富士通の最新テクノロジーから見る
AI時代のソブリンとセキュリティの重要性とは
2025年12月2日、富士通は同社の事業を牽引するAIを始めとしたテクノロジー開発の最新動向を説明する「Fujitsu Technology Update」を開催した。本記事では当日説明されたテクノロジー戦略に加え、同日に発表された国際コンソーシアム「Frontria」の設立の背景や、デモを交えて紹介された同社の最新技術について紹介する。
ソブリンを軸とした
富士通のテクノロジー戦略

執行役員副社長CTO
システムプラットフォーム担当
ヴィヴェック・マハジャン 氏
「富士通のテクノロジー戦略」と題してプレゼンテーションを行った富士通 執行役員副社長CTO システムプラットフォーム担当 ヴィヴェック・マハジャン氏は「当社は過去5年間にわたり、AIを中心としたテクノロジー戦略を展開しています。これはSovereign Platform(ソブリン プラットフォーム)の実現を目指すためです。当社はB2B向けのビジネスを展開しており、エンタープライズ企業のお客さまのニーズに応えるためには、お客さまが主権を持てるソブリンが非常に重要視されています。そのため、我々はネットワークからAIソフトウェアスタックまで、プラットフォーム全体をトータルで手がけていくことを戦略としています」と語る。
ソブリンは「主権」を意味する。自国リージョンのデータセンターにおいて、自国の法規制に準拠して運用されるソブリンクラウドや、同様に自国や自社のインフラやデータを用いてシステムを開発・運用するソブリンAIなどで知られている。富士通ではこのソブリンを重視した「Sovereign AI Platform」「Sovereign Infrastructure」といったSovereign Platformによって、エンタープライズ企業のニーズに応えている。このソブリンの重要な要素として、マハジャン氏は「セキュリティ」「柔軟性」「Domain Specific」の三つを挙げた。
「一番大切なのはセキュリティです。特に防衛に関連するビジネスでは、99%以上のデータをクラウドに置きません。そのため、お客さまのニーズに合わせ、オンプレミス、クラウド、あるいはハイブリッド環境といったあらゆるプラットフォームに対応できる柔軟性が重要です。そしてお客さまの業種や業務といった要件に合わせたAIプラットフォームを実装するDomain Specificも重要になるでしょう。富士通ではこれら三つの要素をカバーするSovereign Platformを提供しています」とマハジャン氏は語る。
富士通のSovereign Platformは「AI・セキュリティ技術」「コンピューティング技術」「ネットワーク技術」の3層で構築されている。AIソフトウェアスタックは、同社が開発した企業向け日本語LLM(大規模言語モデル)「Takane AIモデル」やAIが人と協調して自律的に業務を推進するAIエージェントを試したり、オリジナルのマルチAIエージェントが作成できる「KozuchiマルチAIエージェントフレームワーク」で構成されているほか、それを支えるセキュリティスタックが用意されている。
これらのAIソフトウェアスタックを支えるのが、コンピューティング技術とネットワーク技術だ。コンピューティング技術では、次世代CPUである「FUJITSU-MONAKA-X」、量子技術などを用いる。「富士通はハードウェアをやっているのか、ネットワークをやっているのかとよく質問されますが、当社はこれらが統合されたトータルソリューションとして提供しています」とマハジャン氏は語る。
Sovereign AI Platformが
信頼性を重視する業務を支える
それでは、Sovereign AI Platformを実現するエンタープライズ生成AIフレームワークはどのようなものだろうか。説明会では「生成AI再構築」と「ナレッジグラフ拡張RAG」の二つの領域から説明された。
生成AI再構築とはなにか。富士通は2025年9月8日に、LLMの軽量化・省力化を実現する生成AI再構成技術を開発し、同社のTakaneを強化したことを発表している。それを実現しているのが、メモリ消費量を最大94%削減する1ビット量子化だ。マハジャン氏は「この1ビット量子化によって、小さなコンピューティングパワーでもLLMを動作することが可能になります。エッジでもプライベート環境でも、お客さまのニーズに合わせたAIモデルを簡単に構築できるようになります」と語る。またナレッジグラフ拡張RAGにより、経営支援である企業データを構造化し、常にAIが利用可能な状況を実現するという。Sovereign AI Platformの技術は防衛、行政、ヘルスケア、製造といったソブリンが不可欠な業種に対して訴求していく。
マハジャン氏は続けて、AIプラットフォーム、セキュリティ、フィジカルAIという三つの領域における今後5年間のロードマップを示した。「2025年10月に発表したように、当社はNVIDIA、安川電機とロボティクス分野での協業を進めていきます。当社はロボットの脳にあたるフィジカルAIに関しては、さまざまなAIソフトウェアスタックやコンピューティング、ネットワークを用意しています。これらを用いて、さまざまなロボットとパートナーシップを組みながら取り組みを進めていきます」(マハジャン氏)
またAIを支えるコンピューティング分野では同社が開発しているArmベースの次世代プロセッサー「FUJITSU-MONAKA」に触れ、144個のデュアルソケットCPUになることや、国産CPUであることの強みが語られた。2026年のテープアウトを予定している。またスーパーコンピューター「富岳」の次世代となる「富岳NEXT」(開発コードネーム)に搭載予定のFUJITSU-MONAKA-Xに採用される技術のほか、同社の量子技術、ネットワークなど広範な技術についてのロードマップが語られた。

