AI活用で急成長する水冷サーバービジネスの最新動向
デル・テクノロジーズが主催する「DLC Servers & Datacenter Summit 2025 東京リターンズ」が2025年7月15日に開催された。本イベントで発表された水冷対応のサーバーコンピューティングやデータセンターの最新動向をレポートする。
AI活用の本格化に伴い急成長している
水冷サーバービジネスの最新動向を発信
【レポート】「DLC Servers & Datacenter Summit 2025 東京リターンズ」
デル・テクノロジーズが主催する「DLC Servers & Datacenter Summit(以下、DSDS)」は次世代データセンターとサーバー技術に関するイベントで、特にDLC(Direct Liquid Cooling:直接液冷)技術に焦点を当てている。今年1月に東京と大阪で初開催したところ好評を博し、4月に「東京ナイト」、7月に「大阪ナイト」が開催され、さらに今回のDSDS 2025 東京リターンズが開催された。水冷対応のサーバーコンピューティングやデータセンターの最新情報について、建築関係や設備関係などさまざまな分野の専門家が登壇した。
水冷化には生態系の対応・変化が必要
今後はOCP ORV3 21インチラックが主流
デル・テクノロジーズは1月のDSDS初開催時に「2025年を水冷元年」と宣言するとともに、その変化に対して新たなエコシステムの構築が不可欠だと訴えた。
主催者を代表してデル・テクノロジーズの執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 本部長 上原 宏氏が開会のあいさつで「水冷技術の導入は単にサーバーを変えるだけではなく、データセンターの建物の設計や冷却設備、運用体制、エネルギー管理など生態系(エコシステム)を構成する要素が連携して実現するものです。DSDSは生態系を担う方々が一堂に会する機会を提供する目的で企画しました」と説明した。
今回のDSDS 2025 東京リターンズにはITを提供するデル・テクノロジーズやエヌビディアをはじめ、データセンター事業者やゼネコンなど水冷コンピューティングの生態系を構成する各分野の企業が登壇した。
またデル・テクノロジーズのインフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 システム周辺機器部 シニアプロダクトマネージャー 水口浩之氏はDLCサーバー市場が成長する背景を説明しつつ、同社のDLCサーバー製品およびエヌビディアのGPUを搭載するサーバー製品を紹介した。
そしてサーバー市場のトレンドとしてOpen Compute Project(OCP)が策定したデータセンター向けラックの最新仕様である「Open Rack V3」(以下、OCP ORV3)を紹介した。OCP ORV3は筐体幅21インチを基本としており、従来の19インチよりも幅広となる。
しかし水口氏は「Dell AI Factory with NVIDIA」で提供されるOCP ORV3準拠の21インチラック「Dell Integrated Rack 7000」(IR7000)の外寸が従来の19インチラック製品(IR5000)と幅(750mm)、奥行(1,200mm)のサイズが同じであることを説明し、既存データセンターへの導入のしやすさをアピールした。

もう「冷やす」という概念はない
そこにある熱を「水」で動かす
基調講演には「生成AIデータセンターが急加速するビジネス&技術生態系の進化」と題して東京大学 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩氏が登壇した。現在のサーバーやデータセンターといったITインフラで生じている事象について「爆縮現象」を指摘した。
コンピューターにおける爆縮現象とはデータ量や計算量、電力需要、インフラ投資などが短期間で一気に集中・集約される現象を指す。その要因は言うまでもなくAI活用の急拡大だ。AIやHPC(高性能計算)の急速な需要の増加によって、サーバーおよびデータセンターに求められる計算能力が爆発的に増加し、それに伴い電力や冷却、通信インフラの整備が追いつかないという「インフラギャップ」が生じている。
これらに対する解決策として江崎氏は光通信技術を利用したネットワークの構築やDLCなどの液冷技術を採用したサーバーの導入、そして直流給電の利用などを挙げた。
江崎氏は「冷たいものでコンピューターを冷やすという概念から、そこにある熱を動かすという概念に変わっています。動かすための媒体を空気から液体に変える必要があります。最近のサーバーは高い温度で稼働できるので、データセンターの稼働温度も変わるでしょう」と語った。
