NECが自らトランスフォーメーションを実践し
日本の政府や企業のデジタル化に貢献していく

【トップ対談】INTERVIEW WITH THE PRESIDENTS

1977年、NECは「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する「C&C」という新しい概念を世の中に示し、日本にデジタル化の未来を語りかけた。そして現在、NECが描いた通りに世の中はC&Cを実現した。世界中のあらゆる領域でデジタル化が進む現在、NECはどのような未来を我々に示唆してくれるのだろうか。ダイワボウ情報システム株式会社 代表取締役社長 松本裕之氏と日本電気株式会社 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田隆之氏が日本の未来を語り合った。

成功しているPC事業の限界を見極め
その価値を生かして発展に成功

日本電気株式会社
代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
森田隆之氏

松本氏(以下、敬称略)■GIGAスクール構想向けのPCの調達では大変お世話になりました。

森田氏(以下、敬称略)■こちらこそキッティングや物流などダイワボウ情報システム(DIS)さまに協力してもらったことでビジネスが成功したと考えております。ただ部材の不足などでPCを予定通りに提供できないケースもありご迷惑をおかけしました。

松本■案件情報に関して早い段階からNECさまと情報共有をさせていただいた結果、大きな納期トラブルを避けることができました。実行の早さ、決断の早さという点では、トップシェアを長年にわたり維持されてきたPC事業を2011年にレノボと合弁事業化されましたね。

森田■NECはPC事業や液晶ディスプレイ事業、プラズマディスプレイ事業などにおいて厳しい時期が早く来たため、それらに対して判断しなければなりませんでした。

 PC事業に関して、当時社内でいろいろな意見がありました。私は以前、海外のPC事業の買収失敗の後始末を担当したことがあり、PC事業の成功のポイントはスケールだと理解したのです。スケールを獲得できなければ、いずれ厳しい状況に陥ると確信しました。

 PC事業は日本ではトップシェアを獲得していましたが、そのまま単独で維持し続けるのは難しいとみていましたし、実際に収益も低下していました。そこで国内のPCメーカーとの提携を模索したのですが、当時は他社にそのような危機感がありませんでした。

 レノボがIBMのPC事業を買収し、同社がNECのPC事業に興味を持っているという話を聞いたので、私から話をしに行きました。両社の検討はスムーズに進みましたが、1点だけ私から意見を申し上げたのです。レノボはIBM PCと同じように、NEC PCをレノボブランドで展開し、生産も海外で行う計画だったのです。私はそれは絶対にうまくいかないと反対し、合弁の提案をしました。

 日本において品質や信頼性はブランドが提供するものであり、NECのブランドが持つ品質と信頼性を利用してお客さまに提供すべきだとアドバイスしました。品質と信頼性を支えているのは日本の米沢工場であり、とても良い工場だから生産拠点としてグローバルでも活用すべきだとも意見を言いました。

 その後はご存じの通り、現在はNEC PCのみならずThinkPadもサーバーも作っており、グローバルの工場として活用されています。また生産技術でも貢献していますし、技術的な連携もあります。

松本■御社とレノボの合弁はPC事業の変革における数少ない成功事例であり、お手本だと当時から感心しています。現在は米沢工場の名前を冠した製品もあるくらい、レノボはNECさまの価値をうまく活用していると思います。

 米沢の雇用も含めて関係者全員がハッピーになった好事例ですね。現在は端末のシェアも伸びており、NECブランドとしてお客さまに広く評価されています。

森田■こうした変革においては成功事例をタブー視せず、それに対して素直に向き合えるかが重要です。継続か中止か、あるいは成功と失敗の岐路に立たされた時、常に事実に基づいた議論をして判断しなければなりません。

日本のデジタル化をけん引する
ソートリーダーシップ活動が必要

ダイワボウ情報システム株式会社
代表取締役社長
松本裕之氏

松本■長年にわたりITビジネスに携わってきましたが、今回のコロナ禍によって日本のIT活用が非常に遅れていることを再認識しました。これからは企業のDXはもちろん、政府や自治体、学校、社会全体と、日本の全てでDXが促進されるよう、当社も貢献し続けていかなければならないと改めて意を決しました。

森田■おっしゃる通りです。日本のIT活用は遅れていますが、技術は決して遅れていません。日本には優れた技術がありますが、それを単にコンポーネントとして使おうとしていた、これが問題なのです。

 技術を活用するには技術を活用するための制度や仕組み、それを活用する人の心の持ちよう、これら全てが伴わなければ日本の変革は進展しません。

 いざコロナ禍になって大きな対応をしなければならない時に、対応するための技術はあるのにそれを使うための仕組みや仕掛け、人の気持ちが対応できていない。今回それがはっきり分かりました。

 じゃあ、ということでDXに行き、DXを進めるために必要なデータを整備しなければなりませんが、データを共通化するとか、重複するデータを一つのデータとして扱うとか、プロセスを標準化していくとか、そういった仕掛け、仕組みが準備されていません。

 人に関しても、より短い時間でより多くの業務を行う、つまり生産性を上げることに対して、それを評価する仕組み、仕掛けもありません。

 こうした問題を認識して変えていくには、ソートリーダーシップ活動が必要だと考えています。ソートリーダーシップとは、ある分野で革新的な考え方や解決案を示し、その分野の進展をけん引していくことですが、NECが率先してソートリーダーシップを発揮しなければならないと自負しています。