生成AI時代の信頼性を担保する
富士通の技術と新たな取り組み

執行役員常務
富士通研究所長
岡本青史 氏
マハジャン氏に続き、富士通 執行役員常務 富士通研究所長 岡本青史氏が登壇し「富士通の研究戦略」についてプレゼンテーションを行った。
岡本氏は「富士通は『データ&セキュリティ』『コンバージングテクノロジー』『コンピューティング』『ネットワーク』そして『AI』という五つの重点技術領域を抱えており、それぞれの技術領域の強化を進めていきます。これに加え、AIを軸とした技術融合によって、新しい価値を作っていくことが大きな研究戦略です。また、中長期のテクノロジートレンドを踏まえ、新しい領域の開拓に取り組んでいきます。一つ目が『フィジカルAI』、二つ目が『宇宙』、三つ目が『防衛・次世代通信』です」と語る。本説明会ではこの中のAIにフォーカスし、技術開発の戦略が語られた。
富士通のAI研究開発は、エンタープライズ向け生成AIのTakaneと、AIエージェントを提供するプラットフォームKozuchiの二つの軸で進められているという。この両軸によって、ソブリンAIが必要な行政、ヘルスケア、金融、製造、防衛などの業種に訴求していく。加えて、それぞれの進化と強化ポイントが語られた。例えばTakaneでは、1ビット量子化技術によって推論速度3倍、消費電力・GPUコスト98%低減、精度低減89%抑制を実現するといった事例も確認されたという。「当社はこの1ビット量子化の技術を、Takaneだけでなく一般の生成AIに使えるOSSとして本日公開します」と岡本氏は語る。
また説明会当日に設立が発表されたのが、国際コンソーシアム「Frontria」だ。これは生成AIが急速に進化したことによって、偽情報や誤情報が拡散されていたり、AIシステムに脆弱性が生じていたり、法規制への準拠が必要になったりといった新たな課題が生まれている。これらの課題やリスクに対して包括的なアプローチで対応するために作られたのがFrontriaだ。
岡本氏は「富士通研究所ではデータに含まれる特徴量や、周辺根拠情報をもとに真偽を分析するマルチモーダルフェイク検知の技術を持っています。本技術によって『ディープフェイク検知』『SNSファクトチェック』『文書整合性・エビデンスチェック』『クロスモーダル矛盾検知』などのデジタルフェイク対策を実現できるアプリ群を提供しています。またこれらの技術やアプリ群は、『経済安全保障重要技術育成プログラム』(K Program)でも一部展開され使われています。このK Programはオールジャパンで体制を組み、日本市場をターゲットに技術開発を行っていますが、本日発表するFrontriaは日本にとどまらず、偽情報やAIガバナンスなどの新しいAIリスクに対応する国際コンソーシアムであり、現在57の組織が参画しています」と岡本氏は語る。
これらの内容以外にも本説明会では、量子技術の進展やソーシャルデジタルツインを活用した多様な社会課題の解決、海洋デジタルツイン、宇宙データオンデマンド、防衛・次世代通信などの最新技術が紹介された。また空間ロボティクスの分野では、複数のロボットの高度な行動を実現する、新しい空間World Model技術が発表されるなど、フィジカルAI分野におけるこれからの未来が垣間見える説明会となった。



