2020年に流行した新型コロナウイルス感染症に伴い、多くの企業がテレワークを実施した。その際、リモートアクセス環境の導入やコミュニケーションツールに続いて整備が進められたのが、電子契約ツールだ。ITコンサルティング・調査会社のアイ・ティ・アール(以下、ITR)は、この電子契約サービスの市場動向を継続的に調査している。「導入企業や利用用途の裾野が広がっている」という本市場の動向について取材した。
コロナ禍を契機とした
テレワーク需要で市場が拡大

プリンシパル・アナリスト
三浦竜樹 氏
ITRは、2020年4月に「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」を実施している。本調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、企業が実際に行った緊急措置として最も多いのが「テレワーク制度の導入」の37%であり、「リモートアクセス環境の新規・追加導入」(27%)などがそれに続いた。一方、緊急措置後の計画として挙げられたのが「社内文書(申請書など)の電子化対象拡大」および「社外取引文書(契約書など)の電子化対象拡大」であり、これらは36%で共に最多だった。
実際、同社が調査した2020年度の電子契約サービス市場の売上金額を見ると、前年度比72.7%増となる100億7,000万円。2020年6月に内閣府、法務省、経済産業省が契約書への押印不要の見解を示したことで、事業継続の観点から電子契約サービスの導入が加速したことが背景にある。またDXの一環として電子契約サービスを導入する動きもある。2021年度の電子契約サービス市場も2020年度と同様に成長が続き、前年度比56.1%増となる157億2,000万円となった。
大企業では適用業務が拡大
中堅中企業でも全社導入が進む
コロナ禍で拡大した電子契約サービス市場だが、これらはあくまで緊急措置の側面が強い。テレワークが働き方の主流となったことで、電子契約サービスの導入ニーズが急速に高まったのだ。それでは、こうした需要が落ち着いた現在の電子契約サービス市場はどのように変化しているのだろうか。
ITR プリンシパル・アナリスト 三浦竜樹氏は「2024年度の電子契約サービス市場は前年度比20.7%増となる295億円です。本市場はコロナ禍で急速に導入が拡大し、現在普及期に入っていますが、まだまだ成長率が高い市場であり、2025年度も前年度比22.0%増で成長していくことが予測されています。大企業での導入が一巡した一方で、中堅中小企業での導入が進みつつあります」と語る。
電子契約サービスは、契約締結から契約管理までの業務効率向上、郵送代や印紙代などのコスト削減、契約業務フローの可視化およびガバナンス強化などの観点から、企業での導入効果が高いソリューションだ。三浦氏が述べたように大企業で先行して導入が進んでおり、受発注や検収などの契約周辺業務との連携など、電子契約サービスの適用業務が広がっているという。
「このような高度化したニーズの顕在化によりアップセルが継続すると予測しています。また中堅中小企業では、部門や業務単位での契約書の電子化から、全社展開へと拡大することが見込まれており、市場規模が拡大していくでしょう」と三浦氏は語る。

※ベンダーの売上金額を対象とし、3月期ベースで換算。2025年度以降は予測値。

不動産や外食産業など
BtoC分野でも導入進む
中堅中小企業での導入率が向上している背景には、取引先である大企業との契約で使用したサービスに利便性を感じ、自社でも導入するようになったことも挙げられる。また、従来はBtoB向けの分野での活用が中心だった電子契約サービスだが、2022年5月に不動産取引の電子契約が解禁されたことで、BtoC分野での活用が進んだ。「外食産業での活用も進んでいます。これは飲食店にスタッフを派遣する人材会社との雇用契約において、電子契約サービスが活用されているようです」と三浦氏は語る。
金融や保険契約などのシーンでは、対面で契約の説明を行いながら、タブレット上の電子契約サービスに署名するケースも少なくない。これらの金融や保険業界での電子契約サービスは一通り普及が進んでいるが、今後の法改正により需要が拡大する可能性もある。
三浦氏は「中堅中小企業への導入が進み、BtoB向け活用が拡大すると同時に、BtoC向け活用も広がりを見せることで、電子契約サービス市場の裾野は拡大傾向にあります。そのため本市場は、今後も好調な伸びが期待できます。2024〜2029年度の年平均成長率は11.3%を予測しており、2029年度には500億円を突破することを見込んでいます」と語る。まだ電子契約が認められていない書類も、今後の法改正や関連技術との連携などにより、電子化可能となっていくと予測される。企業は法務部による法令改正の確認と併せ、将来の契約書電子化の利用拡大を計画することが求められるだろう。

