人工知能(AI)を業務に導入し、生産性を高めようとする企業が増えている。Windows 11 に「Copilot」が標準搭載され、Bing や Microsoft 365 との連携も始まった。
私たちの仕事はAIでどう変わるのか。AIに任せるべき仕事と人間がすべき仕事をどう考え、使いこなすために何をしていくべきなのか。
AIを活用することによって開く新たなステージについて、東京大学教授の 西成活裕 氏に聞いた。

東京大学
工学系研究科航空宇宙工学専攻
先端科学技術研究センター(兼任)
教授
西成活裕

人間の強みは
「因果関係の探索」と「共感」

――AIのビジネス活用が加速しています。この流れをどう見ていますか。

 まさに破壊的な技術が出てきたと感じています。最初に驚いたのは、ディープラーニングでした。AIが目を持ち、画像処理が高精度で可能になりました。次に米OpenAIの「ChatGPT」などが出てきて、自然言語で対話できるようになったことは、画期的な進化だと思います。

 学生がAIを使い始め、レポートの質が劇的に向上しました。教授も驚くようなものが出てきたりします。しかし、学生がレポートの作成にAIを使っても良いのでしょうか。教授陣で議論しましたが、結論は「YES」です。その代わり、プレゼンテーション後の質疑応答で、本人に厳しく質問します。内容を理解せずにAIを使っている学生には答えられない質問ばかりです。

 AIを使っても良いですが、きちんと理解しているか。AIを盲目的に信じず、真偽を判断する知識と能力を備えているかどうかをチェックします。大学教育は今、そのような段階に来ています。

――PCにもAIが搭載されました。人間の仕事はどう変わっていくでしょうか。

 まず「何かを書き写す」とか「データを整理してグラフ化する」といった単純作業から解放されます。人間本来の、創造的な仕事や直観的な仕事に時間を使えるようになるでしょう。

 AIの世界的権威として知られるジューディア・パール氏は、その著書「因果推論の科学」の中で、AIが最も苦手とするのは「因果推論」だと述べています。例えば、「商品Aを買った人は商品Bも買う傾向がある」といった相関関係の探索は、データさえあれば容易にできます。しかし、その原因を特定する因果関係の探索は、AIには難しいのです。無数に考えられる原因を推理力や直観力で絞り込み、メカニズムを解明しなければならないからです。ここに、人間にしかできない仕事のヒントがあります。因果関係の探索は様々な経験や知識が必要で、人間の想像力が活かせる世界です。

 もう1つ、AIにできないのは「共感」だと思います。チームによる仕事では、良い戦略があっても成功を阻む要因が多数あり、人間同士の思いやりやコミュニケーションがとても重要になります。癒し系ロボットや接客ロボットは増えていくと思いますが、生身の人間同士の心が通ったコミュニケーションに代わるようなAIは、当面出て来ないと思います。

AIをうまく活用できる人と
できない人の差とは?

――AIに任せるべき仕事は何ですか。

 AIは24時間働けるので、監視業務のようなものを自動化できます。また、レポートやグラフの作成、リサーチしてまとめるような業務を代替してくれます。営業担当者なら、提案書や資料のベース作りは、AIに任せた方が早くきれいにできるでしょう。AIに働かせている間に別の仕事ができ、生産性が向上します。また、私の研究室で、ある駐車場の車の出入りを予測しました。過去のデータからAIで予測した結果と、私が数学的なアルゴリズムで予測した結果を比べたら、AIが勝ちました。「予測」はAIが得意とする仕事です。

 また、データをグラフで可視化するだけで人間は勘が働き、推理が効くようになります。数字だと見えないものが、グラフになったとたんに、ピンとくる。可視化ツールとしてのAI活用は進むでしょう。

 ただし、そこで重要になるのは推理や勘とエビデンスのバランスです。人間の脳は、記憶を後から都合よく変えてしまうことが知られています。「勘と経験に頼る経営」から「データとエビデンスに基づく経営」への進化が求められています。

 私は Windows 11 のAI機能「Copilot」を情報の検索によく用いています。気に入っているのは、結果のすぐ下に「詳細情報」として、根拠となったWebページ予測のリストが出てくることです。真偽の確認や深堀りが容易になります。

――AIをうまく活用できる人とできない人の差は、どこにあるのでしょうか。

 PCを買うと、まずマニュアルを徹底的に読み始める人がいます。私は真逆で、まず使ってみて、分からなくなったときに、仕方なくマニュアルを読みます。後者のタイプの方が、AIの活用に向いているように思います。難しく考えず、まずは使ってみれば良いのです。

 もう1つは、「サボりたい人」ですね。繰り返し業務や、仕方なくやっている業務から解放されたい。そんな人が「面倒くさいことはやりたくない」という精神を思いきり発揮していけば、自然にAIを使いこなせるようになるでしょう。「サボりたい」と思った瞬間、AIという選択肢を思い出してください。良いパートナーになってくれると思います。

プログラミングツールとして活用
さらに、未来予測に使えれば最強

――AIをうまく活用するには、どのようなスキルや能力が必要でしょうか。

 AIが解答の根拠にしている元情報の真偽をチェックする能力が求められます。人間はそれに必要な知識とスキルを学ばなければなりません。

 その次の段階として、プログラミングツールとしてのAI活用があります。「こんなことがしたい」とAIに伝えると、プログラムを自動的に書いてくれます。これを使いこなせるようになれば、仕事の大きなサポートになるはずです。例えば、Webサイトを毎週チェックして、要約文を作ってもらうとか、日々の単純作業を自動化するアプリケーションなどが簡単に作れます。AIでプログラミングができるようになると、ビジネスパーソンとしてのステップアップになります。

 AIが最も得意とするのは、「予測」「最適化」「分類」の3つだと思います。これをビジネスにうまく使うことを考えましょう。会社が持つ過去のデータを使い、半年後、1年後の状況をAIで予測できれば最強です。未来を高い確率で予測できれば、ビジネスで勝つことができるからです。

 ただしパール氏が言うように、AIは予測は得意ですが、因果関係の究明は苦手です。その意味で、仕事を全て自動化することはできません。人間が不要になるようなことは決して無いと思います。

―― Windows Copilot のようなAIを仕事に取り入れる意義は何でしょうか。

 日々の繰り返し業務をどんどんAIに任せて時間を作り、人間はクリエイティブな仕事をすべきです。

 私がある企業と協働した取り組みでは、無駄な業務を減らして1日2時間ほどの空き時間を作り、それを10年後の戦略や新商品、新たな組織づくりなどの検討に充てました。経営陣から現場の社員まで、皆が集まってワイワイ話し合うことによって、新たなアイデアが生まれます。社員が「夢」を語ることでワクワクし、生き生きと働ける。会社が活性化するので、お勧めです。

 多くの方は、世界は今後も過去の延長線上で緩やかに変化すると考えているようです。しかし、コロナ禍や国際紛争などを見てもわかる通り、私たちは不連続に変化する時代を生きています。もはや未来は、過去の延長線上では予測できません。仕事の生産性を高めると共に、事業戦略にもぜひAIを活用していただきたいと思います。

Windows 11 Pro や Microsoft Copilot の詳細は、こちらをご参照ください。
https://www.idaten.ne.jp/portal/page/out/windows11pro/index.html

「WorkMagic -仕事に魔法を-」の詳しいお話しは、「月刊マイクロソフト」でもご紹介しております。
https://www.pc-webzine.com/article/962