クリエーティブの学びの質を高める
受講生の作品作りを支えるチューターAI
IT関連およびデジタルコンテンツの人材育成スクールであるデジタルハリウッドは、neoAIと共同でクリエーティブ教育特化型のチューターAI「Ututor」を開発した。2024年10月から実証プロジェクトが始まった本製品は、2025年10月に正式版をリリースする。そのリリースに先立ち、9月10日にデジタルハリウッド東京本校にて、メディア向け体験発表会が開催された。本記事では、体験発表会で語られたUtutorの開発背景や特長について紹介していく。
あらゆる生徒の才能の芽を伸ばす
評価を受ける機会をAIで生み出す
本体験発表会ではまず、デジタルハリウッド まなびメディア事業部教材開発担当 デジタルハリウッド大学大学院 准教授 石川大樹氏が登壇した。石川氏は「Ututor」の開発背景を語るに当たって、以下のように切り出す。「デジタルハリウッドは常々、学生の作品力をどうすればもっと引き上げられるか考え、試行錯誤をしてまいりました。そうした中で強く実感したことが、クリエイターとして成長するために最も大切なのは、『自分で作品を作り続けたい!』と考える情熱だということです。この『作り続けたい!』の気持ちをいかに途切れさせずに、創作活動のスピードと頻度を加速させるか、これが教育機関としての私たちの最大のテーマでした」
また石川氏は、クリエーティブ教育を行う中での課題として、ある事が見つかったと話す。「まず一つの課題に、スクールでもオンラインでも日々の練習で作った作品に対して、すぐに評価やフィードバックを出せる仕組みがなかったことがあります。もう一つの課題は、『作りたい!』という気持ちが強くても、人前で作品を見せたり評価されたりすることに抵抗がある生徒がいたことです。そうした内向的な受講生は、評価やアウトプットの機会を失ってしまいます。私たちはこのような生徒の才能の芽も摘みたくないと考えていました」
そうした背景から生まれたのが、Ututorだ。Ututorは生成AI技術にデジタルハリウッド講師陣のナレッジを組み込むことで、クリエイターの卵たちが24時間いつでも自分の作品の相談が行えるAIになっている。受講生自らのクリエーティブを手助けするAIのため、受講生が考えた作品をUtutorで作り出すことはできない。
石川氏はUtutorの活用に当たって、以下のように意気込む。「Ututorは、デジタルハリウッドがクリエーティブ教育の未来に挑む大きな一歩だと考えています。しかし私たちは、全てをAIに任せるつもりはありません。AIは模範解答を教えてくれますが、人が感動する間、揺らぎ、手触り、空気感、ぬくもりといった細部へのこだわりはまだ教えてくれません。こういったこだわりの部分には、クリエーティブ現場での知見を持つ教員の指導が必要だと考えています。私たちはAIに依存するのではなく、AIと人が協調して、より良い学びの環境を創造していくことを目指します」

まなびメディア事業部教材開発担当
デジタルハリウッド大学大学院
准教授
石川大樹 氏

AIソリューション事業部
第1部部長
藤本泰成 氏

教授
小倉以索 氏

スクール事業部
小島千絵 氏
各分野の講師のナレッジを学習
4種類のUtutorを展開
次にneoAI AIソリューション事業部 第1部部長 藤本泰成氏が登壇し、Ututorの技術面について説明を行った。藤本氏は、Ututorの開発に当たり注力した点をこう語る。「一緒にプロジェクトを続ける中で、デジタルハリウッドさまは単純にクリエイティブ技術を与えるだけでなく、受講生とどう関わっていくべきか、受講生の感性をどう生かすべきかを大切にしていると感じました。その中で我々もただAIを作って終わりではなく、デジタルハリウッドさまのナレッジと教育的な視点をどうシステムへ落とし込み、良いものを作っていくかという点に一生懸命取り組みました」
Ututorは現在、CG作品のフィードバックを行う「Ututor for CG」、グラフィック作品のフィードバックを行う「Ututor for Graphic Design」、Webデザインのフィードバックを行う「Ututor for Web Design」、動画制作へのフィードバックを行う「Ututor for Video Creation」の四つを用意している。それぞれ各ジャンルごとのデジタルハリウッド講師陣のナレッジを学習したAIが、アップロードされた作品に対して具体的なフィードバックをしたり、修正点の役に立つ動画教材を紹介したりする。なお動画教材は、デジタルハリウッドの動画学習教材「Any」からピックアップされる。
藤本氏は「Ututorは受講生が学習し、作品を制作し、フィードバックを受け、それを基にまた学習し、作品を制作するという、学びのサイクルの加速を大事にしています。デジタルハリウッドの講師もUtutorによってより密度の高い対応に専念でき、さらに受講生の作品の質を高めることに寄与していけるでしょう」と意気込む。



提供:全てデジタルハリウッド
フィードバックの厳しさを選択可能
評価だけで終わらない仕組みも用意
本体験発表会では、実際にUtutorの画面を見ながらの操作説明も行われた。デジタルハリウッド大学で3DCGなどの授業を担当する教授 小倉以索氏は、Ututor for CGを操作しながら、特長を次のように話す。「Ututorでは、フィードバックの厳しさを選べます。私は実際に3DCGの授業を受け持っていますが、若い学生の一部は厳しすぎることを言うと、へこんで授業に来なくなってしまうことがあります。そのため優しいフィードバックをもらいたい受講生は、『ノーマル』を選択できます。一方で、『ハリウッドでCG制作のプロになる』といった大きな夢を持つ受講生には、プロ向けの厳しい批評をしたいんですね。そうした受講生は『ハード』を選択すると、AIが厳しめのフィードバックを返してくれます」
体験発表会の終わりにはデジタルハリウッド スクール事業部 小島千絵氏が登壇し、Ututor for Web Designのデモと、Ututorが学習フローの中で果たす役割についての説明を行った。小島氏は説明の中で、Ututorにおけるデジタルハリウッドならではの工夫をこう話す。「まずは、評価だけで終わらせない仕組みです。動画学習教材をデジタルハリウッドで作成しているからこそ、動画学習教材のテキストを全てAIに読み込ませることができています。これにより『この映像をどうぞ』のような曖昧な形ではなく、『この映像のこの部分を見てください』と詳細に伝えられているのです。次に、答えだけで終わらせない壁打ち型学習です。Ututorは入力欄を工夫し、作成した作品の目的やターゲットなども入力させるようにしています。実際の仕事現場で考えなければならない項目を受講生に記入させることで、考えを深めるプロセスを支援します」
ほかにも特定分野の最適化、受講生のレベルに応じた個別最適化、さまざまな生活スタイルへの個別最適化など、デジタルハリウッドならではの工夫を複数行っている。
最後に小島氏は、Ututorによってデジタルハリウッドが目指す方向を次のように語った。「私たちが目指しているのは、AIを評価の自動化にとどめるのではなく、AIによって学習体験を豊かにする仕組みを作ることです。これからもデジタルハリウッドは教育とテクノロジーの協調を通じて、クリエーティブを学ぶ人々が安心して挑戦し、成長できる環境づくりに取り組んでいきます」