DC FutureScapeが示す
ITインダストリーに関する10項目の予測

IDCは、ITおよびそれを構成する各マーケットにおいて今後5年間でどのようなことが起きるかを予測したレポート「IDC FutureScape」を発行・提供している。2025年12月9日にIDC JapanはWebセミナーを開催し、ITインダストリーの10項目の予測を発表した。今回はその中でも「コンポジットAI」「人とAIの評価指標」「プロダクトとしてのサービス」「エッジAIインフラストラクチャ」という四つの項目と、IDCの提言を紹介していく。

AIエージェントの活用が
国内企業の成長や競争力を左右する

 発表されたITインダストリーの10項目は以下の通りとなる。

IDCが予測するITインダストリーに関する10項目の予測の詳細。
IDC Japan
グループバイスプレジデント
チーフリサーチアナリスト
寄藤幸治

 ITインダストリーの10項目について、IDC Japan グループバイスプレジデント チーフリサーチアナリスト 寄藤幸治氏は次にように語る。「『AI』というキーワードが非常に多く予測項目に含まれています。昨年のIDC FutureScapeでも同様でしたが、今年は『AI』に加えて『AIエージェント』という言葉が多く使われるようになりました。AIエージェントは、これからの世界においてIT市場だけでなく、世界経済をけん引する大きな役割を果たすとみています。特に労働力不足や生産性向上といった大きな課題を抱える国内企業にとって、AIエージェントをどう活用するかは極めて重要な戦略的判断になるでしょう。先進的なAI活用企業に話を聞くと、AIエージェントを含めてAIを活用するか否かという議論はすでに過ぎています。今後は、どう活用するか、どのようなユースケースを想定するかが非常に重要であり、何を選ぶかという判断が国内企業の成長や競争力を左右するポイントになることは間違いないでしょう」

 実際、何らかのAIシステムを活用している国内大企業に対してIDCが2025年12月に行った「国内AI市場ユーザー調査」によると、全社的に生成AIを導入している企業は28.6%、一部で利用している企業は26.8%であり、合計すると55.4%の企業が生成AIを導入している。また、AIエージェントを一部または複数の業務で本番導入している企業は12.3%、実験段階にある企業は22.4%で、約3分の1の企業がAIエージェントの取り組みを進めている状況だ。

生成AIは国内企業の55.4%で実稼働しており、実際のビジネスプロセスに組み込まれつつある。またAIエージェントも12.3%の国内企業が本番導入しており、近い将来には実際のビジネスプロセスに組み込まれるとみられる。

「当社では昨年、AIが実験室を飛び出し、実際のビジネスプロセスに組み込まれる状況を『AI Pivot』という言葉で表し、その兆しが現れつつあると申し上げました。今年の調査結果では、生成AIについては明確にその状況が確認できます。さらに、AIエージェントについても、遠くない将来に同様の展開が起こるのではないかと考えています」と寄藤氏は予測する。

コンポジットAIの採用で
生成AIの精度懸念に対応

 それではITインダストリーの10項目のうち、Webセミナーで解説された四つの詳細を見ていこう。

 一つ目が「コンポジットAI」だ。コンポジットAIとは、生成AI、処方的AI、予測的AI、そしてエージェント型AI技術を融合させたものだの各技術を統合し、目的に応じて相補的に機能させるアプローチである。2027年までに説明可能性および信頼性への関心の高まりを背景として、70%の組織がこのコンポジットAIを採用すると予測されている。

 コンポジットAIは国内企業において特に重要な意味を持つと寄藤氏は強調する。多くの企業が製品・サービス品質に対する意識を高く維持する一方で、生成AIの活用に際してはハルシネーションや回答精度に関する懸念が存在する。こうした課題に対して、統計的な裏付けを持つ予測的AIを組み合わせることで、説明可能性と信頼性を確保することが可能になるのだ。

 ただし、単に複数のAIを並列的に導入するだけではコンポジットAIとは呼べない点に留意すべきだと寄藤氏は指摘する。「各AIが担うワークロードを全体最適の観点で設計し、効率性・一貫性・相互運用性を確保する必要があります。こうした組み合わせと連携を通じて、ビジネス価値を創出することこそがコンポジットAIの肝と言えるでしょう」

 二つ目が「人とAIの評価指標」だ。IDCの予測によれば、2029年までにAIの生産性のみを重視する企業と比較して、AIと人間の協働結果を評価するGlobal 1000企業は営業利益率が最大15%高くなると見込まれている。