さらに「ワット・ビット+シェル連携」というキーワードを挙げた。データセンターの移動・建築・維持に必要となるエネルギーとして「物流」(建物・施設:シェル)と「電流」(電力)そして「情流」(デジタル)の三つを示し、デジタルに必要なエネルギーを1とすると、電流に必要なエネルギーはその100倍、物流に必要なエネルギーはデジタルの1万倍にもなるという。
そして江崎氏は物流にかかるエネルギーを削減する方策を示した。データセンターの建設にはコンクリートや鉄、プラスチックなどのエネルギーを消費し、投資額も大きくなる。また建設に時間と人手、環境負荷もかかる。そこでシェル(建物)やレイアウトを標準化してモジュール化し、プレハブやコンテナでデータセンターを構築することでエネルギー消費や投資を抑えられ、時間と人手も削減できると説明した。
さらにAI活用が進むについて電力消費が増加し、電力の確保も課題となる。その対応策が「ワット・ビット連携」だ。ワット・ビット連携とは電力インフラとITインフラ(データセンター)を一体的に整備・運用することを意味する。
取り組みの例としては再生可能エネルギーが豊富な地域にデータセンターを設置したり、都市部のデータ処理を地方で行ったり、地域で発生するデータ(交通や医療、農業など)を地域内で処理する地産地消型データセンターなどが挙げられる。
ワット・ビット連携については総務省と経済産業省が中心となって進めている「ワット・ビット連携官民懇談会」の取りまとめ(1.0)を解説した。
江崎氏はサーバーやデータセンターの液冷化が進み、稼働温度が上昇し、データセンターの建設および運用の効率化、そしてワット・ビット連携の進展などにより、サーバーやデータセンターのビジネスは大きく変化すると強調した。

2. 東京大学 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩氏はコンピューターにおける「爆縮現象」への対策に水冷サーバーの有効性を説明し、データセンター需要の増大に対して「ワット・ビット+シェル連携」による解決策を示した。
3. エヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長 井﨑武士氏はAIエージェントを実現するリーズニングモデルがより大きな計算資源を必要とすることを説明し、その対策としてエヌビディアのテクノロジーおよびソリューションの有効性をアピールした。
4. デル・テクノロジーズ インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 システム周辺機器部 シニアプロダクトマネージャー 水口浩之氏はOCP ORV3 21インチラックを紹介し、従来の19インチラックと外寸が同じサイズであることを説明した。
AIエージェントの普及に伴う
リーズニングモデル構築を支援
続いてエヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長 井﨑武士氏が登壇し「企業の生成AI変革 4.4兆ドル経済を生み出す活用と支援ソリューション」と題して講演した。井﨑氏はエヌビディアの戦略およびソリューションを紹介し、AIの進化とともにコンピューターリソースの需要が増大していくことを強調した。
AIの進化は音声などの認識、認知の機能を持つパーセプション(Perception) AIからコンテンツ生成が可能となった生成AIへと進み、現在はエージェンティックAIの普及が目指されている。
井﨑氏は「AIエージェントは入力されたプロンプトを細分化して論理的に思考するところが特徴で、リーズニングモデルがそれを実現します」と説明する。
リーズニングモデルとはLLM(大規模言語モデル)が単に情報を検索したりテキストを生成したりするだけではなく、問題解決のための道筋を考え、論理的な思考プロセスを経て結論を導き出す能力を持つ。AIエージェントはリーズニングモデルによって回答や作業に必要なツールやデータを探してそれぞれを連携させて、回答の提示や作業の実行を行う。
井﨑氏は「何でもできるAIエージェントは必要なく、特定の作業を行うAIエージェントを複数作って、AIエージェント同士がコミュニケーションしてタスクを渡しながら問題を解いていきます」と説明する。
ただしリーズニングモデルを使う際に膨大な計算処理が発生し、コンピューターやネットワークのリソースの消費が増大する。AIの自然言語処理ではAIが処理するテキストデータの文章を単語や句読点、文字レベルまで分解する。その単位をトークンというが、リーズニングモデルを構築するには大量のトークンを学習させる必要があり、回答の精度を高めるには学習させるトークンも増え、計算資源をより多く必要とする。
そこでエヌビディアは高いAI処理能力の提供によってリーズニングモデルの構築にかかる時間とコストを削減するとアピールする。井﨑氏は「リーズニングモデルを活用したAIエージェントの普及から、その先にあるフィジカル AIへの発展に向けて、より多くの計算資源が求められるようになります」とAI活用の進展に伴うサーバーやデータセンター関連ビジネスの成長を強調した。