仕事と育児・介護の両立を支援し、労働者が家庭生活と職業生活を円滑に行えるようにすることを目的とした「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(通称:育児・介護休業法)。1992年4月から施行された育児・介護休業法は、少子高齢化や労働力人口の減少といった社会の変化に対応し、労働者のニーズなども踏まえつつ改正が重ねられてきた。その直近となる改正法が2024年5月に公布され、2025年4月1日と10月1日の二段階に分けて施行される。今回の改正の背景と、企業が講ずるべき対応について厚生労働省に話を伺った。

育児・介護休業法改正のポイント

 少子化が進む一方で、仕事と子育ての両立を願う人々は男女ともに多い。しかし、結婚や出産、子育てと就労を両立する困難さから、その願いを諦めるケースも存在する。そうした働く男女の子育てに関連した課題を解決するべく1992年4月から施行されたのが「育児休業等に関する法律」(通称:育児休業法)であり、その後介護を含めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(通称:育児・介護休業法)に名称変更しつつ法改正が重ねられてきた。本法律によって労働者は一定の要件を満たせば、育児のため休業や休暇を取得したり、働き方を柔軟に調整したりすることが可能になった。実際、現在では約7割の女性が第1子出産後も就業を継続しており、特に正規職員は育児休業を利用することで継続して就業する割合が高い。一方で、女性の育児休業の取得率は8割台で推移しているが、男性は女性に比べて低い水準であり、また取得期間も女性に比べて短期間だ。しかし、育児休業制度への関心は決して低くなく、特に大学生などの若年層では、育児休業を取得して子育てをしたいと考える男性の割合が年々増加しているという。こうした背景から、男女を問わず、育児期の柔軟な働き方が求められている。

 一方で昨今は、家族の介護や看護が必要となる労働者も増加している。総務省の調査によると、家族の介護や看護を理由とする離職者は、50〜64歳の年齢層で多く、特に男性の割合が上昇傾向にある。離職者数自体も、9.9万人(2017年調査)から10.6万人(2022年調査)と増加傾向にある。また家族の介護をしながら就業する者については、346.3万人(2017年調査)から364.6万人(2022年調査)とこちらも増加している。

 こうした労働者が抱える課題に対応するため、2024年5月に公布された育児・介護休業法では以下の11項目の改正が行われた。※が付いた項目は義務、※※が付いた項目は努力義務となる。

【2025年4月1日から施行】
①子の看護休暇の見直し※
②所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大※
③短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加※
④育児のためのテレワーク導入※※
⑤男性の育児休業取得率の公表義務対象拡大※
⑥介護休暇を取得できる労働者の要件緩和※
⑦介護離職防止のための雇用環境整備※
⑧介護離職防止のための個別の周知・意向確認等※
⑨介護のためのテレワーク導入※※

【2025年10月1日から施行】
⑩柔軟な働き方を実現するための措置等※
⑪仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮※

より柔軟な働き方の選択肢

 今回の育児・介護休業法の改正ポイントについて、厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課 課長の上田真由美氏は「子の年齢に応じた両立支援に対するニーズへの対応を強化しました。例えば女性を例に挙げると、お子さんが生まれて1歳になるまでは休業を取得したり、1歳以降は短時間勤務制度を利用したりして育児と仕事を両立する働き方を希望する人が多くいました。一方で、お子さんが成長すると、短時間勤務というよりは所定の労働時間だけれども始業時間などを柔軟に変えられるとか、テレワークで働けるといった柔軟な働き方を選択したいというニーズが多くなります。そういったニーズに対応するのが、10月1日から施行される『柔軟な働き方を実現するための措置等』になります」と語る。
 柔軟な働き方を実現するための措置等において、事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、五つの「選択して講じるべき措置」の中から、二つ以上の措置を選択して講じる必要がある(図参照)。

 労働者は、この事業者が講じた措置の中から一つを選択して利用できる。また事業主は、この柔軟な働き方を実現するための措置の周知・意向確認も個別に行う必要がある。これまでは本人または配偶者が妊娠・出産等を申し出た時に、育児休業制度の個別周知・意向確認を行うことが求められていたが、今回の改正によって子供が3歳になるまでの適切な時期に、前述した柔軟な働き方を実現するための措置についての、個別周知や意向確認を行う必要があるのだ。また子や家庭の状況によって両立が困難となる場合もあるため、個別の意向聴取や配慮を、妊娠・出産等の申出時と3歳になるまでの適切な時期にそれぞれ行うことも新たに求められている。

 上記の柔軟な働き方を実現するための措置等は10月1日から施行の項目だが、4月1日から施行されている「子の看護休暇の見直し」や「所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大」なども、対象となる子の範囲が拡大されている。例えば看護休暇に関しては、施行前は小学校に入学するまでが対象となっていたが、施行後は小学校3年生修了までに変更されるほか、これまで「病気・けが」および「予防接種・健康診断」だった取得事由に「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」といった項目が追加された。これに伴い、名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更された。

「継続雇用期間が6カ月未満の労働者は、労使協定で適用除外とされた場合には子の看護休暇の取得ができませんでしたが、施行後はこの除外規定を廃止しています。これによって入社直後でも看護休暇が取得可能になり、育児と仕事の両立がしやすくなります。この6カ月未満除外規定の廃止は、介護休暇でも適用されます」(上田氏)

介護離職防止に向けた周知を

 4月1日から施行されている本改正法では介護離職を防止するため、雇用環境整備や個別周知・意向確認の義務化なども行われた。上田氏が述べた介護休暇の要件緩和に加え、「介護離職防止のための雇用環境整備」として、事業主は以下①〜④いずれかの措置を講じる必要がある。

①介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
②介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
④自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の制度及び利用促進に関する方針の周知

 加えて、「介護離職防止のための個別の周知・意向確認等」も必要だ。「介護離職をした労働者に多いのが、仕事と介護の両立支援制度を知らなかったというものです。そこで今回の法改正では、介護に直面したことを申し出た労働者に対して、事業主は介護休業制度などに関する周知と、介護休業の取得や介護両立支援制度などの利用の意向確認を個別に行うことを義務付けています。これまで育児休業では周知・意向確認を行ってきましたが、それを介護休業にも拡大したイメージです。また育児の場合は育児休業の計画が立てやすいですが、介護は急に始まることが多く、勤務先の介護休業や介護両立支援制度などを正しく把握できていないケースもあります。そのため、介護に直面する前の40歳頃に両立支援制度の情報提供を行うことも義務化されました。こうした見直しへの対応に向けて、事業主がどういったことを行えばよいのかといった資料集をはじめとした支援ツールを厚生労働省のWebサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html)上に用意していますので、参考にしていただければと思います」と上田氏。

 育児や介護といったライフイベントは、性別を問わずさまざまな労働者に発生する。その場合に仕事と両立し、働き続けられるようにするためにも、事業主は今回の育児・介護休業法の改正に合せた対応を講じていく必要がある。上田氏は「育児はもちろんですが、介護に直面する年齢の人は管理職などの役職に就いていることも多いため、介護で仕事を辞めるとなるとキャリアが途絶えてしまいますし、企業にとっても大きな痛手です。本音では仕事を続けたいと思いながらも離職を選ぶケースもあると思いますので、まずは支援ツールなども活用しながら両立支援に向けた取り組みを、企業として進めていただきたいと考えています」とメッセージを送った。