少子高齢化や共働き世帯の増加に伴って課題が顕在化しているのが、子供の見守りだ。特に登下校において、通学路で犯罪被害に巻き込まれないようにするためには、地域住民が連携した見守り体制が不可欠だが、立哨活動(旗当番)を行える人手が不足しているという課題もある。そうした課題を解決するため、テクノロジーの活用が期待されている。ICタグやビーコンタグ、学習者用端末、交通系ICカードを活用したものなど、その見守りの手段はさまざまだ。今回は子供たちを見守るテクノロジーの“眼”を紹介していこう。
ICタグやビーコンを活用し
子供たちを守る“ミマモルメ”
「見守る」+「目」という意味を込めて名付けられたサービス「ミマモルメ」。校門に設置したセンサーとICタグが連動して、子供たちの登下校の状況をアプリやメールで通知する「登下校ミマモルメ」をはじめとした、子供たちの安全を守る本サービスはどのように生まれたのだろうか。「『あんしん』がかたよりなく存在する社会」を作ることを目指すミマモルメに話を聞いた。
校門の通過を保護者にお知らせ

ミマモルメは、もともと阪神電気鉄道が開発したサービスだ。大阪と神戸を結ぶ鉄道を運営する阪神電気鉄道では、もともと「あんしんグーパス」という見守りサービスを提供していた。これは関西圏を中心に使われている交通系ICカード「PiTaPa」を使用して子供が改札を通過すると、保護者にメールで通知される仕組みのサービスだ。
本サービスを展開する中で、阪神電気鉄道には「電車への乗り降りが通知されることで安心できる」「駅に迎えにいくタイミングが分かって助かる」といった保護者からの声が届いていたという。
「こうした喜びの声に応えるため、あんしんグーパスのような見守りサービスをさらに拡大していきたいという思いがありました。そうした中、ちょうど大阪市の小学校が検証している登下校見守りシステムの実証実験期間が終了することと、それに伴って保護者からの継続要望が上がっていることを知りました。そこで阪神電気鉄道が新たな見守りサービスとして開発したのが『登下校ミマモルメ』です」と語るのは、ミマモルメ あんしん事業部 副事業部長 兼 営業グループ課長 平塚泰寛氏だ。
登下校ミマモルメは2010年12月にサービスがスタートしたが、前述の大阪市の小学校では先行して試験導入し、活用が進められたという。もともと阪神電気鉄道が提供していた本サービスだが、事業拡大に伴い2017年10月1日から阪神電気鉄道の子会社ミマモルメとして営業をスタートした。
登下校ミマモルメは、学校の校門にトリガーコイルと呼ばれる機器を取り付け、その上を専用のICタグを持った子供が通過すると、ICタグが起動して電波を発信し、受信アンテナがその情報をキャッチする。その情報を保護者のスマホアプリやメールアドレス宛に自動で通知することで、子供が学校に到着したことを把握できる。下校時も校門から子供たちが出ると、その情報を保護者に通知するため、保護者は帰宅時間を把握して出迎えたり、勤務先から帰る時間を調整したりといった対応が可能になる。
「実際に利用している保護者の方からは、『登下校の時間が分かることで安心する』という声をいただいています。また、私立学校の中にはスマートフォンを学校に持ち込むことを禁止しているケースもあります。そうした学校ではミマモルメのようなICタグの見守りの需要が高まっています」と平塚氏は語る。

ビーコンで地域一帯の見守り

登下校ミマモルメは学校で導入するケースや自治体(教育委員会)が導入するケースなどさまざまだ。保護者が登下校ミマモルメで子供たちの見守りを行う場合、サービス利用料が必要になるが、自治体によっては料金を自治体側で負担したり、子供が小学校1年生の間の利用料金は自治体側で助成したりして運用することもあるという。
自身の子供も今年から小学校1年生になった、と話すミマモルメ あんしん事業部 営業グループ 主任 筒井直紀氏は「1年生が入学してから4月や5月は集団登校で上級生と登校するため安心感がありますが、6月になってから一人で通学するようになると保護者としては心配です。そこに学校に到着したことを通知してくれるミマモルメの通知があると安心感につながります」と経験を交えて語ってくれた。
登下校ミマモルメは学校の校門を通過した情報のみを通知する仕組みだ。そこからさらに町中全体に見守りの範囲を広げたサービス「まちなかミマモルメ」も展開している。これは町中に設置されたカメラとビーコンのインフラ網と、ボランティアアプリを利用した地域の人々との協力網で、地域一帯の見守りを実現するものだ。登下校ミマモルメは校門の通過を通知するが、まちなかミマモルメは町中に設置された受信機付近を通過すると即時に保護者のアプリに通知するほか、通過履歴も自動で記録するため安心感につながる。なお、登下校ミマモルメで子供たちが持つタグはRFIDタグ、まちなかミマモルメで子供たちが持つタグはビーコンタグになる。




