映像のアイデア出しから
仕上げまでをトータルで支援

コンテンツビジネスに関わる最新のイノベーションを提案するメディア総合イベント「Inter BEE 2025」が2025年11月19〜21日にかけて幕張メッセで開催された。本イベントの2日目に開催されたのが「Adobe Day 2025」だ。アドビのビデオ関連製品の最新情報を一挙に紹介した本イベントの一部を紹介していこう。

Media Intelligence機能で
ワンクリック映像編集を実現

 アドビが提供する映像編集ソフトウェア「Adobe Premiere」(以下、Premiere)。もともと同製品は「Adobe Premiere Pro」という名称だったが、10月のAdobe MAX USで名称が変更された。

 11月にリリースされたPremiereでは新機能が搭載されている。Adobe Day 2025ではそれらの機能強化ポイントが紹介された。

「ストーリーに差をつける:Premiereで実現する高度なエフェクトとモーションデザイン」と題して、最新機能を紹介したのは、米国アドビにおいてシニア プロダクト マーケティング マネージャーを務めるジェイソン・ドラス氏。

 ドラス氏はPremiereの機能強化について「PremiereではアシスタントAI機能である『Media Intelligence』が機能強化されました。本アップデートにより、Premiereユーザーは求めている効果音などをテキスト検索で見つけることが可能になります。例えば『Wind』(風のうなり)というキーワードで検索をかけると、それがそのまま表示され、映像編集に活用できます。また放送禁止用語や個人情報などに対してビープ音をかぶせる処理を行ったことがある人も多いと思いますが、Premiereに標準で入っている文字起こしの機能とMedia IntelligenceのAI機能を組み合わせ、自動で放送禁止用語を検出してワンクリックでビープ音をかぶせることが可能になります」と説明し、実際にデモ映像を見せると、会場から拍手が起こった。

 Premiereは、9月に90以上のFilm Impactのエフェクトやトランジションが追加された。従来は「Adobe After Effects」でエフェクト処理を行った上でPremiereに戻り、編集を行う必要があったが、このアップデートによりPremiere単体で映像編集を完結できるようになった。

「パブリックベータ版にはなりますが、10月のAdobe MAX USのタイミングでビデオフレーム内の人物やオブジェクトをAIが自動的に識別や分離ができる『オブジェクトマスク』機能が搭載されました。例えば、人が装着しているボディバッグにフォーカスし、それが飛んで現れるようなショットが欲しいと言われた場合、これまでであればマスクとトラッキングといった作業が必要でした。しかしこの作業は非常に手間がかかりますし、Premiereの複雑な機能階層を理解している人しか使いこなすことが難しいものでした。今回のオブジェクトマスク機能に実装により、この複雑な編集を全ての皆さまにやってもらえるようになります」とドラス氏。本機能と前述したエフェクトを組み合わせれば、人物が移動した後ろからテキストを表示するようなエフェクト処理もクリックで可能になるという。

Adobe Premiereに搭載された最新機能を活用した映像編集の可能性を解説するアドビ シニア プロダクト マーケティング マネージャー ジェイソン・ドラス氏。

チーム作業も支援する
Adobe Firefly ボード

 アドビのツールには「Adobe Firefly」(以下、Firefly)といった生成AIをはじめ、さまざまなAI機能が組み込まれている。これらの生成AI機能を活用することによる映像制作のワークフロー変革について「生成AIで進化する映像制作:スマートな環境と強力なストーリーテリング」と題し講演したのが米国アドビのシニア 戦略開発 マネージャー モーガン・プリグロッキ氏だ。

