クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjerは、2025年5月1日から経営体制を一新し、“第二期創業期”として新たなコーポレートミッション「人事の『これからの当たり前』をつくり、お客様とともに進化する」を策定している。人事は煩雑な業務が多く、それ故に負担が大きいというこれまでの“当たり前”を、jinjerはどう変えていくのか。今回の育児・介護休業法改正を契機に人事の在り方を変えていくことを提案する同社に話を伺った。

法改正に伴う企業対応の実態

ジンジャー
上杉公也

 改正された育児・介護休業法は2025年4月と10月に段階的に施行される。jinjerは、その育児・介護休業法の改正に伴う、企業の対応状況や業務負担の実態について2025年2月に調査を実施した。その結果を「育児・介護休業法改正に伴う業務負荷に関する実態調査」として3月に発表している。調査対象となったのは企業の経営層、人事担当者、時短勤務等柔軟な働き方をしている従業員の計306名だ。

 同調査によると、調査を行った時点で育児・介護休業法改正に対応している企業は55.6%と過半数を超える企業が対応を実施したことが分かる。また、今回の改正に伴って、新しく導入したり、見直し・強化した制度で最も多かったのは「育児や介護のための休業・休暇拡充」で62.4%。次いで「テレワーク・リモートワーク制度」が54.7%、「フレックスタイム制」が52.9%、「短時間勤務制度」が51.2%という結果となった。

 そうした対応に伴い、最も負担が大きいと感じる業務は何だろうか。同調査によれば「勤怠管理の調整(出退勤時間・労働時間の管理)」が24.1%と最も多く、次いで「給与計算の複雑化(変動する勤務時間・手当の調整)」(19.4%)、「社内制度の整備・就業規則の作成」(17.6%)、「勤怠管理や給与計算のシステム対応」(15.3%)だという。この給与計算と勤怠管理に関しては、法対応を進めるに当たる懸念/課題への回答に対しても上位を占めており、「給与計算が煩雑になる」が41.2%で最も多く、次いで「勤怠管理が煩雑になる」が37.5%という結果になった。

 jinjerプロダクトデザイン部 プロダクトマネージャーの上杉公也氏はこの調査結果を踏まえ、次のように語る。「今回の育児・介護休業法改正では、これまで以上に多様な働き方を推進する動きが拡大しています。例えば、テレワークや時短勤務、残業免除などが明文化されているため、企業ではそれらに対する対応が求められています。しかし、制度を導入するだけでは不十分です。多様な働き方に対応することで、勤怠管理や給与計算はむしろ複雑化してしまうため、今回の調査でも懸念や課題として挙げている回答者が多くいました。また、今回の法改正では、男性育休取得状況の公表義務が、1,000人超の企業から300人超の企業へと対象が拡大されています。育児休業も、制度として導入するだけでなく実際に従業員が取得するところまでのサポートが、今後さらに求められるようになります。今回の法改正に伴って、人事担当者は従業員のライフプランやキャリアプランを含めて向き合うことが求められるため、人事の役割も大きく変わってくるでしょう。そうした状況の中で、既存のオンプレミス型や自社構築型の人事労務システムでは現場のオペレーションが追いつかなくなる可能性も出てきています」

給付金申請の帳票作成を自動化

 そうした新しい時代の人事業務に対応していくために、人事労務システムのリプレースが必要だ。jinjerが提供する「ジンジャー」はクラウド型人事労務システムであり、今回の法改正に対応した機能を提供しているほか、人事担当者が従業員のライフプランやキャリアプランに向き合うための機能も充実している。

 ジンジャーは、「ジンジャー勤怠」「ジンジャー給与」「ジンジャー人事労務」「ジンジャーワークフロー」といった人事の定型業務をサポートする製品のほか、「ジンジャー人事評価」「ジンジャーサーベイ」「ジンジャー人事データ分析」といったタレントマネジメント業務をサポートする製品を網羅的に提供しているが、これら全ての製品が一つの統合型人事データベース“1データベース”を参照して管理する。そのため、複数の製品を跨る人事業務もスムーズに行える点が大きな特長だ。