犯罪発生率が約40%減少
「大阪府伊丹市ではこのまちなかミマモルメを大規模に導入いただいており、1,200カ所の防犯カメラに内蔵された受信機で見守りを行うほか、市内を走るバスにも受信機を搭載しています。ボランティアアプリをインストールする市民も含めて、包括的な見守りを実現しています。まちなかミマモルメでは今年の3月から『普段行かない場所での検知通知機能』を新たに提供しています。本機能は、普段行かない場所の受信機で子供のビーコンを検知した場合、保護者のアプリに通知するものです。子供がいつもと違う行動を取った場合に、いち早く気が付くことができ、捜索などの早期の対応につなげられます」と筒井氏は語る。
まちなかミマモルメは子供のほか、高齢者の見守りにも活用されている。伊丹市ではこのまちなかミマモルメと防犯カメラによる見守りによって、犯罪発生率が導入以前と比べて約40%減少したという。
「2025年4月からは、大阪市児童いきいき放課後事業『いきいき』に、登下校ミマモルメのシステムを活用した『いきいきミマモルメ』の提供も進めています。登下校ミマモルメは校門に受信機を取り付ける際、大がかりな工事が必要になりますが、このシステムはマット型の読み取り端末で子供たちが持つICタグの情報を読み取り、入退室時間を管理します。このような学童や、保育園や幼稚園などにもミマモルメのシステムを導入することで、子供たちの見守りに加えて、教職員の作業負担の軽減を実現していきます。学校現場でも児童生徒の欠席連絡などが教職員の負担になっており、これらをシステム化することで負担軽減を図りたいと考えています。現在は関西圏を中心に展開しているミマモルメのサービスですが、2020年には東京支社をオープンしていますので、今後は東日本での展開も強化していきたいですね」と平塚氏は意気込みを語った。
見守りスポットが全国に広がる“otta”
警察との連携協定で速やかな捜索も実現
子供から高齢者まで、誰もが安心して暮らせる町「スマート見守りシティ」実現に向けて、IoTを活用した独自の位置情報プラットフォームの整備を進めているのがottaだ。「見守りサービスを社会インフラに」をミッションに掲げる同社の取り組みを見ていこう。
スタイルに合った見守りを選べる

