その商品何に使うの?
ロボットの技術で世界を愉快にする

〜『甘噛みハムハム』(ユカイ工学)〜 後編

ユカイ工学は額と耳のセンサーで脳波を計測して動く猫の耳型のカチューシャ「necomimi」や、尻尾が付いたクッション型ロボット「Qoobo」、スマートフォンと連動してコミュニケーションを取れるロボット「BOCCO」、そしてぬいぐるみに指をくわえさせて甘噛みを楽しめる「甘噛みハムハム」など、変わった商品を生み出している。これらの商品はどのようにして生み出しているのか、事業として成り立っているのか、同社CEOの青木俊介氏に話を伺った。

社員旅行の余興から始まった
面白い試作品の発表会

角氏(以下、敬称略)●ユカイ工学は面白いと言いますか、変わった商品をたくさん開発して販売してきましたが、商品のアイデアは青木さんが考えているのですか。

青木氏(以下、敬称略)●商品のアイデアは社員全員で出し合ってコンペを実施しています。エンジニアやデザイナーだけではなく、営業やバックオフィスの社員も含めて全員が参加する試作品の発表会を毎年実施しています。

 さまざまな部署の社員を混成した5名から6名のチームを作り、それぞれのチームが自由な発想で試作品を作って発表し、社員全員で評価して商品化するかどうかを判断しています。

●資料で発表するのではなく、試作品を作って実物でプレゼンテーションするのですね。

青木●そうなんです。もともと社員旅行の余興で始めたのですが、実際にやってみるといろいろなバックグラウンドの人が集まってアイデアを出し合うと、これまで思いつかなかったものがどんどん生まれてくる様子が面白くて、今では商品開発の大切なプロセスの一つになっています。

 例えば尻尾が付いたクッション型ロボット「Qoobo」もこのコンペで生まれました。試作品では雲のようなクッションに尻尾が付いていたのですが、最初に見たときに売れるのかどうか分からなかったけれども、この発想はすごいと思い気に入ってしまいました。

●それで売っちゃったんですね。

青木●以前に耳のセンサーで脳波を計測して動く猫の耳型のカチューシャ「necomimi」の開発のお手伝いをしたのですが、そのときに2個のモーターを使った商品を1万円で販売して10万台が売れたという経験があり、その方程式に当てはめるとQooboも1個のモーターで作れるので1万円の値付けで10万台くらいは売れるだろうという見立てもしていました。

 ただし確信はありませんでしたので、まずは出展が決まっていた「CEATEC」(毎年10月に幕張メッセで開催されるIT技術とエレクトロニクスの国際展示会)の会場でQooboを発表してみました。すると来場者の反応がとても良くて手ごたえを感じました。またネットでも話題になっていましたので、皆さんが関心を持っているうちにクラウドファンディングで予約販売をしてみたところ1,000台以上の注文をいただきました。これに販売店さんからの予約をもらえば生産に必要な最低ロットの販売は何とかカバーできるという見通しが立ち、商品化を進めました。

 実際に売ってみるといろいろな人に興味を持ってもらえて、幅広い層に受け入れてもらえました。そうしたら要望もいろいろといただいて色違いも発売しました。それからQooboをTwitterなどSNSに投稿してくださるお客さまもたくさんいまして、それならファンミーティングをやろうということになり、コロナ禍以前は半年に1回のペースで開催していました。

 ファンミーティングではQooboにリボンを付けてカスタマイズするなどのワークショップをやったり、Qooboのラインアップに新しい色を加えるとしたら何色がいいかといった要望を聞いたりしました。

 そうしたファンの皆さんとのコミュニケーションの中で、Qooboを散歩や会社に持っていきたいけど大きいので持ち歩くのが恥ずかしいという意見をたくさんいただきました。そこで次のファンミーティングで小さいQooboの試作品を作って持って行ったところ、好評でしたので「Petit Qoobo」を商品化しました。

尻尾が付いたクッション型ロボット「Qoobo」は3色、小型の「Petit Qoobo」は4色をラインアップする。
柴犬と三毛猫のぬいぐるみに指をくわえさせると甘噛みをする「甘噛みハムハム」。

妄想も受け入れる社風が育む
自由な発想から生まれる商品

●尻尾が付いたクッションという面白いアイデアが商品化されて、ファンも付いて、ラインアップも増えて、こうした成功事例が出てくると自由な発想の変わったアイデアを出しやすい雰囲気が社内で醸成されるのではないでしょうか。

青木●そう思います。何か妄想のようなことを話しても恥ずかしくないし楽しんでくれるという安心感があると言いますか、自分の恥ずかしい部分をさらけ出せると言いますか、そういった雰囲気がありますね。

●そういう雰囲気と文化がなければQooboはもちろん、「甘噛みハムハム」のようなアイデアは出てきませんよね。

青木●甘噛みハムハムはマーケティング担当の男性社員のアイデアで、自身の子どもが小さいころに甘噛みをした経験から発想した商品なんです。彼の話では子どもが甘噛みしてくれるのがすごくうれしくて幸せな気持ちになるのだけれども、噛み癖がつかないように心を鬼にして叱らなければいけないという葛藤があり、この葛藤から人類を解放するために甘噛みハムハムは必要な商品だというアピールでした。

●このプレゼンテーションを聞いた社員の方々の反応はいかがでしたか。

青木●甘噛みという発想が新しく、甘噛みは言語化されていないので面白いという意見でした。アイデアへの評価は高かったのですが試作品のぬいぐるみのクオリティが高くなかったこともあり、商品化に1年ほどかかりました。

●1年間も開発を続けたのは売れるという確信があったのですか。

青木●売れるか売れないかと言うと、売れる気はあまりしていませんでした(笑)。

●ビジネスの視点で考えると消費者は課題を解決するために対価を支払いますが、面白いから買う、好きだから買う、という商品があってもいいわけで、消費者の感性に訴えることが売れるための重要な要素になります。その点で見た目の「かわいい」はとても大切ですね。

青木●諦めないで開発を続けたおかげでかわいい商品に仕上がり、おかげさまで販売数が累計3万台(匹)を突破しました。

●どのようなお客さんが購入されているのですか。

青木●40代、50代のお客さまが多く、男女は半々です。ある小型の人型ロボットは50代の女性をターゲットに開発されたと聞いたことがあります。子育てが終わった後の心の寂しさを癒すために、5歳の子どもをイメージしてデザインされているそうです。このストーリーと同様に甘噛みハムハムも40代、50代のお客さまに受け入れられているのだと考えています。

(左)フィラメント 代表取締役CEO 角 勝 氏 https://thefilament.jp/
(右)ユカイ工学 CEO 青木俊介