日本企業は「業務プロセスにシステムを合わせる」

日本企業がシステム投資を行うにあたって、生産性の低さが問題になっている。本書によると日本企業のシステム開発には欧米企業の3倍の工数がかかるという。つまり、日本企業の投資の3分の2は無駄な投資ということになる。多くの経営者はシステム投資の生産性を上げようとするより、「大きな調整力によって、いつの間にかその危機は乗り越えられているから、何もしないほうがよい」と、他人任せ・風任せだ。莫大な予算を投じたシステム刷新が頓挫し、数年経ってもビジネスモデルの変革は遅々として進まず、レガシーシステムの維持管理費がIT予算を圧迫し続ける──。そんな「出口のない迷路」に迷い込んでいる企業は少なくない。

日本企業の基幹システムは、既存の業務に合わせること、業務プロセスにフィットさせることを重視すると言われている。業務にシステムを合わせるため、カスタマイズが中心となり、システム導入の遅れや失敗、コスト肥大化などを招いている。

一方、欧米の企業では、業務をシステムに合わせることで、データの統一化を優先した。業務プロセスにシステムを合わせるのではなく、データの収集・統合が第一であり、それによってデータの一元管理が実現し、意思決定や事業展開がスムーズに進むようになったという。

これを裏付けるのが、日本企業ではカスタマイズ率が85%以上なのに、米国企業は40%以下だというデータだ。システム導入に要する期間も日本企業は3年から5年、場合によっては10年かかる例もある。欧米企業は1年から、長くても2年程度。これではコストばかり増大し、企業の競争力も大きく差を付けられる。

BCGの調査によれば、DX成功率は各国平均の30%に対し、日本企業では14%と惨憺たる有様だ。

深刻なIT人材欠乏と「丸投げ」の構造

IT人材のキャリアプランに関しても、企業内内製化が進んでいる欧米企業に比べ、日本企業では子会社や外部企業への外注が主となっている。企業内でIT専門家の地位が低く、育てられないのだ。本書によれば「企業によっては、IT部門は長年、日陰の組織と位置づけられてきたと言っても過言ではない」「IT・デジタル部門にはあまり優秀な人材はいない」という。能力のあるエンジニアは事業会社のIT部門ではなく、ITベンダーやコンサルティングファームを目指すことになる。

内部にITが分かる人がいないから、事業会社はITベンダーやコンサルティングファームにIT関連の開発や保守を丸投げすることになる。

人材がいないからIT部門がダメなのか、条件が悪いからIT部門に優秀な人材が来ないのか。

本書では「DX以前に脱レガシーで足踏みしている状況において企業が保持すべき人材としては、比較的オーソドックスなスキル、とりわけプロジェクトマネージャー、ビジネスデザイナー、エンジニア、プログラマーの拡充に目を向けていくべきだ」と説いている。もっともITベンダー側でも人材不足は深刻で、受注単価は上がるのにスキルが追いついていないという、発注側にしてみれば、踏んだり蹴ったりの状況だ。

「3ない」状況からの脱却

多くの経営者は「AIを使えば何かが変わる」「DX担当役員を置けば解決する」と考えがちだ。しかし、本書はそれを明確に否定する。デジタル変革の本質は「ビジネスモデルの変革」そのものであり、ITはそれを実現する手段に過ぎない。したがって、デジタル戦略の失敗は、経営戦略そのものの不備、あるいは組織の意思決定プロセスの機能不全に他ならない。

企業内でIT関連の大規模プロジェクトはそうそうあるものではない。結果として、社内に経験が蓄積されにくく、「ITが分かる経営者がいない」「事業が分かるIT人材がいない」「ITが分かるIT人材がいない」という「3ない」状態に陥りがちだ。

社内に見積りができる人もいない。プロジェクトはシステム開発の初期段階である「要件定義」の段階からコンサルティングファームやITベンダーに丸投げする。そして、ベンダーからはどんどん提案が積み上げられ、プロジェクトの対象が広がり、規模が拡大し、予算はうなぎ登りとなる。

経営者がITを理解しておらず、IT部門を各事業部門の御用聞き程度に考えているのだ。御用聞きではいつまでたってもエンジニアとしてのスキルは向上しない。給与も上がらない。他社のIT部門に転職しても、御用聞きは御用聞きのままだ。ならばITベンダーやコンサルティングファームに転職しようということになる。事業会社は、優秀な営業や企画担当者に払うような高額な給与を払ってまで優秀なIT人材を獲得しようとも思わない。人材の流動性と人材マーケットが機能しないままになる。

「攻めのCDO」と「守りのCIO」による組織変革

本書ではデジタルを活用して自社の成長につなげるため経営者には、事業ストーリーとの連動や任命責任、大胆な意思決定といったマインドセットの変更が求められると述べられている。

特筆すべきは、CIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者)の明確な役割分担の提言だ。CIOはだいぶ認知が進み、設置している企業も増えている。CDOは日本企業での導入はまだまだだ。

本書によればインフラや基幹系システムを担当する「守りのIT」を担うのがCIOの範囲。顧客接点関連や自動化を促す「攻めのIT」を担うのがCDOの範囲だという。CDOはビジネス効果と直結し、独自性と差別化が得意な人に相応しい。日本企業においてはCIOとCDOの役職を分け、「守りの専門が守りを、攻めの専門が思い切り攻めを担う形をとらない限り、グローバルの先陣には追いつけない」のだ。

日本企業の勝機はどこにあるか

本書では最後に、日本企業がグローバル競争で再び輝きを取り戻すための提言がなされる。

まずは無駄なデータ整備や無理なシステム統合にとらわれず、意味のあるデータ整備に集中し、業務効率を上げるための自動化を実践すること。

基幹システムはデータを収集するためにあり、現場で業務効率を高める仕組みや顧客接点の高度化、売上を拡大する仕組みは別途用意することで、投資を最小限に抑えられるという理解を全社に浸透させなければならない。