 上杉氏は「ジンジャーは来年で10周年を迎えるサービスですが、最初はジンジャー勤怠からスタートしました。その後、ジンジャー給与、ジンジャー人事労務と機能を拡充させ、現在ではタレントマネジメント領域もカバーしています。網羅的に機能を取りそろえつつ、今回の法改正のような就業規則や賃金規定が変わる際にもきちんと対応することで、人事担当者の負担を減らしています」と語る。

 特に人事担当者の負担として大きいのが、給付金申請に伴う届出帳票の作成だろう。ジンジャー人事労務で提供するオプション機能「社保手続きオプション」を導入することで、その負担も大きく削減できる。例えば育児休業等給付金や介護休業給付金に関わる申請書を作成する場合も、集約されたデータベースから各種届出書の自動作成が行える。社保手続きオプションでは4月施行の新給付制度「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」を受け取るために必要な書類作成・電子申請にも対応している。ジンジャーに登録されている人事データを基に、保険者期間算定対象期間や支払基礎日数などの情報を自動転記できる。さらにジンジャー給与の給与データを連動させることで、給付金申請のための帳票作成の負担を大きく削減できるという。

「今回の法改正に伴って、ジンジャー給与もアップデートを行いました。産休や育休を取得している期間は、一定の条件を満たすことで社会保険料の免除を受けられるのですが、人事担当者にとってはこの対象者を従業員ごとに都度確認する必要があり、ミスが発生しやすい業務の一つです。そこで2025年6月にジンジャー給与のアップデートを行い、ジンジャーのデータベース上に登録された休職情報を基に、社会保険料の免除対象者を自動で抽出し、休職者ごとに免除の設定を行えるようにしました」と上杉氏。

ジンジャーの組織診断サーベイを活用すれば、各組織の課題や強みも可視化できる。従業員へのエンゲージメント向上施策などにも生かせるだろう。
人事担当者の代わりに就業規則などを回答できる人事問い合わせAIも実装されており、多様なユーザーが気軽に必要な情報にアクセスできるようになっている。

制度と文化の両面から従業員を支える

 こうした事務作業の負担を軽減することで、人事担当者は従業員のライフプランやキャリアプランに向き合う時間が確保できる。ジンジャーでは前述したようにタレントマネジメントに関連する製品も複数提供している。例えばジンジャーサーベイでは従業員のエンゲージメントやメンタルヘルスのチェックも行える。育児休業を取得する中で組織内での立場が悪くなり、ストレスを抱えているようなトラブルを人事が把握して、コミュニケーションを取るといった対応に生かせる。また、各組織の課題と強みを可視化する組織診断サーベイの機能も提供しているため、従業員へのエンゲージメント向上施策などをデータ分析に基づいて行える。

 上杉氏は「育児休業や介護休業がより広く取得しやすくなることで、年齢やライフステージを問わず、幅広い従業員が利用するようになるでしょう。そのため昨年からジンジャーのUIのリデザインにも取り組んでいます。今年の1月には管理・従業員向けのトップページを刷新しました。多様な年齢層のユーザーが使いやすいよう、アクセシビリティに配慮しつつ親しみやすく分かりやすい画面になるよう、多言語化対応も強化しています。ジンジャー人事労務では社内の就業規則などの情報を人事担当者の代わりにAIが回答する『人事問い合わせAI』機能も提供されており、法改正に伴ってさまざまな人々に利用いただいています。このAIの活用の幅をさらに広げ、集約された人事データをAIが分析して人事担当者に示唆を与えるような機能の実装も検討しています。育児・介護支援は、制度と文化の両面から整えていくことが重要です。当社では育児中の社員が子供を連れて参加できる『ファミリーデー』のようなイベントも実施しており、制度面だけでなく、企業文化の側面からも子育て支援に取り組んでいます。今後も、多様な働き方を支える企業文化の形成に向けて、制度の改善と実践の両輪で取り組み、その実践を通じて得た知見を、お客さまに伝えていきたいですね」と語った。