山本文和 氏
ottaが展開する見守りサービス「ottaタウンセキュリティサービス」は対象地域に住む全ての人が利用できる「BLE見守りサービス」と、GPS端末を用いて全国で利用できる「GPS見守りサービス」で構成されている。
BLE見守りサービスは、自治体や校区単位で導入し、対象地域の子供たちを見守るサービスだ。対象地域では、学校や店舗、通学路などの見守りが必要な場所にLTE内蔵の見守りルーターを設置する。子供たちはビーコンが内蔵された見守り端末を持ち歩くことで、見守りルーターが設置されたスポットを通過したことが記録・通知される。
見守り端末による見守りには、万が一のときに子供の行動履歴を問い合わせで確認できる無料プランと、あらかじめ設定した見守りスポットの検知通知や、地図による位置確認が可能な有料プランが用意されており、ottaのBLE見守りサービスを導入した自治体の保護者は、見守りたいスタイルに合わせて選択できる。
ottaで設置される見守りスポットは特定の建物ばかりではない。地域の見守りに参加したい住民が、自身のスマートフォンに専用の「見守りアプリ」をインストールすると、見守り端末を持った子供とすれ違った場所をスマホ経由で保護者に伝えられる。この見守りアプリで地域を見守る住民は「見守り人」と呼ばれており、見守った人数に応じて見守りポイントがたまり、地域への貢献度を知ることができるという。また、車載タブレットにこの見守りアプリをインストールした「見守りタクシー」も同様に、町中を移動する見守りスポットのような形で、見守り端末を所持した子供たちの居場所を記録してくれる。現在この見守りタクシーは約3万5,000台あるという。
全国約8万カ所の見守りスポット
otta 代表取締役社長 山本文和氏は「実は最近、この見守り機能が大きく強化されました。モバイルバッテリーのシェアリングサービス『ChargeSPOT』を運営するINFORICHと提携したことで、全国のChargeSPOTのバッテリースタンドに、見守りスポットとして機能する専用アプリがインストールされ、見守り端末を所持する利用者の位置情報を記録できるようになりました。このChargeSPOTは全国約4万5,000カ所設置されており、既存の見守りスポットと合わせると約8万カ所と、日本最大級といえる規模の見守りネットワークが構築できています。これまでのBLE見守りサービスは、自治体が主体となって見守りスポットを整備していましたので、その環境が整備された特定エリアの人しか利用できませんでした。しかし、ChargeSPOTを見守りスポットとして運用できるようになったことで、全国どの自治体に住んでいる人でも、ottaによる見守りが可能になります」と語る。
通常、自治体が主導するBLE見守りサービスでは、対象となる学校の子供たちにottaの見守り端末が配布される。加えてこの対象エリア外の自治体に住む人はottaの公式オンラインストアで販売されている見守り端末「otta.a」を購入することで、ottaの見守りスポットを活用した見守りが可能になる。
また、2025年1月から「PTA専用プラン」の提供もスタートしている。これはPTAが主体となってBLE見守りサービスを導入するプランだが、既存のBLE見守りサービスと異なり、有料プラン利用者の契約状況に応じて、PTAへの助成を行う「PTA活動助成制度」を利用できる。「PTAが独自に見守りサービスを導入する場合、初期導入費用が負担になります。この負担を軽減するため、当社と全国PTA連絡協議会が協力し、PTA会費から支払われた初期導入費用に対して、助成金によって還元を行う仕組みを構築しました。将来の子供たちを含めて地域全体への投資を行っていくというプランになります」と山本氏は語る。このPTAプランは見守りスポットの整備方法を二種類から選択できる。一つ目は、学校の校門などに設置して出入りを検知するスポット以外の街中の見守りはChargeSPOTでカバーするものだ。二つ目はChargeSPOTの設置数が少ないエリアの場合、街中に20カ所の見守りスポットを設置することが可能なものだ(初期導入費用に+20万円の追加費用が必要)。
山本氏はPTAプランについて「すでに5〜6のPTA団体が導入済みです。また検討中のPTA団体もあります。高齢化が進んだことで地域の見守り活動の一つである立哨活動(旗当番)を行える人でも減っています。この立哨活動をPTAが担っているケースもありますが、共働き世帯が増えたことで対応が難しくなっています。そうした人による見守りをテクノロジーに代替していくことにより、見守りを強化し、空いた時間を是非違うことに使っていただければうれしいですね」と語る。


警察との連携で速やかに保護
ottaは大阪府箕面警察署をはじめ、佐賀南警察署、佐賀北警察署、大阪府門警察署など複数の自治体の警察署との連携協定も結んでいる。これにより、当該自治体で行方不明などの事態が発生した際には、保護者の同意の下ottaの見守りサービスで記録された位置情報を基に、速やかな捜索を行うことを目的としている。「連携協定を結んでいる警察署には、ottaの管理システムにアクセスできるアカウントを発行しており、保護者から相談があればその場で位置情報を調べられます。また連携していない地域でも、保護者から相談を受けた警察からの情報開示要求に対応することで、無事に子供を保護できた事例があります」と山本氏。
ottaの利用者の99%は子供だが、高齢者の利用者も存在する。認知症患者などは家族が知らない内に外を徘徊してしまうことがあり、そうした高齢者の見守りにも活用されている。「見守りエリアがChargeSPOTによって全国に広がりましたので、今後は高齢者向けの見守りにも注力していきたいと考えています。現在主力の見守り端末のotta.aはお守り袋に入る大きさのため、地域の神社のお守り袋にいれて高齢者に持たせてもよいでしょう。また、この見守り端末のビーコンを靴に埋め込むことを検討しており、試作を進めています。現在、BLE見守りサービスは40自治体に導入が進んでいますが、今後は大都市圏を中心に、前述したような高齢者の見守りに課題を抱えている地方への展開も進めていきたいですね」と山本氏は語った。

