GIGAスクールが拡張する世界に開かれた学び
―― 小山小学校の遠隔プログラミング実践

12月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」が回収した小惑星「リュウグウ」の砂等が入っているとみられるカプセルが豪州ウーメラ立入制限区域内で回収された。JAXAの拠点がある相模原市の小山小学校では、このはやぶさ2のミッションから着想を得たプログラミングの学びを実施しており、その授業が保護者や報道関係者向けに公開された。はやぶさ2との共通のキーワードは、“遠隔×プログラミング”だ。

食料生産課題を技術で解決

「遠い宇宙を探査するはやぶさ2は、全てのプログラムを地球で行ってから旅立っているのではなく、その運用の過程で地球から宇宙のはやぶさ2に向けて、遠隔でプログラミングを行ってプログラムを書き換えるのだそうです。その話をJAXAのエンジニアの方から伺い、GIGAスクール時代の高速大容量のネットワークによってつながる学びの環境を活用すれば、遠く離れた場所へのプログラミングも容易になるのではないか、と考えたのが今回の授業のきっかけです」と語るのは、相模原市立小山小学校の平城慎也教諭だ。

 小山小学校では今回、5年生の総合的な学習の時間において「海外に送った機械を遠隔プログラミングでデバッグする」という学びを行った。本授業は、社会科で学ぶ食料生産の発展学習に位置づけられており、「オーストラリアの食料生産の問題解決」を探求課題として設定し、日本と気候条件などの違う国の課題を探求する過程で、情報技術の有用性の概念化を目指す。単元計画として6時限設定されており、公開授業は5時限目に当たる。以前の授業では、オーストラリアの国や農業について調べたり、その農業問題を解決するアイデアを発想し、それを解決する機械モデルのプログラミングを行ったりした。機械モデルはレゴ エデュケーションのプログラミング教材「レゴ エデュケーション SPIKE プライム」(以下、SPIKE プライム)を活用し、制作している。

遠隔で機械モデルをデバッグ

 制作した機械モデルは、学級内でグループごとにプレゼンテーションを行い、代表モデルを決定。その代表モデルがオーストラリアに郵送され、現地の農業課題の解決に役立ててもらう、という流れだ。

 5時限目に当たる公開授業では、オーストラリアのシスコシステムズのスタッフが、コラボレーションデバイス「Cisco Webex Board」を介して、「オーストラリアに届いた自動灌水機(機械モデル)がうまく動かないよ」とメッセージを送ってくるところからスタートする。制作した自動灌水機は、カラーセンサーで路面の湿り状況を判断し、乾燥を感知したらスプリンクラーに見立てホースを回すというものだ。しかし、路面の湿り状況によって水をまくために、途中で雨が降るなどした場合は停止できずに水浸しになってしまう。

 そこで授業では、「天気によって動きを変えたらいいんじゃない?」「土の色が変わったら湿ってるってことだから、動作を停止すればいいんじゃない?」といった児童からの意見をもとに、プログラムの修正をスタート。SPIKE プライムには天気ブロックが用意されており、API情報の取得により海外の気象情報を基に、自動灌水機の制御が可能になる。その天気ブロックに加えて、平城教諭がいくつかのプログラミングのヒントを掲示して、児童たちがグループに分かれ、プログラムの改修に取りかかった。

 児童たちは「天気に応じて動作を変えたい」といったアイデアや「土の色によって動作を変えたい」といったアイデアを基にプログラムの改修を行った。授業の中では「オーストラリアの天気が分からないと、動作してもそれが正しい動作か分からない」という児童が、手元のChromebookでシドニーの天気を調べて、現在は晴れているということを理解した上で自動灌水機のプログラムに反映させるなど、情報活用能力の高さも垣間見えた。

 授業の最後には、「天候が雨または曇りではないなら、自動灌水機を作動させる」というプログラムを作ったグループが代表してオーストラリアの自動灌水機に遠隔プログラミングを行った。遠隔プログラミングは、Chromebookのリモートデスクトップアプリを活用し、オーストラリアのWindows端末をリモート操作して実施した。日本からオーストラリアに届いたプログラムは無事自動灌水機を動作させ、教室からは児童の歓声が上がった。

オーストラリアに遠隔プログラミングするプログラムは、天候に応じて動作を変更するものにした。
遠隔プログラミングは小山小学校で導入したChromebookを使い、オーストラリアのシスコオフィスにあるWindows PCにリモートアクセスして行った。
遠隔プログラミングした自動灌水機は正しく動作し、教室からは歓声と拍手が上がった。

ブラックボックスへの理解力

 相模原市では2017年度から、全ての小学校でプログラミングの授業をスタートしている。そのため現在の4~6年生は3年間のプログラミング学習の蓄積があり、「どういう授業をやろう、という段階ではなく、次はどういう学びを目指したらいいのか、という段階にきている」と相模原市教育委員会教育局学校教育部 教育センター学習情報班 指導主事 渡邊茂一氏は指摘する。相模原市ではそれぞれの学校で実施されたプログラミングの授業を「相模原プログラミングプラン」としてまとめており、教員が自由に参照して自身の授業に生かしている。今回の総合的な学習の時間の単元の流れも、一部プログラミングプランの授業展開を参考にしているという。

「プログラミングの授業を進める内に、コンピューターの仕組みを学んだ子供たちが自動ドアを見て『だからか』と言ったんです。『モーターで動かしているから、自動で開くんだ』『距離センサーで認識しているのかな?』というように、自動ドアを見て、そのブラックボックスになっていた仕組みを理解しようとする発想が自然と出てくる。デジタルネイティブ世代の柔軟性と、プログラミング教育の可能性を強く感じました」と平城教諭は、プログラミング教育の効果を語った。

 GIGAスクール構想によってネットワーク環境や端末が整備されることで、空間も距離も超えていくデジタルの本質を、子供たちは学べる。教室の中の学びにとどまらない、地域や社会、世界に拡張された学びによって、子供たちの可能性は大きく広がっていくだろう。