高精度な顔認証技術を多要素認証基盤に追加
高度なセキュリティとユーザビリティを両立
パスロジの多要素認証ソリューション「PassLogic(パスロジック)」は2025年9月25日に、Ver.6.1.0のアップデートを行った。同アップデートにおける最大のポイントが、顔認証への対応だ。顔認証への対応に当たり、パスロジはNECとパートナー契約を締結した。NECの顔認証クラウドサービス「Bio-IDiom Services for SaaS」で提供する「Bio-IDiom 顔登録Webサービス Web顔認証機能」をPassLogicに組み込むことで、顔認証機能の追加を実現しているのだ。本記事ではパスロジおよびNECの担当者に、それぞれのソリューションの特長やパートナー契約締結の背景について話を聞いた。
固定パスワードに代わる認証方式
まずは「PassLogic」の特長から見ていこう。PassLogicは乱数を配置したマトリックス表を活用する「PassLogic認証」をはじめ、複数の認証方式を提供している。PassLogic認証について、パスロジ 市場戦略部 マーケティングセクションリーダー 小口祥司氏は次のように説明する。「PassLogic認証は、毎回ランダムに数字が配置されるマトリックス表から、あらかじめ設定したパターンに従ってワンタイムパスワードを生成します。パスワードを記憶する必要がなく、利便性に優れています。またマトリックス表に配置された数字が毎回変化するため、フィッシングやリプレイ攻撃、盗み取りなどのリスクへの対策としても有効です。知識認証の上位互換として、固定パスワードの脆弱性を根本から解決できると考えています」
PassLogicは、2025年9月25日に公開したVer.6.1.0から、NECが提供する「Bio-IDiom 顔登録Webサービス Web顔認証機能」(以下、Web顔認証機能)を新たに組み込み、顔認証が追加された。これによりPassLogicの認証方法は9種類となり、100通り以上の多要素認証の組み合わせを実現する。導入企業のセキュリティポリシーや業務環境に合わせて、最適な認証構成を柔軟に提供可能だ。
さらに、Ver.6.1.0では顔認証とPassLogic認証を組み合わせた多要素認証でも、Webブラウザーのみで利用可能であり、ユーザーは専用デバイスの携行やアプリのインストールといった追加作業を行う必要がない。これにより、導入・運用の負荷を抑えつつ、高度なセキュリティとユーザビリティを両立する。
今回組み込まれたWeb顔認証機能にはどのような特長があるのだろうか。本サービスはNECが世界的に高い評価を得ている※1顔認証技術を基盤としており、眼鏡やマスクを着用していても顔認証が可能で、高い実用性を備えている。「顔認証の導入には、顔認証に適した品質の顔画像を撮影するための専門的なノウハウが求められ、開発上の課題になることがありました。こうした課題に対処するためWeb顔認証機能は、カメラ制御や適切なサイズで顔を撮影するための画面UIなど、NECが長年培ってきた技術的知見を統合したWeb アプリとして提供しています。加えて顔登録機能と合わせて利用することで、顔の登録から認証までを一貫してWebアプリ上で行えるため、顔認証に不慣れな開発者でも高品質な認証機能を短期間で実装可能です。これにより、開発負荷の軽減とコスト削減を同時に実現します」と、NEC バイオメトリクス・ビジョンAI統括部 主任 清水優樹氏は語る。

市場戦略部
部長
土岐典広 氏

市場戦略部
マーケティングセクションリーダー
小口祥司 氏

バイオメトリクス・ビジョン
AI統括部
プロフェッショナル
安藤佑樹 氏

バイオメトリクス・ビジョン
AI統括部
主任
清水優樹 氏
両社提携の背景と意義
Web顔認証機能をPassLogicに組み込むに当たり、パスロジはNECとパートナー契約を締結した。その背景について、パスロジ 市場戦略部 部長 土岐典広氏はこう話す。「当社はこれまで、知識認証と所有物認証を中心に高度な認証を提供してきました。しかし、近年のサイバー攻撃の巧妙化や、クレジットカード情報を保護する国際的なセキュリティ基準『PCI DSS v4.0』の多要素認証の義務化や各業界ガイドラインから、より強固な認証の重要性、特に生体認証の必要性は急速に高まっています。顔認証は直感的で利便性の高い手段として広く認知されており、PassLogicへの導入を望む声が数多く寄せられていました。そうした中、NECさまの顔認証技術は世界的に高精度との評価を得ています。他社との提携も検討する中で、NECさまの迅速な対応と、開発コストを抑えつつ早期リリースが可能な点が決め手となり、今回の連携に至りました」
続いて、NEC バイオメトリクス・ビジョンAI統括部 プロフェッショナル 安藤佑樹氏も、今回のパートナーシップについて次のように語る。「当社単独で顔認証技術を広げていくには限界があります。そのため、他社との共創によって顔認証を活用したソリューションを構築し、より多くの市場への展開を目指しています。ただし顔認証はあくまで脇役であり、お客さまが価値を感じるのは、顔認証が組み込まれたアプリやサービスです。PassLogicのような多要素認証ソリューションと連携することで、顔認証技術の価値を最大限に引き出し、より多くの顧客に届けられると判断しました。この判断の背景には、社内での活用経験があります。社内システムでの導入を通じて利便性を実感しており、こうした経験が技術普及の後押しとなりました」

地域・業種を問わずに展開
今後PassLogic Ver.6.1.0は特定の業界に限らず、日本全国の企業・組織において、セキュリティ強度の向上を求める層に広く訴求していくという。中でも金融機関、医療機関、製造業、公共部門といった分野では、セキュアなアクセス管理の重要性が一層高まっており、同製品の活用が期待されている。
最後に、PassLogic Ver.6.1.0の拡販に向けたダイワボウ情報システム(DIS)をはじめとしたパートナー企業との取り組みについて、土岐氏は次のように語った。「当社は企業規模が比較的小さく、日本全国のお客さまにこのソリューションを届けるには限界があります。そこで、全国に販売網を持つDISさまのような販売パートナーと連携し、金融・医療・製造・公共などの重要産業から中小企業・自治体に至るまで、安全な認証基盤を広く提供したいと考えています。今後、販売店向け勉強会、共同イベント、資料提供を通じて協力体制を強化し、安心して拡販に取り組める環境を整備します。こうした取り組みで、より多くの利用者に安全な認証環境を提供し、デジタル社会のセキュリティ向上に貢献していきたいですね」
※1:米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテスト(Face Recognition Technology Evaluation (FRTE) 1:N Identification)で、これまでに世界第1位を複数回獲得している。直近のテストでも世界第1位を獲得した(2025年9月時点)。NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではない。