
未来を創造する力をデジタル×リアルで育む
発達段階に応じた9年間の学びとは
松江市立義務教育学校玉湯学園(以下、玉湯学園)は、玉湯町内の3校が合併して2021年に開校した義務教育学校だ。近年、住宅地の開発が進んだことで世帯数や人口は増加傾向にあり、玉湯学園の児童生徒数も右肩上がりに増加しているという。そうした多様な子供たちが通う玉湯学園で取り組んでいるのが、デジタルとアナログをベストミックスした授業の構築だ。2023〜2024年の2年間リーディングDXスクールに指定され、今年はその学びのさらなる拡大に取り組む同校の教育の在り方を見ていこう。

(右)4年生の国語の授業で作成したリーフレット。玉湯学園は日本HPとの実証実験で一部の電子黒板やプリンターなどを導入しており、左のリーフレットもそのプリンターを利用し印刷した。
基礎基本を重視した段階的な学び
「玉湯学園は2021年の開校以来、『未来を創造する』を教育目標に掲げています。これから社会をたくましく生き抜く力として『自立』『追究』『共生』の三つの力の育成を目指しています。具体的には、子供一人ひとりを大切にする学校、教員の自己成長を大切にする学校、そして保護者や地域を大切にする学校という三つの柱に基づいた学びを進めています」と語るのは、玉湯学園 校長の田中 修氏。義務教育学校である玉湯学園は、小学校教育課程と中学校教育課程の合計9年間を一つの学校で学ぶ。小学校教育課程を前期課程、中学校教育課程を後期課程と分類するほか、1〜4年生を前期ブロック、5〜7年生を中期ブロック、8〜9年生を後期ブロックという三つのブロックに区分けしている。この前中後期ブロックは発達段階に応じた区分けだ。
玉湯学園の教育も、この9年間の発達段階に即している。後期ブロックの8〜9年生になると複線型の授業の在り方が身に付いており、そこに行き着くために基礎基本を大切にしながらデジタルとアナログのベストミックスの授業に取り組んでいるという。
その取り組みの一つが、2023〜2024年に同校が指定されたリーディングDXスクールだ。玉湯学園では「子供の学びの変革」「校務DX化の推進」「地域内外との交流」の三つの柱で取り組みを進めた。特に学びの変革では、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に取り組んだ。
玉湯学園の学びについて教諭の瀬崎邦博氏は「本校では学習者用端末としてWindows端末を採用していましたが、リーディングDXスクールではクラウドを活用した個別最適な学びの実現を目指すため『Google Workspace for Education』をインフラに選びました。また本校では、リーディングDXスクールの取り組みのスタートと合わせて、端末の持ち帰りも始めました。教員の校務でのICT活用も進め、『Google Workspace』を校務の中でも積極的に活用していきました」と語る。

学年に応じたICT活用が進む
去年の3年生の授業では、「Google Classroom」を活用して社会科の授業で活用する資料や、授業の板書内容の写真を共有していたという。この学年を受け持っていた教諭の石飛彰太氏は「総合的な学習の時間では調べ学習が重視されますが、情報過多の時代ですので子供たちが調べやすいWebサイトの情報をGoogle Classroomで共有したほか、参考となる書籍の情報なども写真で紹介していました。今年は1年生を担当しています。年度の始まりはタブレットの使い方を覚えるところからスタートしましたが、本校では9年生がタブレットの電源の入れ方やパスワード入力などをサポートする『タブレット開き』を行うため、スムーズに授業でタブレットを使いやすくなっています」と語る。
また、今年の4年生の国語では学習した内容を基に冊子を作るような取り組みも行った。例えば「ヤドカリとイソギンチャク」という説明文の単元で文章構成を学んだ後に、発展授業として子供たち自身が本を読み、共生する生き物を調べて情報を抜き出し、リーフレットとしてまとめたという。実際に授業を行った教諭の板垣恵美氏は「情報を抜き出す作業や下書きは手書きで行い、その後タブレットで、写真や文章を組み合わせたリーフレットを作りました。手書きのリーフレットでは人によっては文字が小さくなるなど、読みにくくなってしまうケースもありますが、タブレットを活用すれば文字の大きさやレイアウトなどを調整できるため、見栄えの良いリーフレットを作れ、子供たちにとっても満足度の高い取り組みになったようです」と振り返る。
4年生の総合的な学習の時間では、玉湯町のほぼ中央を流れる玉湯川の環境をテーマにしており、実際に川の水質を検査キットを用いながら調べ、Google Classroomでその数値を共有しながら共同作業で地域学習に取り組んでいるという。
こうした各学年での学習を経て、後期ブロックの8〜9年生では複線型の授業をスムーズに行えるようになる。また、玉湯学園では5〜6年の授業を教科担任制にしており、今年の6年生は歴史の授業で複線型の授業にチャレンジしている。
校務のDX化では、Google Classroomを活用した情報共有のほか、「Googleスプレッドシート」を日報代わりに活用することで、朝礼をなくし、情報共有を円滑化している。また公開授業でもペーパーレス化に取り組んでおり、来校者にはQRコードで情報を閲覧してもらう方法に変更するなど、公開授業のDX化も実現している。
「松江市内、島根県内のさまざまな先生にこの取り組みを伝え、広げていきたいと思います。また今後は、議事録のまとめ作業などを生成AIが行えれば、さらなる校務DXを目指せるでしょう。教育と校務の両側面から、玉湯学園の教員全体でうまくICTを活用できるよう、取り組みを進めていきたいですね」と、玉湯学園 教頭 和田律央氏は展望を語った。