 NECがソートリーダーシップを発揮するやり方としては、当社が持つテクノロジーが社会とどう関わるのか、そのテクノロジーが存在する、利用する意義を発信していくことだと考えています。テクノロジーを提供する側がユーザーに寄り添って同じ立ち位置で、利害が相反するのではなく同じ方向を向いて、テクノロジーを活用することを理解してもらうことが必要です。

通信と高度な開発・運用力を生かし
日本の企業や社会のDXに貢献していく

森田■NECは1977年に当時当社の会長を務めていた小林宏治氏が「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する「C&C」という新しい概念を世の中に提示しました。C&Cは素晴らしいコンセプトで、NECはこのC&Cにずっとこだわってきたのですが、世の中はすでにC&Cになっています。

 C&C、すなわちコンピュータ&コミュニケーションという言葉はテクノロジーを示していますが、企業とし
てどのように価値を提供していくのかというビジョンにはなっていません。これからはそこを明らかにしなければなりません。

 C&Cが一般的になった現在、NECが培ってきた得意とする技術をベースに、世の中のよりよい未来に対して価値を提供していくことにおいて、NECだけで全てを提供することはできません。NECの強みが発揮できることに重点を置く必要があります。

 具体的にはNECの基盤である通信、そして政府や金融機関を支えてきたミッションクリティカルで品質の高いシステムの開発力や運用力、これら二つの領域でNECは日本の企業や社会のDXに貢献していきます。

 これらの領域で価値を創造していくには、かなり深掘りしなければならない部分も出てきます。深掘りする部分ではNECだけではできないことも出てきますので、そこはグローバルのパートナーと連携してやっていきます。一方で政府関連、通信関連については自分たちでやっていく。そしてこの領域については基盤を提供し、その上でサービスを提供するパートナーと連携していきます。

松本■現在の政府はデジタル庁を創設し、自分たちで考える場所を作りました。デジタル庁の役割は外部の人とうまく連携しながら技術を理解して、要件や仕様を自身でも組み立てる能力を持つということになります。そのときに外部から持ってきたいろいろな技術を要求されるレベルに合わせて最適に組み合わせて提供できる人材や組織が必要となります。そこをNECさまがやっていくということですね。

 現在は当社も含めたITプロバイダーが意見を出し合ってまとめていく過程の途上の段階であり、まだまだ時間はかかると思いますが、今後の展開に非常に期待しています。

森田■ありがとうございます。もう一つ大切なのは、政府のように幅広いサービスを要求する場合、一つだけで対応、実現することはできません。パブリッククラウドがいい、プライベートクラウドがいい、オンプレミスがいい、ではなく、ハイブリッドで最適に組み合わせてシームレスに提供していく必要があります。その際に誰が運用を含めて信頼性を提供するのか、それを日本政府が海外の企業に依存できるのか、政府の要求に応えられる企業は限られてくると思います。

デジタル化の選択肢が増える中で
「つなげる」役割が求められる

松本■クラウドは頻繁に中身が変わり、リソースへの要求も日々変化するシステムではさまざまな面でパフォーマンスを発揮します。一方で定型化して落ち着いたシステムではコストパフォーマンスが落ちることもあります。また、セキュリティに関してはネットワークにつながないことが最も安全ですが、今の世の中においてこれは非現実的でセキュアな環境を維持するためには継続的なコストがかかります。

 時期や業務量によって利用量、利用頻度が変わるという場合はクラウドを利用すべきです。一方で、長期で使う、安定した運用が求められるシステムについてもオンプレミス前提で考えるのではなく、最新のテクノロジーも活用可能なクラウド活用も考慮に入れ、固定概念を捨てて検討することが重要です。

 今ではいろいろな選択肢があり、これだけではできない、これとあれを組み合わせて何が最適なのか、ユーザーに応じて提供できるパートナーとユーザーとをつなぐ役割が必要になります。それが当社に求められていると考えています。

 現在、その人材とビジネスを一生懸命育てています。今の文化では全く対応できないので、違う文化を作っていかなければなりません。新しいことをするには今までしてきたことを否定しながら進める必要があります。

森田■NECでは国内IT事業のDXも進めています。当社は日本政府や企業のDXに貢献していくのですから、自身のDXもやっていかなければお手伝いできません。その施策として我々自身が実験台となって、マイクロソフトやAWS、SAPなどの最先端の製品・サービスを使い倒すこともやっています。

 また製造業のデジタル化の契機としてローカル5Gの活用も提案しています。コストパフォーマンスの面で製造業で普及段階になるにはまだ数年かかるとみていますが、それから導入したのでは企業としての競争力は保てません。

 新しい技術を先行して、限定的にでも導入し、どこに課題があるのかを見極めて改善し続け、展開を拡大していく企業が生き残ります。これからは製造業がグローバルで競争力を高められるチャンスです。

松本■地方のデジタル化が進まなければITの裾野は広がりません。製造業は地方に多く、製造業のデジタル化が地方の活性化につながります。当社は全国の各エリアにきめ細かく拠点と人員を配置して、地方のデジタル化を支援し続けてきました。これからもNECさま、地方のパートナーと連携して、ローカル5Gや地方のパートナーのサービスを組み込んだソリューションを提供して、日本全体のデジタル化の底上げに貢献したいです。