二極化の進む働き方に求められる
能動的なワークスタイルとは
一人ひとりが目的や状況に応じて能動的にワークスタイルを選択できるハイブリッドワーク。コロナ禍を機にハイブリッドワークを推進する企業が増えてきたものの、実際はどうなのだろうか。レノボ・ジャパンが今年4月に発表した「ハイブリッドワーク実態調査 2024」の内容から、企業におけるハイブリッドワークの現状を探っていく。
ハイブリッドワークの認知度は44.5%
レノボ・ジャパンによる調査は、2024年2月26~27日の2日間にわたり、20~69歳の会社員・公務員・各種団体職員など2,000人を対象に実施された。その結果、ハイブリッドワークという言葉の認知については、全体で44.5%にとどまった。言葉の認知度を年代別に分類した集計では、20代が52.4%と高く、30代が51.2%と続く。40代では49.5%と下がり、50代は37.5%、60代では34.2%と低かった。言葉に対する認知度は、自身の働き方に必要と感じているかどうかに比例すると考えれば、若い人ほど場所にとらわれない働き方を希望していると考えられる。
また、テレワークを導入しているかについては「組織として導入されており、自分にも適用されている」と回答した人は28.5%と3割弱だった。次いで「組織として導入されており、自分には適用されていない」は13.1%、「廃止された」は4.3%、「導入されていない」は54.1%となった。全体としては、約4割の組織がテレワークを導入しているが、その傾向は企業の規模によって開きがある。従業員数別の集計では、3,000人以上の企業は67.2%(合計値)という高いテレワーク導入率にあるのに対して、300人未満の企業では26%(合計値)と低く、その差は約2.6倍も開いている。
テレワークを巡り見えてくる現状
テレワークが可能な職務で、過去1年以内に実際に利用した人は79.2%、20.8%は利用していないと回答している。その理由を聞いたアンケートでは「オフィスの方が働きやすい」が67.4%、「コピー機・プリンターなどの機器が必要だから」が57.2%、「情報保護の観点」が51.7%、「対面でのコミュニケーションが求められるため」が44.9%という結果となった。確かに、仕事に集中できる書斎などがあれば在宅でも作業の効率は上がるだろうが、ダイニングテーブルでノートPCを使わなければならない環境では、出社した方が仕事がはかどるだろう。
調査結果では、コピー機やプリンターといった出力装置の有用性が際立っているが、そのほかにも机や椅子、外部モニターの有無などもPCを使った作業の効率を大きく左右する。テレワークは、働き方の柔軟さを提供してくれるが、PCを使うための環境に関してはオフィスと家庭で大きな差がある。それに加えて、組織がテレワークの利用をどれだけ後押ししているかについても重要なポイントとなる。勤務形態に関する調査では、「出社/テレワークを社員が選べるか」という質問に対して「報告も承認も不要で選択できる」は43%と高い割合を示した。続いて「報告が必要となるが選択できる」は31.3%で、「報告と承認が必要だが選択できる」が18.1%と、全体の92.4%がテレワークを選択できる環境にあった。
それでも、「テレワークが可能な職務である」と回答した人の中で、約半数である43.5%が「週5日出社(基本的に出社)」している。週の半分以上(3日以上)は出社している人を合わせると66.3%となり、過半数を占める高い出社率となっている。その背景にあるのは、テレワーク中の不便さだ。テレワークしにくいと感じた時の理由について、22%が「社内関係者とコミュニケーションがとりづらい」と答えている。また、「仕事とプライベートとのメリハリがつかない」17.9%、「ついつい仕事以外のことをしてしまう」14%といった働く姿勢への課題も浮き彫りとなった。
変わらない会社と変わりゆく会社の違い
直近1年間でテレワークをしたことがある人に対して「テレワーク環境下で使用したことがある機器・設備」について質問したところ、どのような設備投資が効果的なのか、はっきりとした回答が得られている。1位はもちろん「ノートPC」の82.4%だが、2位は46.1%で「スマートフォン」だった。3位が「机・椅子」の29%で、「ヘッドセット」は19.6%、「タブレット」が19%、「デスクトップPC」が18.7%、「外付けキーボード・マウス」が18.5%、「Webカメラ」が18%と続く。ここまでは、ほぼ20%前後の割合で、誰もが納得する設備投資と考えられる。それ以降は、モバイルルーター(13.7%)、据え置き型のモニター(11.5%)、持ち歩き用の充電器(10.9%)、スピーカーフォン(9.5%)などとなっている。興味深いのは、プリンターが入っていない点である。テレワークでは、ペーパーレスな働き方が主流となっているようだ。
レノボ・ジャパンの調査レポートでは、ハイブリッドワークの普及率は、企業規模や地域による違いが顕著で「変わらない会社」と「変わりゆく会社」という働き方の二極化が進んでいると指摘している。こうした働き方の変化に対して、企業としてどのような勤務ポリシーを選択するのか、従業員体験の向上を経営課題としてどこまで位置付けるのか、それらが問われる時代になっていると同社は提言している。
もちろん、育児や介護で有能な社員が離脱してしまう経営リスクを下げるためにも、柔軟な働き方を選択できるハイブリッドワークの推進は、あらゆる職場に求められている課題ではある。一方で、接客や保守のように移動や対面が必須の業務もあり、100%のハイブリッドワークの普及は難しい。それでも、変わりゆく会社が増えていくようになれば、そうした会社で働く人たちの消費行動にも大きな変化が起こる。そうした変化を捉えて事業を継続していくためには、変わらない会社であっても“変わりゆく社会”を意識しなければならない。
その変化への追随は、IT商材の提案にとっても重要な視点となるだろう。例えば、テレワークの普及が加速すれば、モバイルモニターや大型4Kモニターといった周辺機器の需要が高まると予想できる。実際に、筆者もオンラインでの取材が増えたことで、4Kモニターの効果を実感した。こうした変化は、モニター以外の周辺機器にも広がるだろう。テレワーク環境をオフィスに近づける各種デバイスの需要は高まるはずだ。社会や市場の変化は、経営にとって危機であると同時に、新たな機会ももたらす可能性がある。その変化の波に乗るためにも、変わりゆく会社への取り組みはあらゆる企業が意識する必要があるだろう。