 前提となるのが、人とAIが共に働くという考え方だ。AIは人の同僚として業務に参画する存在になる。ただし、協働によって成果を生み出すためには、AIという同僚をどのように採用し、オンボーディングし、業務に組み込むかという視点が不可欠だ。これは人材採用と同様のプロセスであり、AIも人と同じステップを踏む必要があると寄藤氏は指摘している。「採用に当たっては、どのようなテクノロジーを重視したAIを導入するか、あるいは自社との適合性をどう判断するかが重要です。オンボーディングでは、業務プロセスへの組み込み方や、必要なデータの準備が求められます。さらに、実際の業務においては、人とAIの協働をどう設計するか、KPIをどのように設定するかが鍵になります」

 さらに人間側の準備も欠かせない。全従業員へのAI活用教育や、AIと人が協働しやすいワークフローの整備など、組織全体での対応が必要だ。こうした取り組みによって、効率性やイノベーションの創出が期待できる。「AIと人間のチームとしての評価は、AIの受け入れと人間側の準備が両立して初めて意味を持つでしょう」と寄藤氏は強調する。

 三つ目が「プロダクトとしてのサービス」だ。プロダクトとしてのサービスとは、サービスの内容、プロセス、価格帯をあらかじめパッケージ化し、オファリングとして提供する形態だ。例えば、「クラウド導入支援」や「マルチクラウド運用」といった定型的なサービスを、事前に中身と価格を決めたメニューとして用意し、顧客が目的に応じてブロックのように組み合わせて利用する。

 IDCによると、世界的には2029年までに普及が進むと予測されている。しかし国内では「人月契約」という商習慣が根強いため、導入はやや遅れ、2030年までに国内ITサービスの30%がこの形態に移行するとみている。

 四つ目が「エッジAIインフラストラクチャ」だ。IDCの予測によれば、コストの最適化やレイテンシーの低減、機密データ管理の強化を目的として、2030年までに国内企業のAI推論ワークロードの25%が、エンドポイントやエッジノードでローカルに処理されるようになる。

 ただし、国内におけるエッジAIの議論はまだ始まったばかりだと寄藤氏は指摘する。「生成AI向けのインフラとしてエッジの利用予定は現時点で2割弱にとどまっています。現在多くの日本企業では、最適なAIインフラの検討が今後の課題となっており、クラウド、オンプレミス、エッジの構成の中で、どのようにワークロードを最適化するかが重要になります。エッジでの推論は、2030年に向けて後半から本格化すると予測されており、特に製造業や小売業など、現場でリアルタイム処理が求められる分野で活用が進むと考えています」

生成AI向けに利用予定のITインフラの用途を尋ねた結果、学習に関してはパブリッククラウドがほかの二つを大きく引き離しており、圧倒的な優位性を示している。一方、ファインチューニングや推論については、占有型インフラやエッジ環境との差が縮まりつつある。

ITサプライヤーの役割として
CXO層への働きかけが求められる

 寄藤氏はITバイヤーへの提言をこう話す。「ITバイヤーの皆さまは、世界がAI Pivotの時代に入ったことを認識し、データ戦略の策定やビジネスプロセスの変革、AIを使いこなすための人材育成といった、AI・AIエージェントを活用するための必要条件の整備を急ぐべきです。AI Pivotの時代への移行に伴い、従来のテクノロジー調達方法や、人間とAIの協働のあり方も変化します。これに対応するためには、IT部門だけでなく、経営層や事業部門が一体となり、AIエージェントを単なるツールではなく、共に働く同僚として迎えるための組織体制を整えることが求められます。その際には、AIエージェントの採用・受け入れプロセスの確立、人間側の教育、そしてワークフローの整備が不可欠です」

 最後に寄藤氏はITサプライヤーへの提言を次のように語った。「ITサプライヤーの皆さまは、ITバイヤーの動きを支援する役割を果たす必要があります。そのためには、CXOレベルへの働きかけを強化すべきです。従来は現業部門やマーケティング部門へのアプローチが中心でしたが、今後はCIOに対しても、テクノロジー調達やアーキテクチャの変化に対応するための提案が求められます。さらに、AIと人の協働というテーマでは、人事部門への働きかけも不可欠です。加えて、中堅企業への対応も重要です。調査によれば、大企業に比べてAI活用が遅れている状況ですが、労働力不足や生産性向上といった課題解決のためには、むしろ大企業以上にAIの導入が必要です。個別対応は難しいため、標準化されたモデルやパッケージを通じて、AIエージェントやAI Pivotの価値を理解し、導入を促進する提案やマーケティングを強化することが求められるでしょう」