ハイブリッドクラウド運用の高度化を実現する
HPEが発表した三つのイノベーション
日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)は8月29日、ハイブリッドIT運用を支えるエージェント型AIフレームワークに関する記者説明会を開催した。本説明会では、6月に米国・ラスベガスで開催された年次イベント「HPE Discover Las Vegas 2025」で発表した最新戦略が紹介された。本記事では、ハイブリッドクラウド運用を高度化する「HPE Cloud Ops Software」、エージェント型AIフレームワーク「HPE GreenLake Intelligence」、そしてAIファクトリーソリューションの三つのイノベーションを解説する。
AI活用の要求が高まる中
プラットフォームの整備が求められる

執行役員
プリセールス統括本部長
中村史彦 氏
HPE 執行役員 プリセールス統括本部長 中村史彦氏は、近年のIT環境の変化について次のように語る。「現在の企業におけるITインフラは、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドが主流です。オンプレミスかクラウドかという二者択一の議論は、すでに終焉を迎えたと当社では捉えています。現在は、両者をシームレスに連携させ、より高度な運用を実現しようとするフェーズに入っています。その一方で、次のトレンドとしてAIの需要が急速に拡大しています。現時点では、チャットボットなど一部業務での利用が中心ですが、今後は業務や部門ごとに最適化されたAIモデルを展開し、企業全体でAIを活用していく必要があります。しかしAIを活用するに当たり、いくつかの課題があります。AIは、エッジやデータセンター、クラウドなどに分散した大量のデータを扱うため、統合的かつ効率的なデータ管理基盤の整備が不可欠です。また、アプリケーションの処理には高性能なCPU・GPUが必要不可欠です。それに伴い、システム全体として高い冷却効率が求められています。さらに秘匿性の高いデータを扱う場合、セキュリティ対策も求められます。こうした複雑で高負荷なAI関連の処理を当社では『究極のハイブリッドワークロード』と位置付けています。そして、それに対応するプラットフォームの整備と、ハイブリッドIT戦略全体の見直しが必要となっています」
AIの需要が今後ますます高まることが予想される中、統合型ハイブリッドクラウドプラットフォーム戦略をさらに加速させるべく、米国・ラスベガスで6月に開催された年次イベント「HPE Discover Las Vegas 2025」で三つのイノベーションを発表した。
一つ目が「HPE Cloud Ops Software」だ。HPE Cloud Ops Softwareは、マルチクラウド管理を担う「HPE Morpheus Enterprise Software」、AIOpsによるフルスタック監視を実現する「HPE OpsRamp Software」、そしてリアルタイムでのランサムウェア検知とデータ保護を提供する「HPE Zerto Software」を統合したスイート製品だ。「これら三つの製品は個別でも利用できますが、統合して提供することでより柔軟かつ効率的なハイブリッドクラウド環境の運用が可能になります。また、いずれもマルチベンダー・マルチクラウド環境に対応しているため、既存のIT環境にスムーズに導入できる点も大きな特長です」と、中村氏は強みを語る。
AIエージェント間の連携で
システムの最適化を実現
二つ目が「HPE GreenLake Intelligence」だ。HPE GreenLake Intelligenceは、複数のAIエージェントが連携し、自律的に推論・対応を行う「エージェント型AIOps」を実現するフレームワークだ。インフラや運用、FinOpsなど多様なAIエージェントが提供され、それぞれが連携することで、人間では見落としがちなインサイトの抽出や、迅速な問題解決を可能にする。これにより、日々の運用業務やライフサイクル全体において、生産性の向上やセキュリティリスクの低減、障害の最小化、障害からの迅速な復旧といった効果が期待できるという。
