今月のテーマは……
安心してAIを使うために知っておきたい
生成AIの導入と必要な準備について

本連載では過去3回にわたり、Google Workspace のセキュリティについて紹介してきました。今号では、最近、注目の高まっている生成AI に関するデータの扱いとプライバシーについて取り上げます。また、生成AIの機能のメリットを最大限に生かすための準備に関しても併せてお話します。

庄司大助(Dandy)
所属:グーグル・クラウド・ジャパン
パートナーエンジニアリング本部
役職:パートナーエンジニア
経歴:大学卒業後、日系の中堅企業のIT部門で、ITインフラ担当者として入社後、自動車系IT企業にて、ネットワークエンジニアを経験。その後、マイクロソフトにて、10年以上にわたり、オンプレミスからクラウドまで幅広くプリセールス活動に従事。現職に至る。
宮崎悦子(Kiki)
所属:グーグル・クラウド・ジャパン
パートナーエンジニアリング本部
役職:パートナーエンジニア
経歴:外資系IT企業でオンプレミス・クラウド製品に関するカスタマーサポートに従事した後、プリセールス活動に従事。得意分野はSaaS、コミュニケーションコラボレーション製品。使っていてワクワクするサービスが好き。

責任あるAIへの取り組み

 生成AIサービスのカテゴリーは、まず、コンシューマー(一般ユーザー)向けと、企業向けに分かれます。コンシューマー向けの生成AIサービスは、個人利用を想定しており、使いやすさや幅広いニーズに対応することを重視した設計になっています。一方で企業向けとなると、使いやすさもさることながら、セキュリティやコンプライアンス、もう少し具体的には、機密情報の取り扱いに高い要求があります。例えば、生成AIを介することで、社内の機密情報が、組織外の別のユーザーに知られてしまうようでは困ります。また、社内においても、通常のデータアクセス時にアクセス権がなければもちろんデータにアクセスできませんが、生成AIを通じて生成されたデータに、知りえないデータが含まれているようでは困りますよね。

 このため、Google も責任あるAIという原則の下に、安心してAIサービスを使っていただけるよう専門チームを構成し、技術開発はもちろん、社外への情報発信も含めて取り組んでいます。

データ保護のための仕組み

 次に、お客さまからよく聞かれる、より利用シーンに即した例をご紹介します。まず、生成AIサービスを通じて作成される文書や画像などの成果物はほかのお客さまにも知られてしまうのか、また、この成果物に対して Google 自身がサービス品質向上のために、アクセスしたり、利用したりするのかなどの心配は一切不要です。Google では、お客さまが生成AIに命令する文章(プロンプト)も、出来上がった成果物にも一切触れることはありません※1。

 もう一つお客さまが気になるポイントとして、成果物が著作権を侵害してしまうことで訴訟問題になるリスクが挙げられます。こちらは、ほかの生成AI サービスを提供する大手クラウドサービスベンダーと同様、万が一、著作権に関する問題が発生した場合にはお客さまを保護しますので、ご安心ください※2。ただ、何をしてもクラウドベンダーが守ってくれる、ということではありません。一定の利用上のルールを守った上で、ということになりますので、利用者に向けた周知・トレーニングも、後述する大事な準備項目の一つになります。

※1:Google Workspace データ保護の取り組みについてはこちらをご参照ください。
※2:生成AIに関する補償によるお客さまの保護についてはこちらをご参照ください。

社内データのクラウドシフトが必須

 これから生成AIサービスを導入・検討されるお客さまは「どのサービスのクオリティが高いか」といった点はとても気になると思います。どの生成AIサービスも白紙の状態からプロンプトを入力して、文書や画像などを作成してくれますが、出来上がる成果物のクオリティに大きな差は感じにくいと思います。 しかし、白紙の状態から文書や画像を作るのとは異なり、社内にあるさまざまなデータ(例えば、文書、画像、売上情報、製品マニュアルなどのあらゆるコンテンツ)を学習させ、これを考慮に入れた資料作成となると、お客さま環境の影響を大きく受けます。生成AIサービスが既存の社内情報を取り込み、学習するためには、データが生成AIサービスの手の届くところにあること、すなわち、同じクラウド上に格納されていなければなりません。Google Workspace を活用されているお客さまは、さまざまな業務データをクラウド上に保管されているため、生成AIサービスがコンテンツを学習しやすい環境にあります。これらを活用したコンテンツ生成においては、より精度の高い、最新の情報を加味したものとなりますので、満足のいく成果物が生まれやすくなります。一方、オンプレミスに業務データの多くが残っていて、クラウドも一部利用しているようなハイブリッドクラウド環境のお客さまですと、生成AI サービスが学習できるコンテンツがクラウド上にある限定的なものになってしまうため「学習が不十分」「情報が古い」といった期待値にそぐわない成果物になる可能性が高まります。

 生成AIに過度な期待が寄せられ「ハルシネーション」※3の問題について軽視されている感がある中で、上記のような準備や考慮をせずに勢いで導入してしまうと「せっかく導入したのにあまり役に立たなかった」「期待値に合わなかった」という結果になりかねません。生成AIに何を期待するか? 生成AIを使って何をしたいか? の定義も重要ですが、社内データのクラウドシフトは準備作業として必須となりますので、ぜひ、こちらを推進することをお勧めします。

※3ハルシネーション:AIが事実に基づかない情報を生成する現象のこと。

Google Workspace は、Google LLC の商標です。