子供たちの学習者用端末を活用し
登下校の安心安全を見守る
GIGAスクール構想によって子供たち1人に1台の学習者用端末が普及した。これらの学習者用端末でLTE通信が利用できれば、学校内や自宅だけでなく、登下校中にもそれらの通信環境を活用できる。その通信機能を活用し、子供たちの登下校を見守ろうという動きがある。NTTコミュニケーションズとNTT ExCパートナーが開発を進める児童の見守りサービスを見ていこう。
LTEモデル端末を見守りに活用

「少子高齢化の影響で、子供たちの登下校を見守る地域ボランティアの数が減少傾向にあります。これは都市部よりも地方で特に顕著です。その一方で、登下校時に子供たちに声をかける不審者や、事件や事故に巻き込まれる数は年々増えており、登下校時の子供たちの見守りを強化する必要が出てきています」と語るのは、NTTコミュニケーションズ ソリューション&マーケティング本部 九州支社 第一ソリューション&マーケティング営業部門 担当課長 原田理絵子氏。
そうした課題を解決するため、NTTコミュニケーションズとNTTグループの会社であるNTT ExCパートナーは、九州地方の自治体と共に、デジタルを活用した子供たちの見守りの実証実験に3年間取り組んできた。本取り組みの特長的なポイントに、学習者用端末を見守り端末として活用している点が挙げられる。
原田氏は「今回実証実験を行った自治体さまでは、学習者用端末にNTTドコモのLTE回線が利用できるiPadを採用していました。この通信環境は、校外学習や持ち帰り学習に学習者用端末を利用することを目的に整備されていますが、そういった学習用途以外の別の分野でiPadを活用できないか、というご相談をいただきました。また当社としても、子供たちを見守るサービスを検討した際に、ICタグのようなデバイスを子供たち一人ひとりに持たせるとそれだけ初期費用がかかってしまうことにハードルを感じていました。そのため、学習者用端末を活用した見守り環境を自治体さまに提案したのです」と語る。
この見守りサービスを開発しているのがNTT ExCパートナーだ。NTT ExCパートナーは教育機関向けの総合コミュニケーションサービス「ウェブでお知らせ」を提供している。このウェブでお知らせでは、生徒や保護者への情報伝達を行える「メッセージ」機能や、連絡事項を知らせる「多目的掲示板」などの機能を提供しており、教員の校務効率化をサポートしている。今回の子供たちの登下校の見守りは、このウェブでお知らせに「位置情報を活用した見守り」などの新しい機能として提供していく。前述した九州の自治体では、2024年10月からすでに先行導入が進められているという。

原田理絵子 氏

津野沙織 氏

大賀裕史 氏
子供の現在位置がすぐに分かる
NTT ExCパートナー 教育ICT事業部 開発・サポート部門 担当部長 大賀裕史氏は「今回新しく提供する登下校の見守りでは、『位置情報を活用した児童の現在地・行動履歴把握』や『登下校状況/登下校エリア外に出た場合の保護者通知』などの機能によって、子供たちの登下校状況や現在位置の把握を行います。児童の学習者用端末の位置情報をGPSで取得し、児童の登下校ルートをリアルタイムで確認したり、登下校エリアから子供が外に出た場合は保護者のスマホに通知が届いたりする機能です。登下校エリアは保護者が設定できるため、例えば普段の登下校で使う通学路のほか、塾へ行くルートなど、子供の行動範囲に合わせて柔軟に設定できます」と語る。
実際に実証実験を行っていた九州の自治体では、これらの見守り機能により「子供がどこにいるのかすぐに分かって安心」という保護者からの声があったという。「実際、以前は月に1〜2回ほど保護者から『子供がまだ帰ってきていない』とか『子供が学校に残ってないですか?』といった問い合わせが学校にあったと聞いています。そうした保護者に対して、位置情報をリアルタイムで把握できる見守りは安心感を与えられていると思います」と大賀氏。
また上記の見守り機能と合わせて、スマホ上で欠席や遅刻、早退連絡を行える「欠席等届出」機能もウェブでお知らせのアプリ上で提供している。こうした欠席連絡は、従来保護者が学校に電話連絡していたが、アプリからこれらの連絡を行えることで、保護者側は前日夜など時間を気にすることなく欠席連絡が行えるようになり、教員側は毎朝の電話対応の負担が減るなど、双方の負担が削減されたという。また、出欠情報がリアルタイムに確認できる「電子出席簿」や、この電子出席簿データを変換し、校務支援システムに連携できるツールなども提供しており、子供たちの見守りのみならず、教員の校務負担軽減も実現できるサービスといえる。

