スマート街路灯を活用して快適な街づくり
枚方市が行う公民連携の取り組み

行政改革の推進や地域活性化、市民サービスの向上を目指すことを目的に、多くの自治体で、民間事業者と連携を図る「公民連携」の取り組みが進められている。大阪府枚方市も、公民連携の取り組みを積極的に行う都市の一つだ。「枚方市公民連携プラットフォーム」を発足し、企業・大学・研究機関などと共同で行政課題の解決や市の魅力向上に向けてさまざまな取り組みを実施している。その一つが、NECと共同で行う「スマート街路灯の実証実験」である。

双方にメリットのある関係性を築く

大阪府枚方市
大阪府と京都府のほぼ中間に位置する人口39万7,882人(2021年10月末時点)の都市。西に淀川が流れ、東には緑豊かな生駒山系の山々がある。遊園地の「ひらかたパーク」にはたくさんの来場者が訪れている。ほかにも男子プロバレーボールチームのパナソニックパンサーズの本拠地としても知られる。

 多様化する市民ニーズへの対応やデジタル技術を活用した業務改善など自治体では多くの取り組みが必要とされている。しかし、そうした対応が山積しており、自治体だけで実現していくには、困難な状況にあるのが現状だ。それを解決するのが、技術やノウハウを持つ民間の企業などとともに協働を図る公民連携の取り組みである。行政の強みと企業の強みを合わせることで、新しい価値を生み出すことにもつながっていく。

 大阪府枚方市では、2020年9月に「枚方市公民連携プラットフォーム」を発足し、企業・大学・研究機関などの民間事業者とともに取り組みを始めている。「当市だけでは解決するのが困難な課題も、高い技術やノウハウを持つ民間事業者さまと連携することで解決できるのではないか、という理由から立ち上げたのが枚方市公民連携プラットフォームです。システム開発の実証の場になるなど、民間事業者さまにとってもメリットにつながり、この連携は双方にWin-Winとなる関係が築けます。民間事業者さまとともに行政課題の解決や当市の魅力向上に向けてさまざまな取り組みを進めています」と枚方市 総合政策部 企画政策室 係長 佐藤喬史氏は話す。

 その枚方市公民連携プラットフォームの取り組みの一つとなるのが、NECと共同で行う「スマート街路灯の実証実験」だ。2020年12月に枚方市はNECと「スマート街路灯の実証実験に関する協定」という連携協定を締結し、ICTを活用した快適な街づくりの施策検討や公共・産業分野でのデータ利活用を見据えて社会実証を共に行っていく。連携協定は2024年3月31日までの約3年間を予定している。

リアルタイムに人流計測

ニッペパーク岡東中央(岡東中央公園)に設置されたスマート街路灯。サイズは幅30cm×奥行き30cm×高さ5.5m、重量は約500kg。

 スマート街路灯の実証実験は、2021年3月から枚方市内にあるニッペパーク岡東中央(岡東中央公園)において開始されている。施設内にNECのスマート街路灯を一基設置し、隣接する「ふれあい通り」の人流を測定する。検証で使用しているスマート街路灯には、

・ネットワークカメラ
・スピーカー
・LCDサイネージ
・LED照明
・無線機(LTE)

が搭載されている。ネットワークカメラで通行人を撮影し、取得した映像はスマート街路灯内部の映像解析PCでリアルタイムに人流計測などの映像処理が行われる。その処理と同時に映像は破棄され、統計化された人流データのみクラウドへ送られる仕組みだ。映像処理には、NECソリューションイノベータの性別・年齢自動推定システム「FieldAnalyst」が用いられ、通行者の人数・属性(性別・年代)といった情報を推定データとして取得できる。

「取得した人流データは、周辺施設の来客数を予測したり、通行者の属性に合わせてスマート街路灯のスピーカーやデジタルサイネージから情報を発信したりするといった使い方を検討しています」と枚方市 総合政策部 企画政策室 係員 田中 亮氏は説明する。

フードロス削減にもつながる

 スマート街路灯から取得した人流データを活用して、実験も行われた。ニッペパーク岡東中央の近隣にあるパンの製造・販売を行う九十九堂本舗で、来客数や販売数を予測するというものだ。
 
九十九堂本舗では、通常、製造責任者がこれまでの傾向や在庫数、天気に基づいてパンの製造数を決定している。実験では、2021年3月18日~5月10日にスマート街路灯から取得した人流データおよび過去の客数・販売数、天気情報、カレンダー情報といった各種データをNECのAI技術を用いて学習・分析。そのデータに基づき5月11~20日の客数と販売数の需要予測を行った。

「今回は、過去のデータに対するシミュレーション結果となりますが、予測結果を基に納品数を設定したところ、売れ残りによる廃棄数を従来の実績から最大で9割近く減らせることが確認できました。この結果から人流データを活用することで、店舗のフードロスの解消などにもつながるのではないかと可能性を感じています」(田中氏)

 枚方市では、今後も実証実験を通して快適な街づくりや公共・産業分野でのデータ利活用方法などについて検討していく予定だという。「スマート街路灯を設置して、半年がたち、どのような人が通行するのかといった情報が把握できるようになりました。これからは、そのデータを何に生かしていけるのか、といった部分を含めNECさまとともに検討を重ねていきます」と佐藤氏は意気込みを語った。