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別府市が目指すデジタルファーストな市役所

2020年12月、政府による「自治体DX推進計画」が策定されたことによって、書面・押印・対面が必須となっていた窓口業務や紙ベースの業務プロセスからの脱却など、多くの自治体でさまざまな施策が講じられている。大分県別府市もそうした自治体DX推進に向けて取り組みを行う都市の一つであり、自治体DXが叫ばれる以前から「デジタルファースト」に注目し、行政改革を行ってきた先進的な都市でもある。今回は、別府市が取り組む「BEPPU×デジタルファースト推進計画」について話を聞いた。

将来的な市役所の在り方を示す

大分県別府市
九州の北東部、瀬戸内海に接する大分県の東海岸の中央部に位置する人口約11万人(2021年12月31日時点)の都市。市内には「別府八湯」と呼ばれる八つの温泉エリアが点在しており、湧出量と源泉数ともに日本一を誇る。大地から立ちのぼる「湯けむり」は、別府を象徴する風景として市民はもちろん観光客からも親しまれている。

 地方自治体における大きな課題の一つが少子高齢化による自治体職員の人手不足である。少人数で大量の業務をこなしながら、市民一人ひとりに寄り添う市民サービスを提供していくのは、職員の大きな負担となり困難だ。そうした現状を打破し、市役所の在り方を変えるのがデジタル技術の活用だ。窓口業務の電子化や業務の自動化などを行うことで、業務効率化といった職員のメリットにつながるだけではなく、市民サービスの向上による市民の満足度アップも期待できる。

 そうしたデジタル技術を活用して庁内業務の改善や市民サービスの向上などに取り組んでいるのが別府市だ。本市では2019年6月に「BEPPU×デジタルファースト宣言」を行っている。BEPPU×デジタルファースト宣言とは、市民、職員、国、他県に向けてデジタル技術を最大限に活用する施策により、市民サービスの向上・地方創生・生産性の向上・働き方改革、観光立国日本におけるモデル都市としてのブランドの確立などを目的としたものだ。

  1. 市民の利便性の向上を実現するサービスを提供する「市民サービスのデジタルファースト」
  2. 効率的な行政運営を行い、余力を生み出し市民に寄り添うサービスへ注力する「行政運営のデジタルファースト」
  3. マーケティング・広報の改革・強化を図り、別府の稼ぐ力を増強する「観光戦略のデジタルファースト」

 上記の三つの戦略を掲げ、ペーパーレス会議の実施、定例的な業務を自動化するRPAやAI-OCRの活用、別府市LINE公式アカウントによるサービス提供といったさまざまな取り組みを進め、庁内に大きな変革をもたらしてきた。

「BEPPU×デジタルファースト宣言を行ってから2年ほど経過し、新型コロナウイルスの感染拡大や国の進めるデジタル化の加速など、デジタルファーストを取り巻く環境はさらに大きく変化しました。このような環境の変化の中、デジタルファーストをよりスピード感を持って確実に進めていくため、BEPPU×デジタルファースト宣言をアップデートするとともに、デジタルファーストによる将来的な市役所の在り方を示す『BEPPU×デジタルファースト推進計画』を2021年6月に策定しました」と別府市 企画戦略部参事(CDO)浜崎真二氏は話す。

デジタルで完結する市役所へ

 BEPPU×デジタルファースト推進計画は、政府が推進する自治体DX推進計画の内容にプラスアルファで別府市独自の計画を加えたものだという。取り組みの期間は2021~2025年度(2021年6月1日~2026年3月31日)までとしている。市民のためのデジタルファーストを目的として、次の四つの戦略目標を掲げている。

  1. いかなくていい市役所
  2. またなくていい市役所
  3. 情報が直接とどく市役所
  4. 行政運営の変革

 1.は、さまざまな申請や手続き、申し込みがデジタルで完結したり、市民からの問い合わせに対してチャットボットが職員の代わりに自動で回答したりするといったオンライン化によって、いかなくていい市役所の実現を目指すものだ。マイナンバーカードの普及促進、電子申請や押印廃止サービスの推進などに取り組んでいき、2025年度末には別府市に対するほぼ全ての行政手続きをオンラインで完結できるようにしていく。

 2.は、窓口の予約を行ったり、市役所の混雑状況をオンラインで知ることができたり、全ての支払いがキャッシュレスで行えるようになったりと、来庁する場合でもスムーズに手続きが行えるような市役所の実現を目指すものだ。行政手続き窓口の予約やキャッシュレスの推進などに取り組んでいき、2025年度末には別府市のほぼ全ての窓口サービスの予約対応や、窓口サービスの支払いのキャッシュレス化などを実現させる。

 3.は、オンラインを活用して市と市民の情報共有の活性化を目指すもの。2025年度末には、市民一人ひとりにカスタマイズされた情報の配信、市民も情報を送れるようにするなど、オンラインを通して市と市民が情報を共有できるような仕組みを構築する。

 4.は行政運営の効率化や職員の多様な働き方の実現を目指すもの。2025年度末には、職員が行う業務の中で定例的な200の業務をRPAが実行していたり、職員がテレワークを実施したりするなど新たな働き方へと変化する。

市民全員にメリットをもたらす

「BEPPU×デジタルファースト推進計画によって、デジタルに慣れている人は、今まで来庁して行っていた行政手続きがオンラインでいつでもどこからでも申請できるようになります。一方、オンラインで申請する市民が増えることで、市役所の混雑が減りますので、デジタルに不得手な人にとっては来庁時の待ち時間が減り、スムーズな手続きができます。デジタルファーストはデジタルに慣れた人のためだけではなく、デジタルに不得手な人にとってもメリットのある取り組みにしたいと考えています」(浜崎氏)

 また職員にとっても、業務効率化による作業負荷の軽減などの効果をもたらす。対面での窓口対応といったデジタルでは補えないような業務に専念できるようになるのだ。BEPPU×デジタルファースト推進計画は、職員を含め市民全員にメリットをもたらす取り組みである。