事例やガイドラインが教員の校務における生成AI活用を後押し

文部科学省は2023年度からリーディングDXスクール事業の一環として、生成AIパイロット校を指定し、校務や教育などの利用において、生成AIの実践事例を創出している。また2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」のVer.1.0、2024年12月にそれを改訂したVer.2.0を公表し、教育現場における生成AI活用を促している。こうした動きを受け、学校現場でも生成AI活用を加速化させている例が増加傾向にある。MM総研の調査から、教員向けの生成AIの利用状況を見ていこう。

生成AI利用率が56%に拡大

 MM総研は、2025年11月から12月にかけて、全国の公立小学校、中学校、高等学校(以下、高校)における教員による生成AI利用環境の実態を調査し、その結果を「公立小中高における教員向け生成AI利用環境調査」として発表している。

 本調査は、全国の47都道府県と1,741市区町村の教育委員会への電話調査を行い、内1,333団体からの回答を基にとりまとめられた。

 調査結果で注目したいのは、教員の生成AI利用率の伸びだ。「教員が校務などで生成AIを利用している」と回答した割合は、小中高の教員(n=1,333)全体で56%。小中学校の教員(n=1,299)では55%、高校の教員(n=34)は91%といずれも半数を超えている。中でも高校教員の利用率が高い背景として、都道府県教育委員会が校務DXと教員の負担軽減を目的に、生成AIの活用の取り組みを先行して進めていることが挙げられた。自治体によっては研修ガイドブックを発刊したり、AIエージェントコンソーシアムを立ち上げたりするなど、自治体主導による生成AIへの取り組みも目立った。

 また、小中学校の教員の生成AI利用率の推移を見ると、2025年度に大きく伸張していることが分かる。生成AI利用率の変化について、本調査を担当したMM総研 研究課長 高橋樹生氏は「ChatGPTが登場した初期の2023年5月ごろを見ると、教員の生成AI利用率はわずか1%程度でした。『文科省の生成AI利用ガイドライン』のVer.1.0が公開された後の2024年1月時点では14%、Ver.2.0が公開された後の2025年3月時点では17%と、ガイドライン公開を契機に徐々に普及が進んできていました。また文部科学省は平行して、2023年度からリーディングDXスクール事業の一環として生成AIパイロット校を指定し、教育現場における生成AI利用の検証を進めています。2025年は、こうした先行事例が横展開できる体制やノウハウがたまってきたことで利用が大きく拡大し、2025年12月時点の調査では55%と、2025年3月調査と比較して38ポイント上昇しました」と語る。生成AIを利用している教育委員会は「StuDX Style」や「リーディングDXスクール」など文部科学省のWebサイトで情報収集している比率も高く、こうした情報発信が、生成AI利用率を押し上げている側面もあるようだ。

教育クラウド付帯のツール活用が進む

 生成AIと一口で言っても、そのツールは多様だ。本調査によると、「Google Workspace for EducationやMicrosoft 365 Educationに標準搭載された生成AIを利用」すると回答した教育委員会が68%と多数を占め、次いで「都道府県が提供するAIを利用」すると回答した割合が13%となった。Google Workspace for EducationやMicrosoft 365 Educationはいずれも授業や校務で活用されることの多いクラウドサービスであり、こういった教育用クラウドサービス上で管理できる生成AIの利用を推奨することで、教員が個人向けの生成AIを持ち込むBYOAI(Bring Your Own AI)運用を抑制する狙いがあると考えられる。

 生成AI黎明期は教育現場でも、ChatGPTを使っている比率が高かった。しかし教育現場では機微な情報を扱う中で、入力した情報がAIモデル学習に使われるリスクが意識されるようになり、入力した情報をAIモデル学習に利用することが初期設定になっている、個人向けのChatGPTの利用が見直される動きが出てきた。そのため、今回の調査では個人向けなどのChatGPT利用は1%にとどまっている。教育委員会が教員に生成AIツールの利用環境を整備する際に重視する項目として「文部科学省の生成AIガイドラインへの準拠」が69%と多数を占めており、こうした動きも個人向けAIツールの活用を見直す動きにつながっているようだ。

 またGoogle Workspace for EducationやMicrosoft 365 Educationの教育用クラウドとしての利用率を見ると、授業クラウドではGoogle Workspace for Educationが69%でトップで、次いでMicrosoft 365 Educationが27%、校務用クラウドではMicrosoft 365 Educationが53%とトップで、次いでGoogle Workspace for Educationが31%となった。生成AIツールとしての利用割合は授業クラウドの利用割合に近いという。こうした教育クラウド上の生成AIを利用する背景には、生成AI利用における課題として「セキュリティ対策」や「著作権侵害リスク」「利用のためのルール整備」といった事柄を挙げたことも背景にあるだろう。

校務・授業両面で活用進展

 教育現場における生成AIの活用例では、成績表の所見欄や、授業準備といった用途で利用されているケースが多い。「最近の都心部の学校では、3〜4割の児童生徒が海外にルーツを持っているケースもあるため、保護者とのコミュニケーションに外国語のスキルが必要になります。そういったコミュニケーションに対して、生成AIの翻訳が非常に役立っているとも聞いています」と高橋氏。

 生成AIは、校務での活用に加え、学習用途でも進んでいるようだ。高橋氏は「4割強の教育現場で、生成AIを授業でも使っている傾向にあります。教育現場の生成AI利用は、校務と教育の両面から活用が進んでいると言えるでしょう。特に高校生の探究学習や総合学習での調べ物、壁打ちのような使い方が多いようです」と語る。

 一方で懸念すべきは、学習環境における生成AIの使い方だ。東京都教育委員会が2025年度に行った「児童・生徒のインターネット利用状況調査」によると、家庭でインターネットを使って学習する際に、生成AIを「使ったことがある」と回答した児童生徒の割合が38%と、前年度の16.9%から2倍以上増加したという。「生成AIを宿題などで使って、生成された答えをそのまま提出してしまうと、学習した内容を理解しないままになってしまい、学びがおろそかになってしまう可能性も否定できません。今回の調査対象とは外れますが、大学の課題でも学生が生成AIを利用している傾向にあるようで、教員は口頭試問を実施するべきかなど頭を悩ませているようです」と高橋氏は語る。

 今後の教育現場の生成AI利用について高橋氏は「現在の55%からさらに高まっていくでしょう。2026〜2028年ごろの次世代校務システムへの移行時期と、学習指導要領へのAI記載や生成AI利用のガイドライン改訂といった政府の政策的後押しによって、来年には7〜8割の利用率に達する可能性もあります。今後生成AI利用がさらに増え、またデジタル教科書が正式な教科書として採択され活用が活発化することで、ネットワークトラフィックの増大が予想される中、今後販売店の皆さまはこうしたインフラ環境の見直しや、運用サポートサービスを行うことに提案のチャンスがあるでしょう」と語った。