富士通×NVIDIAが戦略的協業を拡大
三つの領域で取り組むAI領域の革新とは

2025年10月3日、富士通は米国のNVIDIAと戦略的協業を拡大すると発表した。今回の協業は主にAI領域に関する取り組みであり、産業向けのAIエージェントプラットフォームの共同開発や、次世代コンピューター基板の共同開発・拡販、カスタマーエンゲージメントの推進を行っていく方針だ。本記事ではこの協業拡大に関する記者発表会の内容をレポートしていく。

社会課題を解決する
キーテクノロジーとしてのAI

富士通
代表取締役社長
CEO
時田隆仁

 富士通は2025年6月20日、創立90周年を迎えた。1935年に通信機製造会社からスタートした同社は創業以来、「テクノロジーで人を幸せにする」というヒューマンセントリックの考えを軸に据えている。

 登壇した富士通 代表取締役社長 CEO 時田隆仁氏は「時代や人々のニーズの変化と共に、提供する価値や形は変わってきました。しかし、根底にあるこの考え方は変わっていません」と力強く語る。

 富士通では現在、五つのキーテクノロジーと、これらをベースにした経営におけるマテリアリティに通じる三つのテーマに基づくオファリングの開発に取り組み、産業を越えたエコシステムによって社会課題の解決に向けた取り組みを進めている。「生成AIの進化により、予測やシミュレーションが可能となり、自然災害や環境問題の解決に近づいています。一方で、労働人口の減少やエネルギー問題など、依然として大きな課題が残されています。一層深刻化するそれらの課題を解決するため、我々も日夜テクノロジーをもって努力を重ねています。そして、この取り組みの大きなドライバーとなるキーテクノロジーは、やはりAIです。今後AIが本格的に企業や社会で実装されていくためには、それらを支える十分な処理能力や機能をもつ、AIインフラストラクチャが必要となります。富士通はこのAIインフラストラクチャをNVIDIAとともに構築し、その領域がもたらす可能性をさらに高めていきます」と時田氏は語る。

 今回の富士通とNVIDIAの協業では、両社の技術を組み合わせ、産業に特化したAIエージェントを統合するフルスタックのAIインフラストラクチャを構築していく。

三つの領域で協業を進める
富士通とNVIDIA

 今回の協業では「自律的に進化するAIプラットフォーム」「次世代コンピューティング基盤」「カスタマーエンゲージメント」の三つを軸に取り組みを進めていく。

 一つ目のAIプラットフォームでは、富士通が提供するAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のプラットフォームを基盤に、NVIDIAの技術を組み合わせ、AIエージェントが自律的に進化するAIインフラストラクチャの開発に取り組んでいく。

 二つ目の次世代コンピューティング基盤では、富士通が開発している高性能・省電力CPUである「FUJITSU-MONAKA」シリーズと、NVIDIAの高性能なAI学習処理を実現するGPUを組み合わせ、シリコンレベルから高速なAIコンピューティング基盤の開発に共同で取り組む。

 三つ目のカスタマーエンゲージメントでは、さまざまな顧客に対して、これらのAIインフラストラクチャを通してAIエージェント、AIモデルの活用の拡大を支援していく。加えてエコシステムの拡大を加速化させるため、富士通とNVIDIA共同でのパートナープログラムを提供していくことも予定している。時田氏は「まずはロボティクスの分野からフィジカルAIを始めとした先端技術の実装を目指すなど、特定分野でのユースケースの開発にも取り組んでいきます。当社はこれまでNVIDIAとともに、プラットフォームの領域で協業を進めてきました。最近では理化学研究所と当社、NVIDIAが連携し『富岳NEXT』の開発に向けた取り組みをスタートすることも発表しています。今回、当社とNVIDIAはデジタルテクノロジーで社会課題を解決していくという共通のビジョンを持って、地球上のあらゆるデータを用いたAIで駆動する社会の実現に向けて一歩踏み出しました。このことを大変嬉しく思っています。また、AIで駆動する社会には量子コンピューターの技術も不可欠です。当社は2026年に1000量子ビットの量子コンピューターの開発に取り組む予定ですが、将来的にはこの量子コンピューターの領域でも両社の力を掛け合わせることで飛躍的に社会への貢献を果たせると確信しています」と述べる。時田氏はAIは人に置き換わるものではなく、人とAIが協働しながら社会全体をよくしていくだろうとの展望を述べ、そういった未来に向けて協業を進めていきたいと続けた。

産業横断的にAI知見を活用し
イノベーションを起こしていく

富士通
執行役員副社長
CTO
ヴィヴェック・マハジャン

 続けて、富士通 執行役員副社長 CTOのヴィヴェック・マハジャン氏が、今回NVIDIAとの協業で開発に取り組む「自律進化するフルスタックAIインフラストラクチャ」について説明した。「時田から話があったように、今回の協業領域は『AIプラットフォーム』『次世代コンピューティング』『カスタマーエンゲージメント』の三つです。企業はセキュアな環境で使えるセキュリティ、柔軟に運用できるフレキシビリティ、プライベートな環境で使えるエッジといったポイントを重視します。富士通はこれらのポイントに高い価値を提供できます。ヘルスケア、製造、金融、行政といった業種に対して、富士通とNVIDIAの力でもってお客さまとともにイノベーションを起こしていきます」とマハジャン氏。

 AIプラットフォームの共同開発では、時田氏が述べたとおり同社のFujitsu Kozuchiを基盤に、富士通の「AI Workload Orchestrator」とマルチテナントの技術、NVIDIAの分散推論を支えるプラットフォーム「NVIDIA Dynamo」によって、高速性と高いセキュリティを実現するAIエージェントプラットフォームの実現を目指す。

 加えて、顧客のさまざまなニーズに対応するためのマルチAIエージェント技術などの機能群を開発し、富士通独自のLLM「Takane」やFujitsu KozuchiといったさまざまなAIモデルを組み合わせ顧客がスピーディにAIエージェントを導入できるようにしていく。これらのAIサービスがマイクロサービスとして「NVIDIA NIMマイクロサービス」を経由して提供されるという。
 次世代コンピューティングの領域では、FUJITSU-MONAKAシリーズと、次世代のAIインフラ向け高速インターコネクト技術である「NVIDIA NVLink-Fusion」を活用してシリコンレベルで結合していくことがすでに発表されている。また時田氏も述べたとおり、理化学研究所の富岳NEXTの開発に向けた取り組みも実施していく。

 カスタマーエンゲージメントの領域では、産業横断的にイノベーションを起こしていくため、各産業特化のAI知見を産業横断で活用できるAIインフラストラクチャ開発を進めていく。すでに安川電機のAIロボティクス技術と、富士通、NVIDIAのAIインフラ技術を連携したフィジカルAIの社会実装に向けた協業検討も進められており、これらの技術がさまざまな業界に対して、今後提供が進んでいく可能性がある。

「量子コンピューター分野の領域でも協業を進めていきます。今後両社の協業によって、数十兆円の市場への展開を目指していきます」とマハジャン氏は締めくくった。

自律進化するAIプラットフォームでは、富士通のNVIDIAの先進技術を融合させることで、高速性と高いセキュリティ性を実現する。
フルスタックAIインフラによって、産業横断でイノベーションの実現を目指していく。
NVIDIA
社長兼CEO
ジェンスン・フアン

 当日はゲストとして、NVIDIA 社長兼CEO ジェンスン・フアン氏も登場した。檀上にあがり時田氏と抱擁を交わしたフアン氏は「日本は長年にわたって、NVIDIAにとって重要な友人でありました」とこれまでの同社と日本の関わりを振り返り「今日はNVIDIAにとっても富士通にとっても重要な日です。NVIDIAは日本の最も偉大な企業の一つであり、コンピューター産業のパイオニアである富士通と提携し、次の産業革命を導いていきます」と力強く述べた。

 フアン氏はその核となる人工知能の重要性に触れ、そのAIインフラを構築する技術としてFujitsu Kozuchiの重要性や、それらと連携するNVIDIAのAIプラットフォームとの統合により、日本向けに業界最適化されたAIエージェントの構築を目指していくことなどを語り「日本はAIとロボティクス分野で世界をリードする人材、産業、そして革新の精神を備えています。私どもNVIDIAは富士通、そして日本とのこのパートナーシップを大変光栄に感じています。ともに日本のAIの輝かしい未来を実現していきたいと考えております」と締めくくった。

 登壇したフアン氏は時田氏と抱擁と握手を交わし、今回の連携協定拡大に向けた期待と抱負を力強く語った。

左から富士通 時田氏、NVIDIA フアン氏、富士通 マハジャン氏。