コンシューマーからエンタープライズ向けまで
AI時代に合わせたトレンドマイクロのセキュリティ戦略

トレンドマイクロは2026年4月15日、事業戦略発表会を開催した。AIの進化によってサイバーセキュリティを取り巻く環境が大きく変化する中、同社は今後の事業戦略とともに、AI時代に対応する新たな取り組みとして、個人から企業、さらには物理インフラまで、利用シーンごとに役割を明確化した三つのブランドを発表した。本記事では個人向けと企業向けのブランドを中心に、その狙いや具体的な内容を詳しく見ていく。

三つのブランドを立ち上げ
AI時代のサイバーセキュリティを確保

トレンドマイクロ
取締役副社長
大三川彰彦

 最初に登壇したトレンドマイクロ 取締役副社長 大三川彰彦氏は、同社のこれまでの取り組みについて次のように語った。「当社は創業38年目を迎え、現在は世界42カ国に事業を展開するサイバーセキュリティ専業ベンダーとして活動しています。その取り組みは、国内においても公的な信頼という形で評価されており、日本政府が定めるセキュリティ認証『ISMAP』を取得しています。また『日本サイバーセキュリティ産業振興コミュニティ』の一員として、日本の国産サイバーセキュリティの発展や開発・提供にも継続的に関わってきました。こうした国内での活動に加え、国際的な領域でも役割を担っています。インターポールとの連携によるサイバー犯罪捜査への協力は10年以上に及び、加盟各国に向けたサイバーセキュリティ専門家の教育についても、当社が主体となって実施しています。その結果、中東、アジア、アフリカといった地域では、警察関係者の間で広く知られる存在となりました。こうした取り組みは企業や政府機関にとどまりません。個人ユーザー向けの分野では、全国47都道府県の警察と連携し、詐欺対策や迷惑電話対策を共同で進めております。直近では、警察庁から推奨ソフトウェアとして、当社の詐欺対策アプリ『詐欺バスター Lite』をご紹介いただきました。このように当社は、エンタープライズからコンシューマーまで幅広い領域で、日本社会全体の安全に貢献することを重視してきました。そして、お客さまの困りごとに対して常に先を読みながら事業を展開することで、この38年間、継続的な成長を実現できたと考えています」

トレンドマイクロ
代表取締役社長
兼 CEO
エバ・チェン

 続いて登壇した同社 代表取締役社長 兼 CEO エバ・チェン氏は、AI時代の到来によって、ソフトウェアの本質そのものが変化していると語る。「従来、ソフトウェアの役割は『データの収集・整理・提示』にありましたが、AIの進化によって、『独自のデータの生成や推論、意思決定のサポート』へと大きく広がっています。こうした役割の変化は、ソフトウェアの設計思想そのものにも影響を与えています。従来型のソフトウェアが、あらかじめ定義された処理手順をたどるフローチャートのような構造で作られてきたのに対し、近年登場したエージェント型AIは、各エージェントがそれぞれ独自の“脳”を持ち、解決策を考え出し、互いに協力しながら動作するという、従来とは根本的に異なるアプローチで設計されています。このような異なる特性を持つソフトウェアが同時に存在することで、サイバーセキュリティのリスクが増大しています」

 こうした現状を踏まえ、トレンドマイクロでは、AIを活用したセキュリティ対策と、AIエージェントに対するガバナンスを両輪とするアプローチによって、ユーザーをサイバーセキュリティのリスクから保護していく方針だという。

 その具体策として、利用シーンごとに役割を明確化した三つのブランドを立ち上げた。個人・家族向けには日常生活に寄り添うセキュリティを担う「TrendLife」、法人向けにはAI活用を前提としたセキュリティ基盤を提供する「TrendAI」、そしてロボットや車両など、物理的なインフラ領域におけるAIセキュリティを担う「VICOne」だ。本説明会では、TrendLifeとTrendAIの詳細が語られた。

