Chapter.2
市場調査編

2025年度にWindows 11需要のピークが訪れる
コロナ禍を契機に求められるPCにも変化

2025年10月14日のWindows 10サポート終了に向けて、法人向けWindows 11搭載PCは市場にどのような変化をもたらしていくのだろうか。法人向けPC市場の現状や動向などについて、ICT市場調査コンサルティングのMM総研に話を聞いた。

入れ替え需要が一気に集中
早めの移行計画を

MM総研
中村成希

 2021年10月5日にWindows 11が提供開始となってから、約2年が経つ。今ではPCベンダー各社からWindows 11を搭載したPCが、続々と発売され、市場をにぎわせている。今後は2025年10月14日のWindows 10サポート終了に向かって、需要の加速が見込まれる。

 まずはMM総研が調査した年度別の法人PC市場全体の予測から見ていこう。なお、この調査はWindows 11以外も含む国内法人向けPCの出荷台数全体の推移となる。

 調査結果を見ると、2019年度と2025年度の出荷台数が大きく増加していることが読み取れる。「Windows OSの入れ替えに伴って、市場が大きく変動するのが法人PC市場の特徴であるというのが当社の見解です。2019年度は2020年1月14日にサポート終了を迎えたWindows 7の入れ替えに伴いニーズが増加しました。そして、次に需要のピークが訪れると予測しているのが、Windows 10のサポート終了を迎える2025年度です。サポート終了間際に需要が集中しないように、今から早めに、Windows 11への移行を進めましょうというメッセージを発信してはいますが、昨今、為替相場が大きく変動していることもあり、やはり2025年度に需要が集中しそうです」と説明するのはMM総研 取締役 研究部長 中村成希氏だ。

 同社では、OSマイグレーション時の需要動向についても調査を実施している。Windows 7、Windows 10、Windows 11(Windows 11は見通し)とそれぞれOSのサポート終了に伴う入れ替えがあった年に需要が高まっており、その前後の年はあまり大きな変化がない。「OSの切り替えのタイミングの年は需要が最も集中し、前年は先行して入れ替えを行っているユーザーのニーズがありますが、一方で翌年は大きく需要が減るという傾向にあります」(中村氏)

 ただ、2018〜2020年度は少し状況が違ったという。Windows 10の入れ替えの需要が高まった時と同時期に、新型コロナウイルスの感染が拡大したのだ。「コロナ禍で多くの人がノートPCを買い求めました。その中でWindows 11が搭載されたPCを購入するユーザーが一部いたことや、本来はPCの入れ替えのタイミングでない場合でも、在宅で仕事をするために需要を先食いする形でノートPCを購入したユーザーも一部いたとみています。需要規模としては、Windows XPからWindows 7にシフトしたときと同じくらいであったとみています。需要変化のきっかけが新型コロナウイルスというあまりポジティブな内容ではありませんが、大きな時系列で見たときの違いだと思っています」と中村氏。

“AI PC”がキーワード
PCに求められるスペックに変化

 もう一つの違いとして、PCの種類が挙げられるという。それがデスクトップの需要の変化から分かる。例えば、Windows 10の入れ替えの際、ノートPCが先に多く出荷され、OSサポート終了間際の駆け込みでデスクトップPCが大量に購入されるという動きが見られた。2018年度と2019年度のノートPCの出荷台数をそれぞれ見ると、約430〜460万台で、ノートPCは早めに購入する動きがあったことが分かる。一方でデスクトップPCは2019年度になって需要が一気に集中した。「自席で使うPC、施設管理や工場で利用するといった用途、そして中小企業でのニーズが集中したことでデスクトップPCの需要が跳ね上がりました。ただ、コロナ禍で社会情勢の変化が起き、人々の働き方が変わってきています。在宅勤務や働く場所を選ばずに業務ができるというテレワークなどのオフィス以外で働く選択肢が増えたことで、選ばれるPCの種類も変化しています。そのため、Windows 11のサポート終了におけるデスクトップPCの需要はWindows 10のときの入れ替え時と比べて、出荷台数が減少するだろうというふうにみています」と中村氏は説明する。

 また、今後PCの種類やスペックにも変化が起きてくると同社はみている。その理由に中村氏は“AI PC”をキーワードとして挙げる。インテルからAI Boost専用エンジン(NPU:Neural Processing Unit)を内蔵した「インテル Core Ultra プロセッサー」が発表されるなど、AIの活用が広まっている。「今後はこうしたAIを搭載したAI PCの存在が市場に大きな変化をもたらしてくると予測しています。また、ChatGPTや画像生成AIなどの利用が活発になり、そうしたAIを活用するために、高いスペックを有するPCが求められるようになってきました。Windows 11の移行の際にも、AIがキーワードとなり、性能の高いPCへのシフトやAIを搭載した機器の需要拡大などがポイントになってくるとみています」(中村氏)

企業規模別で需要に違い
大企業は現時点でも堅調

 企業の規模によってPC需要の変化や違いはあるのだろうか。MM総研では、市場規模別のコメントを次のようにまとめている。

【中小企業(〜100)】
・10人以下のSOHOセグメントは堅調。倒産や廃業なども多いが、インボイス対応関連やスタートアップ支援活性化など需要喚起につながるテーマも多い。
・新規スタートアップは、アプリも含めてクラウド化、ノートPCで場所を選ばない働き方が多い。

【中小・中堅企業(〜999)】
・国内製造業が輸出中心にやや息を吹き返し、来季投資をアグレッシブに計画する企業が増えている模様。ただし、足元、特に2023年度は、目先の材料費等高騰により従業員向け設備投資(もしくは経費)への予算は抑制傾向にある。
・顧客の先行き投資への警戒感がありPC在庫は積み増しにくい状況でサーバーも小口需要中心に不調。一方、DX需要でソフトウェアサブスクリプション販売は大きく伸びており、今後ハードも含めてリカーリングできる仕組みを伸ばしたいとしている。

【大企業・公共】
・大企業は現時点でも堅調。さらにリプレース商談が増加中と各社コメント。
・基幹更改が中心となり、SIが主軸だがハイブリッドワークやデータ活用関連の需要(クラウドネイティブ化)が続く。
・セキュリティ対策も同時に検討。
・官公庁、自治体は、デバイスよりアプリケーションのマイグレーション、デジタルガバメント対応需要が旺盛で端末はやや低調。
・ただ、2024年度は自治体を中心にOS更新需要が多く顕在化すると各社みている。

 最後に法人PC市場について、Windows 11への移行需要も踏まえて中村氏は次のように述べた。「2025年がWindows 11搭載PCの入れ替えのピークとなっていくと考えていますが、同じようにGIGAスクール構想によって普及した教育用PCの入れ替え需要も2025年がピークとなるでしょう。PC市場は忙しい1年になることが見込まれますので、2025年のサポート終了間近に入れ替えを行うのではなく、早めに着手していくのが得策だといえるでしょう」