 プリグロッキ氏はFireflyについて、次のように語る。「リリースされてからわずか2年半の間に、Fireflyを使って300億以上のアセットが生成されています。Fireflyのモデルラインアップも拡充しており、静止画、ベクター、動画、音声、カスタマーモデルなど幅広い生成に対応しています。Fireflyは三つの大きな柱で構成されています。一つ目は商用利用の安全性です。Fireflyの生成AIモデルは、Adobe Stockの素材やパブリックドメインなど、使用許可を得た素材のみで学習しています。そのため他者の著作権を侵害するリスクがありません。二つ目に、アドビツールと直接統合している点です。例えば『Adobe Photoshop』や『Adobe Express』などから利用でき、クリエイターがアイデアの発想からコンテンツ制作、仕上げまでをシームレスに行うことが可能です。三つ目に、クリエイター中心の設計です。私たちの生成AIモデルはクリエイターの皆さまが創造により多くのリソースを割けるよう設計しています」

生成AIを活用することによる映像制作ワークフロー変革について紹介したアドビ シニア 戦略開発 マネージャー モーガン・プリグロッキ氏。

 Fireflyにおけるクリエイターの発想を支援するツールとして、「Adobe Firefly ボード」が提供されている。これは複数のチームメンバーでアイデア出しなどの共同作業が行えるワークスペースだ。「Adobe Stockの素材や自身が持っている写真などを基に、Fireflyでキャラクターを生成可能です。生成したオブジェクトは360度回転させて角度を調整したり背景を変更したりするような編集も行えます。また一つの静止画からフォトリアリスティックな動画を生成することも可能です。生成拡張や生成塗りつぶしなどの機能も駆使し、プロンプトで指示することで映画のトレーラーを作れ、空撮を行うとどのような映像を撮れるのかという検証も容易に行えます」と、プリグロッキ氏は実際に海賊映画のトレーラーを表示しながら説明した。映像に合わせた音声も生成可能で、人間が声で表現した音にマッチした音を生成することもできるという。

生成AIを活用することで
ROIを獲得するコツとは?

 プリグロッキ氏が紹介したFireflyのような生成AIを活用することで、企業はどの程度のROI獲得が実現できるのだろうか。「『生成AI導入状況と課題分析』〜ROI獲得の戦略的アプローチ〜」と題して講演を行ったのは、アドビ エンタープライズ製品戦略部・シニアソリューションコンサルタント - メディア領域 熊田正道氏。

 熊田氏はビジュアル生成AIの活用事例に触れつつ2025年の市場概況について次のように語る。「特に広告代理店やデジタルマーケティングなどを行う企業で、ビジュアル生成AIの需要は増加しています。動画生成AI市場も急成長分野として注目されており、2025年の国内市場規模は前年比38%増と見込まれています(Exactitude Consultancy調査)。一方で、動画生成AIにおける著作権問題など、安全に運用していくための課題も顕在化しています」と指摘し、プリグロッキ氏が語ったFireflyの安全性について言及した。

 それでは実際にFireflyを活用することで、企業はどの程度のROIが得られるのだろうか。熊田氏が紹介した放送局・制作チームの事例では、コンセプト提案からキービジュアル決定までの時間を10分の1に削減できたという。また通信講座を運営する教育コンテンツチームでは、動画教材のナレーションや翻訳といった工数削減を実現でき、40分の1の時間短縮を行っている。「Fireflyはエンタープライズ向けに、企業のビジュアルスタイルをクローズドな環境で学習させて、意匠性に沿ったアウトプットを安定的に生成する『Firefly Custom Models』を提供しています。自社のブランドスタイルに合った画像も瞬時に生成でき、シズル感のある製品カットを即時に生成可能です。当社ではエンタープライズ向けの導入支援や研修などのサポートも行っており、テクノロジーのみならず成功のための包括的な導入・運用支援体制を提供しています。生成AIを活用してROIを獲得するためには信頼できるパートナーとの長期的協業が大切です」と熊田氏は訴えた。

Adobe Fireflyを活用した映像ビジネス変革の具体的戦略を解説するアドビ エンタープライズ製品戦略部・シニアソリューションコンサルタント - メディア領域 熊田正道氏。