家族の価値観を理解したAIが
子どもの教育や家族間のスケジュール調整を支援

トレンドマイクロ
TrendLife
最高コンシューマー事業責任者
フランク・クオ

 まずはTrendLifeから、その詳細を見ていこう。TrendLife設立の背景について、トレンドマイクロ TrendLife 最高コンシューマー事業責任者 フランク・クオ氏は、次のように説明する。「AIの登場によって、世界は大きく変わりました。子どもたちはAIと共に成長する時代を迎えていますが、その一方で、批判的思考や判断力の低下、さらには家族が大切にしてきた価値観との間に生じるズレといった点が懸念されています。また、AIの悪用によって詐欺の手口は一段と巧妙化しており、特に高齢者を中心に被害のリスクが拡大しています。こうした中で、子どもの教育と高齢の両親のケアという二つの役割を同時に担う『サンドイッチ世代』が、家族を支え続けることは、以前にも増して難しくなっています。TrendLifeは、まさにこのサンドイッチ世代を主なターゲットとしています。従来の画一的なセキュリティ対策ソフトとは異なり、AIが家族それぞれの価値観やルールを理解し、共に正しい判断を下せるよう支援します。そうすることで、家族全員がAIの世界において安心して暮らせる環境を実現することを目指しています」

KaleidaのUI例。子どもが制作した作品の制作プロセスを記録し、フィードバックしてくれる。
トレンドマイクロ
チーフカスタマー
エクスペリエンス
オフィサー
ピーター・チャン

 本説明会では、TrendLifeの具体的なソリューションとして、新たに「Kaleida」が発表された。Kaleidaは、トレンドマイクロが培ってきたイノベーションの実績に加え、約20年にわたる子どもや保護者向けのセキュリティ教育・啓発活動で得た知見を生かして開発された、家族向けのAIサービスだ。具体的には、子どもがAIを使って作品を制作する際に、どの程度自力で思考したのかを可視化する機能のほか、家族それぞれのスケジュールや行動パターンを理解し、先回りして通知や調整を行う仕組みを備えている。

 トレンドマイクロ チーフカスタマー エクスペリエンス オフィサー ピーター・チャン氏は、「AIは家族に対して新しい可能性を広げている一方で、家庭にAIを迎え入れるためには、まずAIを信頼できる存在にしなければなりません。Kaleidaでは、AIを家庭生活の中で十分に信頼できるものにすることを目標としています」と強調した。

十分な人員や専門知識を確保しづらい今
AIエージェントがインシデント対応を支援

トレンドマイクロ
TrendAI
最高プラットフォーム責任者
兼 最高事業責任者
レイチェル・ジン

 続いてTrendAIの詳細を見ていこう。法人向けサイバーセキュリティ事業部門をTrendAIとしてリブランディングした背景について、トレンドマイクロ TrendAI 最高プラットフォーム責任者 兼 最高事業責任者 レイチェル・ジン氏はこう話す。「このリブランディングには、大きく三つの狙いがあります。一つ目は、企業がAIや自律システムを中心に業務を再設計していく中で、ユーザーが活用するAIそのものを守ることを、明確に示すためです。二つ目は、攻撃者側もAIを活用する時代において、防御する側である当社も、よりパワフルなAIによって防御を高度化させていく意思を示すことにあります。三つ目は、当社の組織全体がAIを深く理解し、実践的に使いこなしていることを示すためです」

 本説明会では、TrendAIの具体的なソリューションとして、「Trend AI Vision One」が紹介された。Trend AI Vision Oneは、トレンドマイクロが長年にわたって蓄積してきた脅威データや知見を基盤に、大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、AIエージェントがセキュリティ対応を支援するプラットフォームだ。具体的には、アラートの優先順位付けやデジタルツインを用いた攻撃予測をはじめ、インシデント発生時に対応者とステークホルダーが集い解決を目指す「ウォールーム」の立ち上げ、経営層向けの報告資料の作成、組織内に存在するデジタル資産の可視化などをAIエージェントが支援する。

Trend AI Vision OneのUI例。自身のスキルでは対処が困難なインシデントが発生してしまった場合、AIエージェントがエスカレーションのための重要ポイントを自動的に要約してくれる。

 Trend AI Vision Oneの強みについて、ジン氏は次のように語る。「AIの悪用によってサイバー攻撃者の行動は高速化しており、防御側にも、これまで以上のスピードが求められています。そのスピードを実現する上で、AIの活用は不可欠ですが、一方でAIには適切なガバナンスが欠かせません。AIを誰が、どこで使っているのか、そして利用しているAIに危険性がないのかを把握できなければ、かえってリスクを高めてしまいます。また、業種を問わずサイバー攻撃のリスクが高まる一方で、十分な人員や専門知識を確保できていない企業も少なくありません。Trend AI Vision Oneの提供によって、お客さまのこうした課題を解決していきたいですね」