またAIエージェント間の連携には、大規模言語モデル(LLM)と外部のツールやデータソースを連携させるためのオープンプロトコル「Model Context Protocol」(MCP)を採用している。これにより、さまざまなAIエージェントが連携し、共同で作業を行うことが可能となっている。またHPE GreenLake Intelligenceが提供する推論専門エージェントとも協働できる。HPEは今後、サーバー、ストレージ、ネットワーク、OS、オブザーバビリティ、FinOpsなど、幅広いタイプのAIエージェントを提供していく予定だ。こうしたAIエージェント同士を連携させることで、フルスタック環境での最適化を実現する。
管理者の視点では、従来通り「HPE GreenLake」のポータルから操作を行うが、複雑化するエッジからデータセンター、クラウド環境の管理を支援するために、AIアシスタント「GreenLake Copilot」が新たに追加された。自然言語によるインタラクティブな操作が可能となり、運用のハードルを大きく下げている。「ユーザーからのインフラのリクエストをGreenLake Copilotに入力すると、各AIエージェントが連携して複数の案を提示してくれます。管理者は、その中から最適な案を選び、実行ボタンを押すだけでユーザーが望んだ通りのインフラ構築を完了できます。さらに、日々の運用ではAIエージェントがパフォーマンスなどの問題を自動で検出します。検出するだけでなく、AIエージェント同士が分析やシミュレーションを行い、GreenLake Copilotを通じて管理者に解決策を提示してくれます」と、中村氏はGreenLake Copilotを活用したユースケースを話す。
HPE GreenLake Intelligenceはまず、AIを活用したクラウド型ネットワーク管理ソリューション「HPE Aruba Networking Central」に実装される。「GreenLake Intelligence for HPE Aruba Networking Central」という名称で、2025年第3四半期から提供を開始する予定だ。
GreenLake Intelligence for HPE Aruba Networking Centralでは15以上のAIエージェントが稼働する。AIエージェントは、リアルタイム型とナレッジ型の2種類で構成されており、リアルタイム型AIエージェントは、デバイス情報やトポロジーといった日々変化する情報を監視・分析する。一方ナレッジ型AIエージェントは、技術ドキュメントやサポートケースの分析を行う。両者はオーケストレーターの下で連携し、システムの継続的な最適化を行う。

AIの導入を加速させる
HPEのAIファクトリーソリューション
三つ目が、AIファクトリーソリューションのポートフォリオ拡大だ。「今後、全社的なAI活用の展開を行うに当たり、導入や運用に課題を抱えるお客さまが増加しています。こうした課題を解決するのが、AIファクトリーソリューションです」(中村氏)。
AIファクトリーソリューションの代表例として、HPEとNVIDIAが共同開発したプライベート型AIプラットフォーム「HPE Private Cloud AI」が挙げられる。このプラットフォームでは、エンタープライズ向けの「Turnkey AI factory」に加え、サービスプロバイダーやモデル開発者向けの「AI factory at scale」、公共・金融・製薬といった機密性の高い業界向けの「Sovereign AI factory」を新たに追加した。その背景にあるのは、AIトレーニング市場の急速な拡大である。対象は一部の研究機関にとどまらず、企業のモデル開発者やサービスプロバイダー、公共・金融・製薬といった幅広い業界に広がっている。こうした変化に対応するため、ポートフォリオを拡充したという。
さらに、HPE Private Cloud AIでは、インターネット非接続のエアギャップ構成や、x86サーバーシリーズ「HPE ProLiant Compute Gen12」におけるNVIDIAの最新GPU「NVIDIA Blackwell」への対応を実現した。
データプラットフォームにおいては、AIワークロードに特化したオブジェクトストレージ「HPE Alletra Storage MP X10000」が注目される。6月に発表された「Release 2」では、メタデータ付与やベクトル化に加え、LLMとの自然言語による対話機能を備えた。さらに、MCPの組み込みも計画されている。中村氏は「MCPの組み込みによって、HPE Alletra Storage MP X10000を、AIを効果的に活用可能なストレージとして提供できるようになります。企業における強力なデータパイプラインの構築を支援し、AI活用の加速を後押ししていきたいですね」と力強く語った。