収集するデータについても、経営者が「見たいから」といったレベルに対する現場の「忖度」で肥大化しがちだ。本来の事業・機能管理としての必要なデータに絞れば、データ構造は半分以下にスリム化できるという。開発コストが下がり、ストレージは削減でき、何より判断のために必要なデータを迅速に確認できる。

そして「企業とベンダーの低位安定関係から脱却しないと、新しい技術やノウハウは生まれず、日本のデジタル赤字は解消しない。事業会社側が事業とデータを活用して、AIの活用を進めていかない限り真の技術発展はない」と締めくくっている。

本書は決して読み心地の良い本ではない。むしろ、私たちの日常の甘えや、見ないふりをしてきた組織の膿を、執拗なまでに暴き出す劇薬のような本である。ITを丸投げで済ませようとする経営者、経営と現場の板挟みで苦しんでいるIT企画担当者、自らの専門性をいかにしてビジネスの価値に接続すべきかに悩んでいるIT担当者にお勧めの一冊だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をPC-Webzine.comがピックアップ!

『まやかしDXとの決別! 生成AI時代を勝ち抜く真のデジタル事業変革』( 横山浩実 著/日経BP)

デジタル化による経営革新、事業変革を取り巻く厳しい状況を直視し、真のDXを成功させ競争優位を獲得するために現場のリーダーが知っておきたいメソッドをわかりやすく解説。これからのDXは、期待と現実のジレンマを乗り越え、事業部門が主導できるか否かで成否が分かれることをわかりやすく説明。自社のDXは、どのようなビジネス価値の実現を目指すべきなのか、3つのパターンに分けて経営戦略レベルの考え方を解説。旧弊にとらわれてDXに失敗する多くの事例を反面教師に、どのようなアプローチでしがらみを断ち切るべきかノウハウを伝授。(Amazon内容解説より)

『いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する』(石角友愛 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

現在、日本では空前のDXブームが起こっています。とくにコロナの影響でリモートワークが急速に進んだ企業では、DX推進が最優先課題になっているという話もよく聞きます。しかし、実際にDX推進に向けて動き出した企業の担当者の話を聞くと、「何から手をつけていいのか、わからない」「見積もりをとってDXプロジェクトが動き出したが、途中で頓挫した」etc…なぜ、日本企業のDXが失敗するのか。そこには大小いくつもの理由がありますが、最大の原因は「DXとはいったい何を指すのか」について、経営者やDX担当者が共通言語を持っていないことにあるのではないでしょうか。本書ではDXの定義から始まり、欧米や日本の数多くの企業の事例を紹介しながら、皆さんの会社のDXを推進するための考え方やフレームワークについてお伝えしていきます。(Amazon内容解説より)

『DX成功の鍵 トップが変える企業の未来 NECが挑んだ変革の記録』(小玉浩、森田隆之 著/日経BP)

かつて株価が額面割れするまでに追い込まれた危機を回避するため、NECには構造改革が必要でした。求められたのは、掛け声だけに終わらない、真の構造改革です。そのために、何をしなければならないと考え、どのように実行したか──本書はトップの決断とアクションのドキュメントです。復活の原動力となったのがデジタルトランスフォーメーション(DX)。単に業務をデジタル化するだけでは不十分です。企業がより大きな価値を創造できるようになるために、未来を見据えたトップの判断が重要です。そのときにトップは何をゴールと考え、経営陣をチーム化していったか。現場とともに変革を進めていくために、どのように社内の文化を変え、全社のベクトルを合わせていったのか。本書では、NECのDXを主導したCIOとCEOが、実践により積み上げた、生きた知見とノウハウをこの1冊に凝縮しました。(Amazon内容解説より)

『データ経営大全──中小企業経営の切り札』(近藤恵子、崎濱栄治 著/インプレス)

DXブームのあと、生成AIの登場でますますテクノロジーと経営が融合せざるを得ない状況になっています。技術革新のスピードがますます速くなっているため、それをキャッチアップするだけでも大変な時代に突入しているといえます。本書では、DX化に今一歩乗り遅れてしまった、または、導入したけどうまくいっていない経営者のかたに向けて、その情報をコンパクトにまとめています。この一冊を通して、あなたの会社もDX化の一歩を踏み出してみましょう! DXで未来を創る、中小企業のためのデータ活用ガイド!(Amazon内容解説より)

『最強のデータ経営: 「目に見える成果」を導くシン・ボトムアップ型アプローチ』(大塩崇、大島翼、肖俊毅 著/東洋経済新報社)

率直に言って、多くの日本企業のデータ経営の進捗は、欧米のトップ企業と比較して数周回レベルで遅れているのが現状だ。その要因は、経営層と現場の双方にある。まず経営層においては、そもそもデータ経営に対する意識が低い方が多い。また、本書でも指摘しているように、データ経営を真の意味で実現するには、人材変革や組織変革が不可欠である。しかし、多くの日本企業ではこれらへの取り組みが不十分であり、結果としてデータ経営の進展が遅れている。一方、日本企業の「現場」は、国際的にも非常に高い水準にある。従来の日本企業の強さは、まさに現場の強さにあったと言える。しかし、その現場の強さが逆に障害となり、従来の「経験・勘・根性」に依存する現場作業へのこだわりが、DXの推進を阻んできた側面もある。この課題を克服するための本書の提示するアプローチは、「日本企業の強さは現場にあるのだから、現場からのボトムアップによるデータ経営を推進すべき」という主張なのだ。 (Amazon内容解説より)