2.保護者向けの「ウェブでお知らせ」アプリからは自分の子供の居場所や行動履歴を確認できる。
3.児童の端末にインストールされたウェブでお知らせの画面。インストールしておくことで子供たちの見守りが可能になる。
行動エリアのデータをまちづくりに
NTTコミュニケーションズ ソリューション&マーケティング本部 九州支社 第一ソリューション&マーケティング営業部門 主査 津野沙織氏は「ウェブでお知らせによる登下校の見守りサービスは、九州以外のほかの自治体さまからも多くの問い合わせをいただいています。全国的に子供の見守りに対して課題を感じている自治体さまが多いことに加え、GIGAスクール構想で導入した学習者用端末を学習以外の用途で利用する動きが広がっていることも背景としてあります。今回のような見守り用途での学習者用端末の活用は文部科学省も推奨していますので、導入検討の動きはこれからさらに広がる可能性があります」と語る。
自治体によっては学習者用端末にChromebookやWindowsタブレットを採用しているケースもあり、それらのOSへの展開も検討しているが、現時点ではiPadを採用している自治体を中心に、展開を広げていきたい考えだ。
原田氏は「NTTグループは総合ICTや通信などを提供する企業ですので、この見守りサービスをきっかけに、教育現場の学習者用端末にもLTEモデルの拡販を進めていきたいと考えています。実際、ウェブでお知らせの見守りサービスを利用したいので、今後使えるようになるのであればWi-Fiモデルの端末からLTEモデルの端末への切り替えを検討したいという声もいただいています。今後はこの見守りサービスの位置情報から、子供の行動エリアのデータを活用した交通安全対策や防犯対策に役立てていくことも検討しており、見守りから安心安全なまちづくりへと、テクノロジーの活用範囲を広げていきたいですね」と展望を語った。
※取材対応者の所属および肩書き、ならびに社名は、全て取材時点(2025年6月時点)の情報である。
Suicaを活用して子供たちの登下校を見守り
地域コミュニティの助け合いも強化する
見守りサービスの導入を契機に、保護者からの欠席連絡をオンラインで行えるようにしたり、出欠席のデータを校務支援システムに連携したりといったデジタル化に取り組むケースも出始めている。GreatValueが提供する見守りサービスは、学校から対象をさらに拡大し、地域の課題解決を実現できるポテンシャルを秘めている。同社が提唱する“助け合いDX”と、それを実現する地域の課題解決アプリケーション「HERO」について、GreatValueに話を聞いた。

