Chromebookの活用もスムーズに進められました」と語る。

 もちろん、教員の間で端末への習熟の差はあった。そうした課題を乗り越えるため、大谷氏はあることを教員に伝えたという。「先生というのは、子供たちの前では万能でありたいと願う職業です。しかし、この端末を授業で活用することに関しては、それをやめてほしいと伝えました。子供たちにも『このPCは先生も、みんなも同時に手にする物だから、先生も分からないこともあります。だから先生に聞くのではなく、みんなで分からないことを教え合ってほしい』と発信し、教員が失敗してもいいから、授業で使ってもらうことを意識しました」と大谷氏。

2年生のプログラミングの授業では、ビジュアルプログラミング言語「Viscuit」(ビスケット)を活用し、Chromebookの中に水族館を作った。
ビスケットでプログラミングしたイラストの動きを周囲に見せ合う学びの姿が見られた。
プログラミング後は数人の児童がP’sラボの後方に設置されたプロジェクターでそれぞれ工夫したポイントなどを発表した。

憧れの教室で発信力を磨く

 そうした取り組みが功を奏し、同校での端末活用は積極的に進められた。子供たちがそれぞれの端末で学ぶことが当たり前になった環境で、次に必要となるのは教室環境の変革だ。例えば従来、子供たちの情報活用能力を育成するため使っていたPC教室は、GIGAスクール構想による端末整備で、その存在を見直す動きが増えてきている。東原小学校でも同様に多目的室を改装し、P’sラボとして生まれ変わらせたのだ。

 大谷氏は「P’sラボでは、机や椅子を移動させて小さなグループで互いの考えをまとめ合ったり、参照したりしながら発表をするような活動が行いやすい教室です。教室の前後にはスポットライトが設置されており、子供たちは緊張しながらもその場所に立って発表する姿が見られます。日本の子供たちはこれまで、発信力が高くないと言われてきましたが、P’sラボのような部屋で日常的に人前で話すことで、発信力が身に付けられます。P’sラボはこれまでの学校の教室と異なり、大人が使うような設備を備えているため子供たちにとっての“憧れの教室”になっています。教室では、わくわくしながら楽しんで学びに向かう姿が見られます」と活用のメリットを語る。

 こうした子供たちにとっての“憧れの教室”は、ほかにもある。家庭科室もJMC協力のもと大きく改装しており、教室の前には大型の電子黒板やプロジェクターを設置したほか、360度型のカメラを天井に配備した。これにより、調理実習中に教員の手元をカメラで写して大きく表示させたり、カメラを動かして子供たちの手元を撮影し、クラス全体で共有したりといった学びが可能になったという。「家庭科室の360度カメラは全教室に付けたいですね。もともとiPadは、リアルタイムに子供たちのノートの中身を共有したくて導入したのですが、このカメラ1台あれば、カメラで子供たちの手元を写すだけで共有できるようになります。さまざまなICTツールによって、これまでの授業の概念が塗り替えられていきますね」と大谷氏は笑う。P’sラボも家庭科室も、教室の内装にもこだわっており、家庭科室などは「まるで料理教室のようで、授業参観に来た保護者が驚きます」という。

 一方で、こうした“特別感”を、今後はなくしていきたいとも大谷氏は話す。「まだまだP’sラボは、日常的に使う場所にはなっていません。楽しんでどんどん使っている先生もいますが、偏りがあり敷居が高いようです。使う機会を増やせば、子供たちはどんどん発表するスキルなどの力が身に付いて行きます。特別な場所が普通の場所になるように、特別なスキルが普通のスキルとして身に付けられる場所になるよう、P’sラボの活用を進めていきます」と大谷氏は語った。