地域の助け合いを促すアプリ
助け合いDXを実現するGreatValueのアプリ「HERO」。これはさまざまな地域の課題に合わせて機能を自由に追加して使えるサービスだ。本サービスを開発したGreatValue 代表取締役社長 廣澤孝之氏は「HEROは、地元の主体者が住民向けに提供するサービスです。例えば自治体や商工会議所などが地域活性のため導入し、地域住民向けのサービスとして提供するイメージです。自治体独自のデジタル商品券とギフト機能や、地域独自の電子マネー(独自Pay)などが本サービス上で利用可能になります。一般的に、このようなサービスは初期費用や月額費用などのコストがかかりますが、当社のHEROは成果報酬型を採用しており、初期導入コストや月額費用が発生しません。ではどのように利益を得ているのかというと、本サービスを自治体で利用し、得た売り上げや手数料の一部を当社が受け取るといったビジネスモデルを採用しています。本サービスで用いられるこの成果報酬型の情報処理プログラムは特許も取得しています」と語る。
HEROで特長的な機能が、住民同士の助け合いをサポートする「ヒーロー」機能だ。これは、例えば雪かきを依頼してほしい人が、HEROアプリ内で報酬と共に依頼を出すと、その仕事ができる人や得意な人が依頼を受けて対応してくれる。「地方は少子高齢化が進み、車がない交通弱者は買い物もできません。都会であればUber Eatsやネットスーパーを利用して買い物ができますが、地方はそれらのサービス対応範囲外であることの方が多いのです。そういった方々が買い物をするためには、地域の人々による“助け合い”が必要になります。また、ボランティアの人手が集まらず、町が沈んでしまうという懸念を抱えている自治体や商店街は少なくありません。そういった自治体や商店街の課題解決をサポートできるのが、このHEROなのです」と廣澤氏は語る。
交通系ICカードで登下校を通知
こうしたHEROの提供を契機に、GreatValueはさまざまな地域の商店街とのつながりが生まれた。その中で経済産業省から紹介があった商店街から相談を受けたのが、子供たちの見守りだったという。廣澤氏は「地域の人々の不安の一つに、子供たちが登下校する際の安全面がありました。市役所から不審者情報がメールなどで知らされますが、子供がどこにいるか保護者からは分かりません。そういった地域の人々の不安を解決するために、交通系ICカードを活用した見守りシステムを導入したいという要望がありました」と振り返る。
その要望に応えてGreatValueが2022年2月にHEROで実装したのが「お子様の見守りサービス」だ。これはJR東日本が提供するSuicaと連携することで、リーダーにSuicaをかざすと、事前に登録した保護者にその場所を通過したことを通知してくれる仕組みだ。リーダーはカードリーダーとシングルボードコンピューターの「Raspberry Pi」を組み合わせており、学校の校門や昇降口などに設置する。利用する際は、保護者がHEROアプリに手持ちのSuicaやモバイルSuicaのID番号を登録し、子供はその登録されたID番号のSuicaをリーダーにかざすことで、通知が行われる。また、HEROでSuicaが使えるようになったことで、地域の助け合いに参加した際に獲得できるポイントをSuicaでためることが可能になり、より気軽に地元のボランティア活動に参加できるようになった。
「東北の一部地域では日常的にSuicaを使う機会がないという声もあります。そうした地域の子供たちが、大学進学などを契機に上京した際にSuicaをはじめとした電子マネーの使い方に慣れてもらうため、HEROの活用をしたいというニーズもありました」と廣澤氏は語る。


地域コミュニティでの活用も見込む

廣澤孝之 氏
2024年6月4日には、宇都宮短期大学附属中学校において、交通系ICカード「totra」を活用した見守りサービスがスタートした。totraは関東バスが提供する地域連携ICカードだ。Suicaの機能に加えて地域独自サービスを提供するカードのため、裏面にSuicaID番号が記載されており、HEROの見守りサービスに登録することが可能だ。宇都宮市はこのtotraを、市内在住の小学生、中学生、高校生に配付しており、ほぼ全ての児童生徒がこのtotraを所有しているのだという。宇都宮市全体でHEROの導入はまだされていないが、今後導入が進められていく予定だ。
「HEROでは現在、教育現場向けの機能強化を進めています。例えば欠席連絡などはHERO上で行えるようにしています。今後は管理が煩雑な給食費の回収などの機能も、HERO上で実装することで先生方の負担を軽減していきたいですね。実際、現在多数の学校からこの見守りサービスの問い合わせをいただいています」と語る。
子供たちに活用が広がることに伴い、子供たち同士の助け合いを支援する仕組みも実装を予定している。全国の県や市、学校では子供の自習スペースを設置する取り組みが広がっているという。「この勉強のためのフリースペースを、中学生が小学生に勉強を教える地域のコミュニティとして活用する計画を進めている自治体もあり、そこにHEROの仕組みを導入していきたい考えです。例えば中学生が小学生に勉強を教えると、自治体からポイントが付与されるような仕組みですね。このような子供同士のコミュニケーションが増えていくと、市内だけでなく、隣の市から勉強を教えるというような広い地域のつながりができるかもしれませんし、勉強にとどまらない、新しい知識が得られる機会ができるかもしれませんね」と廣澤氏は語る。
HEROのアプリは、8月にアップデートが予定されている。本アップデートではマップ上で、困りごと(課題)がある人や、特定のスキルを持っている人を表示できるような仕組みを導入する予定であり、ゲームのような感覚で地域の助け合いに参加することを目指しているという。